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エーデルワイスの魔法書店 春〈自分の直感を信じて〉第三章

第三章 対価

青年は、急いでエーデルワイスの元へ本を持っていきました。エーデルワイスはまた本を読んでいましたが、今度はすぐに青年に気づき、椅子を降りました。彼女は本を受け取り、数ページめくって青年に返しました。彼が驚き、
「お金は...?」
と言いかけると、エーデルワイスは微笑み、
「この店ではお金をいただいていません。代わりに、お客様の魔力を分けてもらっています。」
と言いました。青年はまた驚き、
「魔力⁉︎」
と聞き返してしまいました。
「はい。やり方を説明しますね。」
そう言って、エーデルワイスは青年の前に立ちました。
「まず、目を閉じてください。」
エーデルワイスが言いました。青年は目を閉じました。
「次に、頭の中でその本の内容を想像してください。」
エーデルワイスは続けます。
「自由で良いですよ。」
彼女がそう言ったことで青年の想像は広がりました。そのとたん、彼の中で『何か』が爆発しました。その『何か』は彼の中を不思議な力を発しながら温めていきました。それとほぼ同時に、今度は奇妙な感覚が彼の体を駆け巡りました。その時、エーデルワイスが小さく歓声を上げました。彼が恐る恐る目を開けるとそこには、小瓶に不思議な青い光を入れているエーデルワイスがいました。
「あなたの魔力は、綺麗ですね。」
彼女はそう言って、青年の魔力を机の隅に置きました。青年は今まで気がつきませんでしたが、その机にはいくつもの光が入った小瓶が置いてありました。どれも美しい色をしています。すみれ色や、桜色。大空のように美しい空色や、深海のように暗い青もありました。その中でひとつ、ひときわ目を引く小瓶がありました。吐き気を催すような、深く、けれども透き通った、気味の悪い緑色の魔力でした。小瓶を見つめる彼に気づいたエーデルワイスが、少し悲しそうに言いました。
「その魔力を持っていたお客様は、人を服従させ、苦しめるような呪文の本を買っていかれました。私自身、そんな本が店にあることに驚きました。もっとも、私はそんな本を用意した記憶もないので、先代の仕業でしょうけど。その後、すべての本をチェックしました。そうしたら、まぁ…同じような本が2、3冊出てきましたよ…。」
はぁ、と息をつくエーデルワイス。そんな表情も可愛らしいと思ってしまった自分に、青年は無性に腹が立ちました。

 本を選び、支払いを終えた客がすることは、帰ることのみです。ここで初めて、青年は自分が道に迷って思い出しました。けれど今の青年は、ここへ来る前の彼とは違うのです。買った本をしっかりと抱え、彼は歩き出しました。自分の直感を信じて。