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エーデルワイスの魔法書店 秋〈心の声をきく魔法〉第一章

第一章 売れない占い師

「はぁ……。」
私の吐いたため息は、瞬く間に夜風にさらわれて遠くに行ってしまう。それでも、私は憂鬱な気持ちを抱えながら、夜の街を歩く。最近は、いつも同じ道を歩いている。母が、道ゆく人を占っていた場所。母は、この道を通る人たちを占って、幸せになれるアドバイスをしていた。恋人といい関係を築ける方法とか、喧嘩してしまった友達と仲直りする方法とか。アドバイスを受けた人たちはみんな母にお礼を言いに来ていた。母は、占い師と言うよりも、その人の悩みや人間性などを「見る眼」があった。

私は、そんな母に憧れて占い師を名乗るようになっていた。けれども、私には母のような眼はない。相談者の話し方や癖、表情などを見て、アドバイスをしようとしたけれど、毎回言われるのは「お母さんのほうが良かった。」


母のように、あの占い師のように。そう思えば思うほど、その「占い師」は遠ざかるばかりで。疲れてしまって、最近はこうしてぶらぶらと街を歩くだけ。

目的もなく街を歩いていると、遠くの方に明るい光が見えた。
「行って……みよう。」
ふと、言葉が出た。どうせあてのないものだ。行ってみよう。

光の正体は、書店だった。
『エーデルワイスの魔法書店』という名らしい。魔法書店なんて聞いたことがないが、面白そうだから良いだろう。わくわくしてくる。

最近はお客さんも来ない、退屈な毎日。わくわくする事なんてなかった。でも、元の私はこんな性格なのだ。好奇心が旺盛で、わくわくすることが好き。お店に入っていないのにこんなにも気持ちが高まるのは、ここが魔法書店だからだろうか。もしかしたら、関係ないのかもしれない。

私は戸惑うことなくドアを押し、中へと入りました。