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リチャード・ブローディガン『ホークライン家の怪物』

1年ほどまえにリチャード・ブローディガンの『アメリカの鱒釣り』を読んで、それから『西瓜糖の日々』『愛のゆくえ』『芝生の復讐』を読みました。ブローディガンの小説の面白さは読者が自由に解釈して楽しめるところ、そして著者が読者がなぜ自分の小説が面白いと感じているか不思議に感じているのが伝わって来るところです。『アメリカの鱒釣り』がアウトドア本コーナーにおいてある書店があったという笑い話がありましたが、私も読む前はそう思っていた一人です。ネット上の小さい画像で『アメリカの鱒釣り』の表紙を見ると、森の中で樵が釣り竿を持っているように見えたんです。そんな私が新たにブローディガン作品を読める嬉しさと、残りの作品が少なくなっていく悲しさとともに『ホークライン家の怪物』読みました。

物語はハワイのパイナップル畑から始まります、ブローディガンからの強烈なメッセージを感じます。この小説は普通のウェスタンではないよと。しかしそれは深読みのしすぎで、単に西部劇という物語のイメージから考え出されたのがハワイだっただけかもしれませんが。面白いエンターテイメント小説を書くんだという気持ちはビシビシ伝わってきました。

殺し屋2人が主人公ですが、人が殺されるのは1箇所しかありません。しかもたった1行です、サンフランシスコのチャイナタウンでチャイナマンを殺害するシーンです。

グリアとキャメロンは隣の家へ行って、殺した

ただこれだけです。ブローディガンは執筆していて気付いたのでしょう、自分が暴力シーンをうまくかけないことを。
かわりにSEXシーンがふんだんに描かれています。

「何の用かね」グリアが訊いた、かれの膝の上には、十四歳くらいのかわいらしいブロンド娘が座っていた、娘は一糸もまとっていない。

マジックチャイルド

キャメロンはちょうど、小柄なブルーネットの娘と性交しようとしているところだった、かれはそれをやめて、振り返って肩ごしに、マジックチャイルドのほうを見た。かれは性交を開始すべきか、インディアン娘がなぜそこにいるのか聴くべきか、迷ってしまった。

マジックチャイルド

「後家のジェニー」はとても痩せっぽちだったが、五十を越えたばかりの陽気な女だった。さて、手に仰々しくコーヒーカップを持った馭者と後家が二階へ上がっていく。馭者が二階の後家の寝室で「コーヒー」を飲む間、乗客は全員、階下の台所に座って、コーヒーを飲み、ドーナツを食べるのだった。寝台のバネの軋みが、機械仕掛けの雨音のように響いて、家を震わせた。

後家の所で飲む「コーヒー」

「あなたたちふたりとヤリたい」マジックチャイルドがそういうと、さながらアフロディテの小枝に触れられたように、熱い想いで声が乱れた。かの女は服を脱いだ。グリアとキャメロンは黙ってみていた。かの女のからだはほっそり長く、小さな乳首のついた胸が固く高く盛り上がっていた。それに、尻がよかった。

納屋では

グリアとミス・ホークラインはものすごく凝った装飾を施された真鍮の寝台で、何枚の毛布に埋もれるようにして、愛し合った。二人の情熱の激しさは暖炉の火をおこす時間さえ惜しんだのだ。

ちょっと道草#2

ブローディガンも手応えを感じて執筆している様子が伺えます、やっぱり俺はこれだなとほくそ笑んでたことでしょう。これまで読んだ彼の小説は普通の生活になじめない人々の孤独感を感じることが多かったのですが、今作ではエンターテイメントに徹した小説を書くぞという決意があります。でもそこはやっぱりブローディガンなので、ちょっと絶妙なずれがあり作品の面白さとなっています。

読んだ後に私は『アメリカの鱒釣り』読んだときと同じ間違えをしていることに気づきました、アウトドア小説だと思って読み始めてその印象をもったまま読み続けたことです。ブローディガンが当たり前のことをするはずがないとわかっているのに、またやってしまいました。でも間違っても問題ありません、解釈は自由なので、また読めばよいのです。




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