見出し画像

【SSF】キノコです。生える場所を間違えました。

🍄
ごめん。本当ごめんて。
親の胞子の最後っ屁である僕が
まさかこんなところから生まれるなんて。
僕だって夢にも思わなかったよ。

初日

朝という時間帯らしい。
宿主が目覚めた。
宿主と目が合う。
宿主は僕を二回見た。

え?僕生き物に生えてるやん。
パパ―!
ママー!
っていうか親―!
え?なんでー!?

あっ、あっ、そんな変な触り方しないで💦
くすぐったいよぉ💦

その日から宿主と僕との奇妙な生活が始まった。

宿主は忙しそうだ。
何やら四角いものを見つめながら
ぶつぶつ呟いて齷齪手という部位だけを動かしている。
時々、「チッ」という音が聞えたり「すみません」という
声が聞こえる。
というか、キノコである僕が音とか声を知覚して
認知できるって正しいの?
なんか宿主の性質に寄ってないか?

あ、なんかとりあえず終わったらしい。

え?水に入るんすか?
こ、怖いんですけど💦

あ、なんか温かい。
気持ちいいかも!

あ、あっ、だから、その、
変な触り方しないで!
「プルプルするー」じゃないのよ💦
くすぐったいってば💦

そろそろ「寝る」時間みたい。
宿主さんお疲れ様でした。
僕も寝ますね。

二日目

🍄2「おっす」

!?

宿主さん?

🍄2「おっす!無視すんなよ」

え?

🍄1「あ、おっすです」

増えてるじゃん!!

あ、宿主起きた。

「増えてるじゃん!!」

うん、それさっきのワイのリアクションまんまやで。
そらそうなるわな。

え?また寝るの?
昨日頑張ってたからなぁ。

🍄2「ここってなんなの?」「君先輩?」

もう一匹?が話しかけてきた。

🍄1「そうみたい。本当は土とか木とかから生えるんだろうけど、
僕が目覚めた時には、この宿主の"右腕"ってとこにいたのよ」

🍄2「はぇ~。まぁどうでもいいや。」

🍄1「(…何コイツ。だったら聞くなや。」

ポイーん♪
ポイーん♪

あ、あ、宿主起きてる💦
ってか今度は爪弾いてる💦
やめて!やめて!

🍄2<うひょーい!
🍄2<たーのしー!

🍄1「(…新人…じゃない、新キノコ楽しんでるやん。」

それにしても動かない宿主だな…。
大丈夫かな?
心配になってきたヨ。

三日目

「ギャー!!」

物凄い叫び声で目が覚める。

🍄1 え?
🍄2<え?

🍄1🍄2<<ク、クリーチャーじゃねぇか(ハモる

宿主の「顔」と呼ばれる部位の上の方に
我々の体積の10倍以上はあろうかという
新キノコが生えている。

「いよぉ、先輩たちぃ!ごきげんかぁい!?」>🍄3(別名クリーチャー

怖い。こっち見ないでほしい。

🍄2<「てめぇ!新人のクセになんだその口の利き方はぁ!?」
🍄2<「ちょーしこいってっと酢でしめんぞ!くぉらぁああ!!」

やめて💦ケンカはやめて💦

「言ってくれんじゃねぇかチビ助よぉ」>🍄3(別名クリーチャー

やめて💦やめて💦
我々は手も足も出ない生き物なのだから💦
せめて静かに生きようよ💦

宿主もパニックを起こしているよ。

そりゃそうだよね。
僕らだってビックらこくんだからさ。
同情するよ…。

あ、寝た。
急だな。
なんか僕も眠たくなってきた。
心なしか昨日より体が重いや。

スヤスヤ。

四日目

🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄ザワザワ

え?

🍄2<なんだよウルセーなぁ

🍄1🍄2<<いや増えすぎだろ…(震えビブラート&ハモり

宿主の「右腕」と呼ばれる僕らの住処は勿論のこと
反対側の「左腕」と呼ばれるところにも後輩が湧いている

宿主は血相を変えている。

そりゃそうだよね…。
ごめんね。僕が住み着いたばかりに…。
宿主さんは一所懸命頑張ってるのに。

🍄n<腹減ったー!
🍄n2<栄養ほきゅー!!

あ、宿主気絶した。
ごめん、ごめんよぉ🥺

五日目

🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄ザワザワ
🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄ザワザワ
🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄ザワザワ
🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄ザワザワ

なんと宿主の「足」と呼ばれるところまで繁栄している。

宿主パニック💦そりゃそうだ💦
こっちももうどうしたらいいかわからないよ😖

ごめんごめんごめんごめん😭

あ、また気絶した。

n日後

1日目 神は天と地をつくられた
(つまり、宇宙と地球を最初に創造した)。暗闇がある中、神は光をつくり、昼と夜ができられた。
2日目 神は空(天)をつくられた。
3日目 神は大地を作り、海が生まれ、地に植物をはえさせられた。
4日目 神は太陽と月と星をつくられた。
5日目 神は魚と鳥をつくられた。
6日目 神は獣と家畜をつくり、神に似せた人をつくられた。
7日目 神はお休みになった。

『創世記』より「天地創造」

     🍄🍄
    🍄🍄🍄🍄
     🍄🍄
 🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄
 🍄  🍄🍄🍄  🍄
 🍄  🍄🍄🍄  🍄
 🍄  🍄🍄🍄  🍄
    🍄  🍄  
    🍄  🍄  
    🍄  🍄  
    🍄  🍄  

ポタッ💦

ん?🙄
なんか?
滴ってくる…

ポタポタッ💦

えっ?えっ?

ザワザワザワザワザワザワザワ
ザワザワザワザワザワザワザワ
ザワザワザワザワザワザワザワ
ザワザワザワザワザワザワザワ

「どう、して、こんなことに…、ックっングっ」

そうだよね…。
宿主は…、いや、敢えて愛をこめて「ヌッシー」と呼ばせてくれ。
ヌッシーは何も悪くないのに。
ヌッシーはただ一所懸命に生きてただけなのに。
僕が生えてしまったばかりに…。
僕も一所懸命だったんだよ。
でもなんでかな?
僕が生きる理由とか、僕らが増える理由なんて
よくわからないんだ。
ああ、「わかろうとする」っていう行為の認識は
この宿主に僕らが宿ったから可能なのか。
で、答えは出ない。
なんか、ここまで増えたし、ここまで生きれたし、
ヌッシーは良い奴だったし、もういいかな。
僕らが生えて増える理由なんてわからない。
でもヌッシーは泣いている。
そう「泣いている」っていう行為がどんな「意味」を持つのか
僕らはヌッシーを通して「理解」することができている。
へぇ、ヌッシーは色んなことを「考え」て「感じ」て
生きているんだね。
ありがとう。
少なくとも他の仲間よりは「知る」ってことができたよ。

🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄

ヌッシー、「返す」ね。

ヌッシー、これまで「ありがとう。」

ヌッシー、「さようなら。元気でね。」

🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄🍄


─ と、その時だった。

急にバタバタバタバタっ!!という音がして
身体中のキノコが肌から離れて、床に落ちていった。
さっきまでの身体中の違和感は一気になくなり
脱皮したような爽快感さえ覚える心地よさ。
試しに全身の肌をくまなく撫でて確認してみるが、異物デキモノひとつもなくツルツルしている。

良かった…本当に良かった…と
とてつもない安堵感とともに、またも嗚咽が込み上げてきた。
ひとしきり泣いた後、僕はキノコだらけになった床一面を見渡した。
見た目は完全にキノコである。
そして、ここ何日も何も食べてない。
不思議なことにトイレに行きたいとも思わなかった。
とにかく強烈な眠気がひたすら襲ってきただけだった。

体は正直で腹は鳴る。
買い物に行くのも億劫だし、
周りにはうまそうなキノコだらけだ。

ジューウ、ジャワワワワー

バターを敷いた熱したフライパンの上で
先ほどまで体の一部だったキノコ状のできものが、いかにも美味そうな音を奏でながら踊っている

「ガチのマジでキノコじゃん」

思わず独言した。

味付けはシンプルに醤油と七味。
マヨネーズも念の為に用意した。

最早皿の上には美味そうなキノコのソテーにしか見えない元腫瘍たち。

腹を括って箸を伸ばす。
目を閉じてエイヤッと一束を口の中に放り込んだ!

「うまい!!」(テーレッテテー♪

なんという芳醇な薫り!
桜の木で燻したような少し燻製のような香りが鼻腔を通り抜ける。
そして味はキノコではあるものの、
どこか高級ウインナーのようなジューシーさと弾力が口の中でオーケストラを奏でている。

こんな美味いもの、今まで生きてきた中で初めてだ。
これまでの苦労を振り返ることや
しめじが生えてきた理由を考えることも
忘れ、ただ無我夢中で目の前のキノコソテーを
頬張った。

と、大半を平らげたところで
社用携帯が鳴る。
「あ、ヤバい!あれから相当時間が経ってたんだ!なんて説明したらいいんだよぉ!」
と急に頭を抱える羽目になったのだが、
またもや眠気が襲ってくる ─。

スマホから目覚ましの音が聞こえる。
ガバッと布団から飛び上がり、
自分のスマホの目覚ましを止めて
社用携帯をすぐにチェックしようとした。

「アレ?」

日付が2週間以上前に戻っている。

いや、正確にはあれから時が経っていない?

あ、

えっ?

あー、

夢?だった?


なーんだよ!この夢!
いやー、マジ焦ったわ!

確かに昨日の夕飯にキノコのソテーを作って食べたのだった。
だからって、そんなことでこんな変な夢を見せなくたっていいだろ?と
誰に対してというわけでもないが、少し憤慨した。

結局、昨夜作ったキノコソテーが余っていたので、あまり気分は良くないが、朝食でそれらを処理することにした。

軽くレンジでチン!
腕をぽりぽり掻きながら温まるのを待つ。

ホッカホッカだが、やや萎びたキノコソテーが姿を現した。

皿を増やすのが面倒なので、
その上に白飯をドンとよそおい、
一気に口の中にかき込む。
ムシャムシャ、キノコの歯触りは…。

痛っ!いってててて!
腕に噛まれたような激痛が走る。
咀嚼を止めて腕を見やると
無数の歯形が、まるで紋様のように
その肌を染め上げていた。



SSFとはScience spiritual fictionの略で作者の造語

この記事が参加している募集

#推しの料理マンガ

115件

#今日のおうちごはん

18,514件

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?