【超ショートショート】「甘やかす一族」など
「甘やかす一族」
「聞いて聞いて!」
今日も息子は帰宅するなり子犬のように駆け寄ってくる。
もう中学3年生になるのに、いつまでも甘えん坊なんだから。
息子は「今日は1年生の男の双子を呼び出してエッチさせたんだ!」と言った。
「面白いよねぇ。近親相姦ホモセックスさせるのって」
私は息子の頭を撫でた。
「能力主義の末路」
鼻先にぶら下げた人参(自分の理想像)を追い続ける馬(能力主義社会の人間)が、
知らず知らずの内に崖(個人が各々の能力向上に集中する余り見過されている、インフラ危機などの社会全体の問題)に向かっている。
崖は広大で、最も跳躍力の高い馬(スーパースター)
でさえ超えられはしない。
「自己表現への誠意」
「売れ線の曲なんか書きやがって」
俺の一番のファンだった男が、俺の首元にナイフを突き立てた。
「バイト辞めたいんだ。分かってくれ」 必死に説得する。
「商業主義に墜ちるお前など見たくない。死ね」
俺の一番のファンだった男、つまり俺自身はナイフを刺しこんだ。
「「…これでいい」」
「リセマラ」
自死を決断した。
私を嘲笑する声を背に芝生の丘を下り川へ向かう。
蹴りながら進む川岸の玉砂利に少しずつ飛沫が混じっていく。
そして私は、無数の枯れ葉が浮かぶ川に身を投げた。
直後、私は岸に上がった。
水の滴る体は全くの別物になっている。
さぁ、新しいアバターで皆に挨拶しよう。
「腰の激痛」
ぎっくり腰を起こした私は、冷や汗を廊下に落としながら四つん這いで自室に向かった。
(お願い、間に合って)祈りながらドアノブに手を伸ばす。
しかし指先がドアノブに触れるのと同時に、私は背後から腰を掴まれた。
振り返ると、近頃発情期に入っているタケちゃんが目を血走らせていた。
「無関心」
地主は窓辺に立ち、嵐の吹き荒む街を見下ろした。
横殴りの雨が街を白く染め、風に乗った飛沫が波浪になって建物の屋根をなぞっていく。
街の一角にある畑では、小作人が倒れかかったテントと格闘している。
地主はその必死な様子を面白がっていたが、やがて飽きて温かいベッドの中に戻った。
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