番外編 杉本健勇考  <大宮アルディージャvsテゲバジャーロ宮崎>

 他のチームのサポーターはどうなのか(あるいはどの程度なのか)よくわからないのだけれど、ジュビロサポって元・ジュビロの選手の動向がなんか気になるんですよね。なんでだろう?予算が限られていることもあって出入りが少なく、個々の在籍年数が比較的長くなる傾向があるから、その分愛着が湧く、とか。磐田というのどかな土地が本拠ゆえ、ファミリー感が強いからか(余談だが、苦戦の末にプレーオフを経てようやくJ1残留を勝ち取った2018年シーズンのオフ、何を思ったか当時の名波監督が「全員契約更新」(=チーム残留)を宣った時は本当に驚愕した。戦績はJ1で最低レベルであったシーズンに、ほとんど戦力になってなかったベテランまでも全員残留させたのは、いくら何でもと思わずにいられなかった。翌シーズンの降格は、むべなるかな、当然の帰結であったと思う人も少なくないはずだ)。昨シーズン後のオフは、その前の補強禁止処分の反動もあってそこそこ多くの戦力入替があったけども、特に名波時代の"非放出"傾向の影響から、なんか愛を持って見守る姿勢が身に付いてしまってるのかもしれない、元所属選手に対して。
 そんなわけで、代表ウィークのためJ2・3のゲームを物色する中、3の方で好調と聞いていた大宮の試合を視聴することにした。あの人もスタメンで出てるらしいし。

 あの人とは、言わずと知れた杉本健勇(中野誠也ではありません、後で言及するけども)。ネット系ジュビサポの間では、はっきり言って嫌われちゃってます。レギュラーとしてほぼ全試合に出場した2022シーズン、走らない、競らない、戦わない、肝心な時にそこ(=ペナルティボックス)にいない、のないない尽くしで何度もサポを苛立たせたのはジュビサポ界隈では周知の時事であって。何より、そのシーズンの結果、つまりはCFとして求められる端的な数値的事実、すなわちゴール数は「1」。しかもPK(その試合、偶然現地ヤマハで観戦。対アントラーズ戦で、1点先制された後に電光石火の攻撃で次々点を奪っていくんだけでも、PK奪取のシーンも含めて健勇はあんまり関わってなかったのは今になっても悲しい事実。PKを決めた後、本人もチームメートも本当に嬉しそうだったのはじんわり来たけども)。
 さらに追い打ちをかけるように、J2に再び舞台を移した翌シーズン序盤まではレギュラーとしてスタメンを張るも、突如、電撃的な横浜Fマリノスへの期限付き移籍。そして経験のある本職CFがほぼゼロとなった中での、わがジュビロの大大逆転J1昇格。それは嫌われますよね。先に書いたがんばってなさそうなプレーぶりに加え、試合中も髪の毛を気にしているだの、セレッソ時代からのチャラついた風評も相俟って、来るJ1の場にほとんど誰もが彼はいないものと感情的にも決めつける状況になっていた。レンタル先でもほとんど活躍できなったこともあり。
 でも自分としては、期待外れと思うところも確かにあったけど、むしろそれよりもなぜ1点、という疑問の方が大きかった。浦和で不遇をかこったとは言え、セレッソではかなりの実績があるし、うまいし、でかい。そして加入時点ではまだベテランと言える年齢ではないからフィジカル的にもひどく落ちてるとも思えない…からのシーズン1点。何しろチームが降格したシーズンだから他チームに比べて相対的にFWのチャンスが少ないのはわかるんだけども、レギュラーとして出ていて、1点はないだろ、と。セットプレーからのスクランブルで自分のところにゴールが転がって来るとか、シュートのディフレクションが目の前にこぼれてくるとか、サイドバックが滅茶苦茶キレイなベッカムばりのクロスを上げて頭でちょんと触ればいいだけとか…何度かあってもいいじゃないですか、でもなかったんですね。もちろんチャンス逸機も相当数あったけども、本当に恵まれた好機は少なかったように思う。一応ほぼ全試合を現地orダゾーンで観戦したが。
 それがチームとしての問題だったのか、当該選手がひとえにペナに走り込んでこないことが主因なのか、もやもやしたまま時は過ぎ、狂騒を経て、今はJ1での勝ち点獲得を命題に一試合一試合に一喜一憂する日々だが、やはりあのシーズン1点は奥歯に挟まったアレみたいに引っかかっていたわけです。
 なので、あれだけ点の取れなかった健勇が他チームではどうなのか、J2のさらに下のカテゴリーでかつての輝きを取り戻せるのか、1年越しの興味・関心を携えてこの試合を観戦することになった。

 結果と結論から。健勇は2ゴール1アシストでMOM級の活躍。格の違いを見せつけたとも言えよう。ただ、本人も試合後のインタビュー(これもまさに"らしい"内容で。後述)でも言っていたが、チームとしてももっと点を取らなきゃいけないゲーム内容で、反面本人はシュートチャンスが相対的に少なく、ほんの少しフラストレーションを残す出来であったと思う。
 さて、"第3者"同士の試合でプレーする健勇を観察したことで、自分自身の疑問を解決するにあたってのポイントにも、おぼろげながらも近づけた試合であった。
私の考える、杉本健勇のゴール数が近年めっきり少ない理由:
①競り合いが苦手(もしくはとにかく嫌)
②シュートがうまくない(焦っている)

①競り合いが苦手(もしくはとにかく嫌)
今日の試合はトップ下でプレーしていたが、プレーぶりが一昔前の10番、という印象だった。チームの中では多分一番ボール扱いもうまくて、プレー一つ一つに華があり、ラストパスが秀逸。一方でフィジカルが強いとは言えず、華奢で、ナヨっとした印象を与える。すっぽんマークを付けられるのが定番で、ヘディングは苦手。そんな感じ。最後のヘディングについては実際は弱いわけではなく、今日の試合でもヘディングシュートを決めているので厳密には当てはまらないけども、CFらしく相手の頭の上からズドン、とか、自分の肩で相手の肩を制して先にうまく頭でボールをすらすとか、ないですよね、ジュビロ時代から。
 そういうガチンコな空中戦の欠如に通じるが、とにかく、競らない。競ろうとしない。ルーズボールの制し合いに入っていかないし、相手に突かれてちょこっとボールが離れると、あきらめてすぐ追おうとしない。全然走らないわけではなく、事実この試合でも前からの効果的なプレッシングで相手GKを慌てさせたシーンもあった。でも、攻撃で守備でも、あるいは華麗なボールさばきを随所に見せた中盤でもゴール前でも、相手選手の位置が近い局面では途端に淡白なフィジカルプレーに終始してしまう。
 それはなぜか。推測だが、潔癖症なのかもと思った。浦和レッズ時代のインタビューで、柏木陽介が「なぜ夏でも長袖シャツを着ているんですか?」と訊かれ「相手選手との競り合いの時に、相手の汗が(自分の腕に)べちゃっと直に付くのが嫌なんです」となんとも素直な回答をしていたが、健勇もそうなのかもしれない。競り合いとは、体幹と体幹のぶつかり合いを意味する。特に腕、背面、腰、尻、太腿といった部位をそれこそ相手に擦り付けんとばかりの格闘なのであって、サッカー特有とも言える戦いの形のひとつだと思われる。ほかにこれほど激しい接触のある球技はラグビーくらいか。 
 あ、これは推測ではなく確信に近いが、健勇は満員電車無理でしょうね。乗らずに潔くタクシー使いそう。近距離でも。
 理由は不明なままであるにせよ、J3の舞台でも相手選手との接触を避ける傾向は確認。ペナルティエリアには入っていこうという姿勢は幾度か見られたけでも、中盤でも球際を避ける選手が戦場とも言えるゴール前で闘争心を発揮できるとは思えず、それが件のゴール欠乏に起因しているとの見る。

②シュートがうまくない
 これは健勇にテクニックがない、という意味ではない。ボールタッチは柔らかいし、この試合でも中盤で絶妙なボール捌きを見せるシーンもあった。ただし、中盤で。前半、自身の見事なヘディングでの落としから、味方選手のヒールパスを受けて、ペナから決定的なシュートを右足で打つシーンがあったが、焦りからか、甲の部分の左寄りでヒットしたためボールはポストの左側を流れていった。サッカー経験者ならわかると思うが、力んでボールの芯を捕らえられずに左右に流れちゃったり、ボールを下を叩いて浮いちゃったり。ジュビロの2022シーズンもこういう、超決定的とは言えないまでも、正確なシュートさえ打てれば、というシーンが何度もあったと記憶している。特に多かったのはヘディングシュートを上体で抑えられずにバーの上を通過するシーンと、シュートコースは確かに見えてそうなのにインフロントで蹴り上げてゴールの角のわずか外を無常にも通過するシーン。
 これはおそらく焦りからだろうと思う。残念なことに浦和時代から数年に及ぶゴール欠乏に苦しんで、「ゴールにパスする」という余裕を持ちようがないのではないか。とは言え、先にも書いた通り元々はうまい選手。事実、PKは別物とばかり今日の試合でも至極正確なキックでコースに沈めている。ゴールという結果を少しずつでも積み上げて、またセレッソ時代の感覚を取り戻すことが期待される。

 ジュビロからのレンタル移籍中ということで、現時点でもジュビロに籍を置いている選手であるから、反対意見も多いだろうが個人的には復活を期待している。またチャンスがあるのなら、J1の場でジュビロを勝利に導くゴールを決めてほしいと思う。ジュビロとの契約期間が来シーズン以降もあって、大宮での復活が重なれば -どちらも満たしたうえで、さらにチーム編成上の都合も絡むけれど-そのような光景を見られるかもしれない。
 ただ、この試合を見た限りでは、健勇自身のプレースタイルを変えないと、やはり難しいとも思う。競り合いへの消極さというのは、全員ハードワークが当たり前になりつつあるJ1ではかなり悪目立ちしてしまうし、J1のセンターバックは本当にハードだ。ゴール前で相手DFを凌駕する何かを持っていないと、偶然だけではそうそうゴールは決められない。健勇の変革を、陰ながら祈りたい。ジャーメインだって昨春にケガする前は、失礼ながら脚力以外にこれといった武器の無いアタッカーだったのだから。

 先に触れたインタビューを聞いて思ったが、健勇は本当に素直な男なんだと思う。チャラい感じに映りがちだけでも、カッコつけようと思ってカッコつけてるのではなく、邪気なくカッコつけてしまうタイプなのだと。表現が難しいが、個人的にはそんなに嫌味に感じないということです。本人はJ3で活躍し続ければいいとは思っていないだろうし、何しろ華も知名度も備えている選手。またスポットライトの当たる場所へ復活してほしいものだ。

 最後に派生的な話。ウルグアイ代表のルイス・スアレスのプレーをリバプール時代によく観ていたが、健勇とは対照的なスタイルだなあと思う。もちろん、国際的な実績、実力の面で正直雲泥の差があるけども、さらにプレイヤーとしての性格が真逆だと思う。スアレスは全能力が優れている中でも、特に相手との競り合いを得意としていた。ドフリーになろうとするポジショニングよりも、あえて相手マーカーとイーブン気味のポジションを取って、裏を取ったり、ミスを誘ったり。あるいは半身の姿勢を取って油断させたり、ターンで出し抜いたり。競り合いの強さと駆け引きの巧みさを活かして、相手に恥をかかせるのがうまいプレイヤーだった印象が強い。こういう日本人FWが出てくると、代表も本当に手強くなると思う。
 
 そして、最後に中野誠也。こちらも元磐田。この試合健勇に代わって出場したが、この選手も大別すればだけでも、健勇ではなくスアレスタイプ。相手陣地右サイド奥で、相手の背中に乗るような感じでうまくファールをもらうシーンがあったけど、昨シーズン序盤の大宮vs磐田の試合でも同じように、ペナ前でグラッサが体をぶつけられて巧みにファールを取られたシーンがあった(その試合、健勇の移籍前最後の試合かも)。大学時代に名を馳せた得点能力がプロの舞台で開花されたとは言い難いが、俊敏性と身のこなしのうまさという持ち味を発揮して、これから飛躍してほしいと思う。

 Jの舞台に散らばる元磐田の才能たち。磐田の選手であったということは、それすなわち才能の持ち主と信じて、時間の許す限りこんな感じで追っていきたい。

 
 


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