経済力がないせいでモラハラ夫と離婚できない主婦の日常②【超ショートショートまとめ】
夫の剃り残しのある赤い肌についた食べかす。
それをお義母さんが骨と血管の浮いた手で取り、
針仕事中に糸の端を舐めて
尖らせるように紫色の唇で咥えてから、
自分の口に入れた。
肌を泡立てているとお義母さんと目が合って、
より体の奥深くから寒気を覚える。
お義母さんの眼差しには女としての優越感が滾っていた。
〈玉中和子のプロフィール〉
真夜中に洗面所で化粧しているところを
お義母さんに見つかってしまった。
「こんな時間にどこへ行くの?」
「出かけません。ただ、たまには化粧がしたくて」
「嘘が下手ね。どうせ夜遊びでしょ?」
お義母さんは信じてくれないが、本当だ。
表で会う友達もいないから、
もう1年近くおめかししていなかった。
クレンジングオイルを手に取る。
晩ご飯におでんを出すと、
お義母さんは怪訝な顏をして立ち上がり、
家中のゴミ箱を漁り始めた。
夫がリクエストしたのはついさっきなのに
おでんを作れるはずがないと、
コンビニおでんの容器を探しているのだろうが、残念。
表のゴミ置き場に捨ててある。
「ゴミ箱が臭いわ」
無茶な文句を言っている。
洗濯物がハンガーから外れてベランダの床に落ちていた。
砂のついたブラジャーを拾おうと屈むと、
腰が痛んで動けない。
柵の隙間から青空に浮かぶ月が見える。
かつても私は、
嫁ぎ先まで向かう車中から月を見上げていた。
月だけはあの頃と全く変わらない。
柵が鉄格子のように思える。
玉中和子は晩年に夫と姑に先立たれ自由になるも、
寂しさから2頭の犬を飼い、
夫と姑の名前をつけた。
最期は脳梗塞で急死し、
飢えた犬たちに死体を食われて骨だけになった。
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