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短編小説/君のおっぱいが見たい・推し活編③


 
 法定内の金融会社はサラリーマンなら年収の3分の1は貸してくれる。
 となれば3000万の年収がなければ1000万借りられない。
 そんだけ金ある奴が借りるわけねーだろ!
 こっちは今すぐ必要なんだ!
 しかしウ○ジマくんみたいな所はさすがに怖い。 
 けどハルコは多分そうしてでもDVDを買って欲しいのだ。
 
 「ハルコが好きじゃないの?」

 そう問われてる。
 もちろん好きだ。ガチ恋してる。だから今まで応援してきた。
 じゃあどうするんだよ。やるの?やらないの?
 答えが出ない。
 悩みながらも国崎の体は勝手に動き出す。
 何か売れそうなものはないかと自然と部屋を漁っているのだった。

 非難轟々でもハルコはおっぱいキャンペーンを取り消さなかった。
 その本気さが国崎にこそ強く伝わってくる。
 誰かはやってくれる。ハルコはそう信じているのだ。
 そしてそれはきっと自分に言ってるのだ。
 なぜなら「誰でもいい」ではないからだ。
「おっぱいキャンペーン」の参加には条件がある。

①蝶人ハルコのCD とDVDを全作品購入していること
②蝶人ハルコのグッズを10点以上所持していること
③蝶人ハルコとのチェキを20枚以上持っていること

Youtuberみたいな話題作り目的の小金持ちが押し掛けないためだ。
つまりハルコも「誰でもいい」わけではない。
その辺の見知らぬ奴に簡単におっぱいを見せたくはないのだ。
ハルコを愛するおれに救ってほしいのだ。
そうなんだ。そうなんだ!
ゲーム機とソフトを売って手に入れた16000円を握りしめて
『おれやるから』とオタ仲間に送った。

翌日に銀行のキャッシュローンを使って限度額いっぱいまで借りた。
800万。
さすがに操作している時は手が震えた。
湧き上がる「ほんとにいいのか?」に染まりきる前にやりきった。
しかし地下アイドルである「蝶人ハルコ」のDVD を取り扱っている店は
ごく限られている。そもそもCD 店自体がもうない。
一日に18店舗回って買えたのは36枚。
36枚。たったの。
もうキャンペーンのことは知れ渡っているので、店員がニヤニヤしてる。
でもそんなの関係ねえ。こちとらもう金はあるんだ。
三日間の有給を使って首都圏内の大都市も回った。
とはいえ買えたのは70枚弱。トータルで100枚ちょっと。
全くもって埓が明かず、交通費もバカにならない。
どうしようかと思いあぐねていた時だった。

『国さん。ほんとにやるんですか?』

 オタ仲間のひとりから連絡が来た。

『もうやってる。でもDVD 全然売ってない』

『国さんやるなら協力しますよ。他の奴なら嫌だけど
 トップオタの国さんならハルコを任せられます』

 まさかのオタ仲間からの援護。続々と連絡が来た。
 みんなも手分けして探してくれることになったのだ。
 しかし全然見つからない。仕方なく運営事務所に聞いてみた。
 
 「2300枚ならありますけど。自宅に送ります?」

 電話に出た男が言った。
 
 「えっ。いいんですか?」
 「はい。住所教えて頂けます?」
 「あの、在庫って2300枚だけですか?」
 「ええ」
 「あの、あとどこで手に入りますかね」
 「さあ。お店じゃないですか。じゃあ前払いでお願いします。
 入金が確認できたらそちらにお送りしますので」

 対応した男は丁寧っぽい口調で含み笑いしながら電話を切った。
  
 「元々3000枚出荷されてないんじゃないですか」

 報告をした仲間のひとりが言った。

 「単なる話題作りだったんじゃないですかね。あれ以来ハルコの名前
 ずっとトレンド入りしてるし、配信の視聴数もスゲー増えましたし。
 そもそもそっちが目的だったんじゃないんですか」
 「じゃあおっぱいキャンペーン最初から嘘だったってこと?」
 「普通に考えたらそうですよね。アイドルがそんなことしないですよ」
 「でも2300枚はあるってよ。あと600枚市場に出てないのかな」
 「ないんじゃないですかね。新作なのにネットにも全然ないですし。
 ただの売名ならそっちの方がいいと思いますよ。
 元々3000枚以下しか生産されてなくて、それに近い枚数だけ買わせるのが
 狙いだったのかもしれませんよ。そうなるとほとんど詐欺ですけど…。
 ともかく買わせるだけ買わせて、結局なしみたいなことも有り得るんで。
 今回は金額も大きすぎるし、国さんも止めておいた方がいいですよ」

 どんどん引いて行く仲間の熱。募ってゆくハルコや運営への不信感。
 だが国崎は諦めきれなかった。

 誰も挑戦しなかったらハルコが悲しむ。
 見捨てられたと思ってしまうかもしれない。
 正直ハルコのおっぱいが見られるのなら見たい。
 そりゃそうに決まってる。
 けどそれ以上にハルコの味方であると証明したい。
 これでキャンペーンが不成立になったらハルコはもっと叩かれる。
 それを避けたかった。
 なんとしてもやりきってハルコとファンの絆の強さを世に知らせたい。
 嘘つきアイドルじゃないとみんなに宣言したかった。
 こうなったらあと500枚生産してほしいと頼むしかない。
 ともかく今あるDVD を手に入れるために国崎は銀行に向かった。



 

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