創元SF文庫エディ・ロブソン『人類の知らない言葉』
『人類の知らない言葉』という題名と表紙の絵に衝撃をうけ読むことにしました。ロジ人というテレパシーでコミュニケーションをとる異星人がでてくるので当然SF小説といえるが、ロジ人が殺されて犯人探しをする推理小説要素も大きく、派手なカーチェイスがあったり題名の賢そうなイメージとはだいぶ違ったお得な小説といえます。
異星人とのファーストコンタクトその後の物語でロジ人と地球人との通訳が主人公です。未来が舞台ですがテクノロジーの進化にくらべて人類はあまり変わっていないように描かれています。ロジ人による経済的な侵略、ロジ人に対する排他的な言動、貧富の差による就学や就業の差、ネット上に拡散されるフェイクニュースや誹謗中傷など。そして地球人もロジ人も皆孤独なんです、音声かテレパシーか意志を伝える方法に関係なく他人に真意を伝えるのは難しいようです。主人公のリディアも例に漏れず孤独な人間です、彼女のことを表す印象的な表現がありました。「リディアは、思わず涙が出そうになる。たとえ死者であっても、この大都会で自分を心配してくれる人が、少なくともひとりいるのだ」これは死亡したロジ人からの〈わたしは君のことを心配している〉というテレパシーを受けてのリディアの心境を表しているのですが、物語が展開してからくりがわかるとずっこけてしまうことになります。
リディアは貧しい母子家庭に育っているので、エリートの多い通訳の中でも異端児として描かれています。母親がネットゲームに夢中になっていて、兄とは自動車の改造と走り屋をして遊んでいたことがそれを物語っています。母親のゲーム狂が事件解明に役立ち、兄と遊んで学んだドライブテクニックで警察から逃れるところは痛快です。
リディアと一緒に事件解明していくロジ大使館職員のマディスンは最初半目しているのですが、一緒に活動していくうちにお互いの隠し持っている正義感にひかれ友情が芽生えていくところは希望のある良い展開だと思いました。
原作がクセがない話なのもあるのかもしれないのですが、茂木健さんの翻訳がいいのですごく読みやすく良い作品です。