朝の一杯
午前9時半。
出勤前に、一杯のコーヒーをエイトイレブンで椅子に腰かけてゆっくりと飲む。
ガラス越しには、喧騒の中を慌ただしく足早に出勤する人々が否応なく見える。
ここのコーヒーは安くて旨い。
有名コーヒーチェーン店よりよっぽど旨いと思うが、味だけではなく、ゆっくりとここから眺める景色も加味されているのかもしれない。
昔は、出勤前にくつろいでコーヒーを飲む余裕などはなかった。
パンを口の中につっこみ、身支度をし、急いで、定刻ぎりぎりに間に合うよう出勤していたものだ。
ある日、このエイトエレブンの店員に、このコーヒー豆を売ってくれないかと尋ねたところ、
「ごめんなさい。この豆は売ってないので、どうぞコーヒーを飲みに来てください」
と、予想に反し、にっこり微笑んで断られた。
喫茶店でも、そこのブレンド豆を売っているのに、よっぽどの自信商品ではあるのだろう。
ここには、カウンター席が10席ある。
いつも、この時間に決まって一人のおっちゃんが、弁当を食べながらビールのロン缶を飲んでいる。
『今日は、サバの塩焼きか?』
いつ見ても、実にうまそうに食べている。どう見ても夜勤明けだろう。
裕にしている。
これから帰って、ゆっくり寝るんだろうか。
一般の時間帯からすれば昼夜逆転だが、仕事に昼夜は関係ない。
こちらも仕事を早く終え、ささやかな至福を求めるとするか。
バックに手をかけ、ゆっくりと腰をあげる。
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