七夜物語
川上弘美さんの、
七夜物語(ななよものがたり)上下2巻を読みました。
私が子供の頃一番好きだった系統、
なのに、
ネバーエンディング・ストーリーのようでもなし、銀のほのおの国のようでもなし、
妙になじみを感じるのにかつて感じたことの無い世界、見たことのないファンタジーでした。
児童文学なんですよね。
漢字にルビがあるので間違いないですが、
私の行った図書館では一般書籍の棚にあり、
それは読者層と内容を考えると、ナイス判断。
でも、子供が出会えたら素敵だとも
思います。
もし私が主人公たちと同じ歳の頃に出会えてたら、がっつり物語世界に入り込めてただろうし、
出版年的に間に合っていた子供に、勧められなかった自分の不明が口惜しいです。
ともかく、いつ出会っても、何回再会しても確実に「いい本」で、
むしろ川上先生がこの話を書いた年齢に近づいた、今 大人の私が読むからこそ、
冒険をする子どもたちの心の動きの全てを本当に愛おしく感じられて、
作者の思いは、より伝わる気がします。
極端に言うと、
どのページを持ってきても、
小学生の国語の授業を組める気がするし、
大学受験の問題も作成できる気がする。
それだけの中身と、素敵な言葉に溢れた本です。
証拠に、今下巻の1ページをランダムに開いて、と…
「最初はまじりあってたのに、それがばらばらにされて、かたよっちゃったから、ものすごうくつまらないことになっちゃったんだ。
ぼくたち、こうやって生きてても、なんだかすかすかした気分なんだよ。
こんなに寒そうな時も、そして逆に、ばかげてきれいな時も」(本の中の世界のこどもの語り)
…深いですね。
人間は単純でないはずなのに、
自分の要素をバラして、整理して、
特化した個性を戦略的に表示しておかないと生き残れない、
そんな辛さを寓話的にすくい上げてくれてるんですかね。
また、あるページでは鋭い警告が、
別のページでは人類全体に対する思いやりの言葉が、
次々と現れます。
まあ、そんなに深読みしなくても、
子供の成長が心を打つのに身を任せたり、
可愛らしさにプルプルしたり、
すぐにお腹をすかせる子どもたちの目の前に次々と現れる、美味しそうな食べ物たち(特にさくらんぼのクラフティー)に心奪われたり、
そんな純粋な楽しみもたくさんです。
いや、川上先生の描く食べ物は、
なんだろう、
いつか出会える事を夢見てしまう魅力、があります。
その一点だけとっても、充分魔法にかかれます。
全ての子どもたち、そして子供だった大人たちの見る夢を、
深い幸福感と、かすかな切なさに包みこむ本、
ということで間違いないかと思います。
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