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桜尽くしと悪事三昧その2(司法試験予備試験令和3年刑事訴訟法)

※今回も解説主体にしたので面白くないでせうよ(明治の文豪調、余り面白くなので、暇を見つけてエッセイと小説を書くことにしました。乞うご期待)

お昼ご飯の桜そばとひつまぶしが京家町子さんによって振る舞われた後、少し雑談をして、午後の勉強会が始まりました。「のれん」の室内は十分に暖かく、通常であれば、例えば、たぬきが講師を務める「日本どら息子協会」などでは、睡魔に襲われコクリコクリするどらちゃん(※注 ドラえもんではなく、どら息子達のこと)が続出するところですが、さすが有志女子学生による勉強会、居眠りする人はいません。では、早速授業風景をのぞいてみましょう。

(令和3年司法試験予備試験刑事訴訟法)
【事例】 令和2年10月2日午後2時頃,H県I市所在のマンション内にあるV方に2名の男が侵入し,金品を物 色中,帰宅したVと鉢合わせとなり,同男らのうち1名がナイフでVの腕を切り付けた上,もう1名がV の持っていたバッグを奪うという住居侵入,強盗傷人事件が発生した。Vは,犯人らが立ち去った後,直 ちに110番通報し,同日午後2時20分頃,制服を着用したI署の司法警察員PとQがV方に到着した。 Pらは,Vから,犯人らの特徴と奪われたバッグの特徴を聞き出した上,管理人に依頼して同マンション の出入口の防犯カメラ画像を確認した。その結果,同日午後2時1分頃に犯人らと特徴の一致する2名の 男が走り去っていく様子が映っており,そのうち1名は被害品と特徴の一致するバッグを所持していた。 その後,Pらは,同男らの行方を捜した。 同日午後4時頃,Pらは,V方から直線距離で約5キロメートル離れた同市内の路上で,犯人らと特徴の 一致する甲及びもう1名の男を発見した。その際,甲は,被害品と特徴の一致するバッグを持っていた。 そこで,Pは,甲らに対し,「I署の者ですが,話を聞きたいので,ちょっといいですか。」と声をかけた。 すると,甲らがいきなり逃げ出し,途中で二手に分かれたことから,Pらは,前記バッグを持っていた甲 を追跡した。甲は,同バッグを投棄して逃走を続けたが,Pらは300メートルくらい走ったところで甲 に追い付き,同日午後4時3分頃,①Pが甲を刑事訴訟法第212条第2項に基づき本件住居侵入,強盗 傷人の被疑事実で逮捕した。もう1名の男は,発見には至らなかった。 甲は,同日午後4時30分頃からI署で開始された弁解録取手続において,本件の主任捜査官である司法 警察員Rに対し,「私がV方で強盗をしてバッグを奪ったことは間違いない。ナイフでVを切り付けたのは, もう1人の男である。そのナイフは,警察に声をかけられる前に捨てた。捨てた場所は,地図で説明する ことはできないが,近くに行けば案内できると思う。もう1人の男の名前などは言いたくない。」旨述べた。 同日午後4時50分頃,弁解録取手続が終了し,Rは,直ちに甲にナイフの投棄場所を案内させて,ナイ フの発見,押収及び甲を立会人としたその場所の実況見分を実施しようと考え,捜査員や車両の手配をし た。 同日午後5時頃,出発しようとしたRに対し,甲の父親から甲の弁護人になるように依頼を受けたS弁護 士から電話があり,同日午後5時30分から30分間甲と接見したい旨の申出があった。Rは,S弁護士 が到着し,接見を終えてから出発したのでは,現場に到着する頃には辺りが暗くなることが見込まれてい たことから,S弁護士に対し,今から甲に案内させた上で実況見分を実施する予定があるため接見は午後 8時以降にしてほしい旨述べた。これに対し,S弁護士は,本日中だと前記30分間以外には接見の時間 が取れず,翌日だと午前9時から接見の時間が取れるが,何とか本日中に接見したい旨述べた。Rは,引 き続きS弁護士と協議を行うも,両者の意見は折り合わなかった。そのため,②Rは,S弁護士に対し, 接見は翌日の午前9時以降にしてほしい旨伝えて通話を終えた上,予定どおり甲を連れて実況見分に向か った。それまでの間,甲は,弁護人及び弁護人となろうとする者のいずれとも接見していなかった。
〔設問1〕 ①の逮捕の適法性について論じなさい。
〔設問2〕 ②の措置の適法性について論じなさい。ただし,①の逮捕の適否が与える影響については論じなくてよい。

(満腹の深瀬先生)
刑法の問題は、難問奇問でしたね。誰が「共犯の不作為」なんか好きで勉強しとるでしょうか。それに引き換え、刑訴は何となく書けそうな気がしますね。ただ、簡単そうに見える問題ほど、出題者は原理原則を書いて欲しい場合が多いので要注意です。
まず、刑事手続上の身体拘束、つまり、逮捕についての大原則はどこに書いてありますか。三条茜さん
(三条さん)
憲法33条で、「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。」となっています。
(満腹さん)
そのとおりですね。現行犯人以外は令状が必要ですね。現行犯人の場合、逮捕者がその場にいるのですから。犯罪と犯人が、逮捕者に明白ですよね。だから、間違って逮捕(誤認逮捕)されることはない。だから、裁判官の審理や判断は必要がないということです。
まず、令状主義は最高規範である憲法33条から始めなければいけません。仁義みたいなものです。ところで、現行犯人は刑訴法何条で規定されていますか。料理の腕が一流であることを証明した京家さん。ついでに準現行犯人も良いですか。
(京家さん)
刑訴法212条1項と2項です
刑訴法212条1項
現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
同条2項
左の各号の一にあたる者が、罪を行い終わてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
一 犯人として追呼されているとき
二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる凶器その他の物を所持し
  ているとき
三 身体又は被服に犯罪の顕著な証拠があるとき
四 誰何されて逃走しようとするとき

(満腹さん)
そのとおりです。ところで、刑訴法212条2項では、「罪を行い終わってから間がない」と、時間の幅をとり、時間的制限の要件を緩めています。「これでいいの」って感じですが、この緩和を縛るものとして、2つの制限を設けている。一つは、犯人として「明らかに認められる」ためには、2項各号の要件に該当しないとだめよとまず言っている。本問ではこの点はすんなりいけそうです。最大の難所は、Pが犯行から2時間してから捕まっている。これが、「罪を終わってから間がないと明らかに認められるとき」と言えるのかどうか。実は、これが2つ目の制限で、「時間的近接性と犯人の明白性を求めるもの」(刑事訴訟法判例百選(第10版)12準現行犯逮捕 丸橋昌太郎)と言われている。
 抽象的な話になってしまいましたが、ここは、原審のように警察の捜索状況が続いていたという事を取り上げても、また、2項各号に複数該当することを取り上げてもかまいません。
 次に接見指定に入りたいと思います。接見指定の条文を読み上げてくだあい。沓脱(くつぬぎ)さん
(沓脱さん)
刑事訴訟法39条3項
検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第1項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。
(満腹たぬきさん)
接見指定は、学術的には論争のしやすい問題でありますが、実際はほとんどされていないでしょう。なぜこんな問題を出題したのか、まあ一通り勉強しておけということでしょうか。ただ、先程の準現行犯逮捕もそうですが、設題を易しくして、現場で条文から考えても解答はひねり出せるようになっています。出題者の親心を感じられます。さてさて、今回、沓脱さんとともに、初回参加のお父さんがスーツのオーダーメイドをされているとうかがっている四月一日(わたぬき)さん。お父さんにスーツの件でいずれお世話になるとお伝えください。余計でしたね。本問に戻り、直感的に考えて、あくまで、直感で結構ですが、この設問2の結論どうなると思われますか。
(四月一日さん)
分かりました。父にお安くするように頼んでおきます。ところで、直感ですが、本件での接見指定の理由は、捜査、特に「切りつけたナイフ」の捜索というか、その発見と押収ですよね。その場所の実況見分もしようと言うのですから、接見を認めてしまうと「捜査に顕著な支障」が出てしまうので、Rの接見指定は認められると思います。
(驚きびっくりたぬきさん)
直感的と言いつつ、平成11年判決の「捜査に顕著な支障」という要件まで引用しているのは、この深瀬びっくり驚き、桃の木です。結論は、接見指定はできますよとなる。これは誰も異論ないでしょう。捜査の支障は、判例を知らなくとも、頭をこねくり回すと何とかでてきような気がする。設題者の親心かな。ほんと親切なのだからと思ってしまうと、実は大きな罠が隠されている。その罠とは、ずばり、餅崎さん。
(餅崎さん)
初回接見です。
(上機嫌のたぬきさん)
そうです。そうです。答案で初回接見に触れるか、触れないかで大きく点差がつくところであります。設題者は、親心いっぱいと思っていましたが、意地悪でした。少し判例を眺めながら詳しく解説していきましょう。
設題の趣旨にあるように、接見指定については、平成11年3月24日判決(以下「平成11年判決」という。)と平成12年6月13日判決(以下「平成12年判決」という。)があります。
まず、平成11年判決で、接見交通権は憲法34条前段に由来するものであり、弁護人から接見の申出があれば、原則としていつでも接見の機会を与えなければならないと言っています。制限する場合、つまり、刑事訴訟法39条3項本文にいう「捜査に必要があるとき」とは、「捜査に顕著な支障」が出る場合と言っています。本問の場合も、さつき四月一日(わたぬき)さんが述べたようにこれにあたるでしょう。だから、Rは接見指定ができるという話になる。
そこで、平成12年判決の登場です。
そのまま判決を読んでいただいた方がよく分かると思われますが、冒頭を要約しますと、まず、接見指定は、弁護人と協議しなさいよという。そして、39条3項ただし書を引用して、初回接見の話に入ってくる。判例を引用しましょう。
とりわけ、弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者と被疑者との逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとっては、弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、直ちに弁護人に依頼する権利を与えなければ抑留又は拘禁されないとする憲法上の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。
 この部分を何らかの形で触れる。接見指定はOKだけれど、短時間の接見までも禁止してよいの。という悩みをどこかで書く。結論は「仕方がないよ。」でも、後の解答例で述べるように、「何とかできたんじゃない。」どちらでもよいと思います。
 これが終わると休憩ですね。餅崎さんが桜あんの和菓子を提供してくれた上、抹茶もたててくれるそうですよ。楽しみです。
最後に、本問について少々述べておきますよ。本設問では、甲は弁解録取まで終えたことになっている。ここは平成12年判決で、
被疑者の引致後直ちに行うべきものとされている手続及びそれに引き続く指紋採取、写真撮影等所要の手続を終えた後、たとい比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時又は近接した時点での接見を認める措置を採るべきである。
とあり、弁解録取手続は、刑訴法203条1項により、「被疑者の引致後直ちに行うべきものとされている手続」と解する人が大半ですから、それをすでに済ませているという意味で、問題文に記載したのでしょう
(なお、ここでは刑訴法203条1項に含まれると言いましたが、より詳細な議論については、法学教室320号「逮捕直前の初回の接見と接見指定」大澤裕ほかをご覧ください。)
(解答例)
設問1について
1 憲法33条は、誤認逮捕という不当な身柄拘束を回避させるため、逮捕
 については裁判官の審理判断が必要であるとする令状主義を原則として定
 めるが、しかし、現行犯逮捕については、犯罪及び犯人が、逮捕者にとっ
 て明白なため除外している。
2 刑事訴訟法もこれを受けて、現行犯人には逮捕状を必要としていない 
 (同法213条)。さらに、刑事訴訟法は、現行犯人を「現に罪を行い、又
 は現に罪を行い終つた者」(同法212条1項)と規定しているのにも関
 わらず、同条2項で、「罪を行い終わつてから間がない」と時間的制約を緩
 め、そのような者も「現行犯人とみなす」としている。
3 しかし、同項で「現行犯人」とみなされるためには、同項各号に該当し
 た上、「罪を行い終わつてから間がないと明らかに認められ」(明白性)な
 ければならない。ここでいう「明白性」とは、時間的近接と犯人の明白性
 を指すものであるが、逮捕者の視点から判断すべきものである。
4 本設問の場合、準現行犯人逮捕(同法212条2項)であるから、同項
 各号の要件に該当するかどうか検討すると、甲は被害品と一致するバック
 を所持していたのであるから、同項2号に該当するとともに、Pに誰何さ
 れて逃走したのであるから、同項4号に該当する。
5 ところで、Pが甲を逮捕したのは午後4時3分頃であるから、午後2時
 頃の住居侵入、強盗致傷事件という本件犯行の発生から2時間余経過して
 いるので、時間的近接性がないように思えるが、Pは本件犯行現場に臨場
 してから捜索を継続していたのであるから時間的近接性はある。また、甲
 は犯人の特徴と一致していること、同項2号、4号に重複して該当してい
 ることから、犯人であることが明らかである。
6 よって、同項の明白性の要件が満たされ、甲は同項により現行犯人とみ
 なされるので①の逮捕は適法である。

説問2について
1 憲法は34条前段で、抑留又は拘禁されないために弁護人依頼権を保障
 している。この規定が、実質的な効力を持つためには、被疑者及び被告人
 が弁護人選任権のみならず弁護人と接見する機会を与え、嫌疑を晴らし、
 身体拘束を解放する手段を協議する事を保障している規定と解さなけれ
 ばならない。
2 その趣旨を受けて、刑事訴訟法39条1項は、接見交通権を規定し、被
 疑者及び被告人は、原則、いつでも弁護人又は弁護人となろうとする者と
 接見できると規定する。
3 しかし、同条3項では、「捜査のため必要があるときは」、接見の日時を
 指定できると規定する。この規定は、接見交通権に制限を加えるものであ
 る以上、「捜査のため必要があるときは」とは、「捜査に顕著な支障」がで
 る場合に限りと解さないと違憲である。
4 本件では、犯行で使われた凶器のナイフの捜索と押収については、犯行
 を立証する証拠としては不可欠であり、日が暮れてからの捜索では困難な
 ので、「捜査に顕著な支障」が出る場合に該当する。
5 ところで、「捜査に顕著な支障」が出る場合であっても、憲法39条3項
 ただし書にあるように、「被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限す
 るようなものであってはならない」し、特に本件のように逮捕直後の初回
 接見の場合、弁護人を選任するとともに、防御のための最初の協議である
 ことを考慮し、短時間の接見でも認めなければならない。
6 本件の場合、Rは、凶器の捜索と実況見分をセットとして考えている
 が、実況見分は後日でも可能であり、凶器の捜索だけを行うとすると、短
 時間の接見は可能であったかもしれない。そのことを考慮しないで行われ
 た②の措置は違法の疑いがある。
 



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