見出し画像

【ショート】みどり溢れる

緑のキャンパスを歩く。

木漏れ日の中、感性が澄まされていくのを感じる。
研ぎ澄まされるという表現では合っていない気がする。
それよりももっと力の抜けた、自分と自然の境界が曖昧になっているような感覚。
私はその感覚が好きだ。

社会人になってはや6年。
東京で就職してまず驚いたのは、朝の通勤電車。
みんな毎日毎日、見知らぬ人とぎゅうぎゅう詰めになりながら、職場に向かっていく。
もちろん私もその一人。
誰だって満員電車は好きじゃないと思うけど、乗るたびに、みんなが心を殺してこの空間にいると感じる。
誰のせいでもないんだけど。

高い建物に囲まれて空が狭い。
職場近くの公園は、お昼休み、束の間の安息を求めて疲れたサラリーマンが大集合。
大都会の中にぽこっと現れるこの公園は、整備されていてとてもきれいだけど、"造られた自然"感がすごい。

それでもみんな、緑を感じたいんじゃないだろうか。
都会はとっても便利だし、人工的な美しさがあるけれど、ずっとずっと生きていくには息苦しい。

生まれ故郷は四方が山に囲まれた海無し県。
日常の風景にはいつも山があった。
木々の間を歩くときのあの匂い。
土の匂い。葉っぱの匂い。空気の匂い。

普段忘れちゃってるけど、いつでも思い出したい。
みどり溢れるあの匂い。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?