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古典初心者が読む瀬戸内源氏 巻二  ~男と女、ドラマティック~

『源氏物語』巻二 瀬戸内寂聴 訳 講談社文庫

 どうも、記念会の古典初心者のKです。はじめて古典なるものをおっかなびっくり読み始め、意外と小説みたいに読めるのでびっくり。

 さて、巻二は末摘花、紅葉賀、花宴、葵、賢木、花散里の六章から成っています。光源氏が十八歳から二十五歳の夏までの、いわば青春真っ盛りの、故に恋も見境なくイケイケ状態。登場する女君も多彩です。
 不器量で貧乏極まりない末摘花は、今で言えばルッキズム的にアウトかも…でも寂聴さんはこのエピソードは一種の滑稽譚だと言います。ユーモアとして読むと面白いです。
 ただ、今回も話の核に、光源氏とその父親である帝の妻、藤壺の宮との不倫があります。しかも!藤壺は皇子を生みます。もちろん、秘密ですが源氏との間の子です。帝は知るすべもありません。その罪の子をめぐる藤壺の苦悩、懊悩が根底にずっとありながら物語は進むんです。

 なお源氏のはじめての正妻、葵の上との関係は相変わらず冷え切ってます。素直になれないお嬢様、葵は強情で源氏はますます彼女に寄り付かないし、その反動で源氏は二条院の幼い姫君をますます可愛がる始末。
 そこに貴婦人、六条の御息所の登場。煉獄の炎のように激しい嫉妬心が生霊となり葵の上に獲りつき苦しめます。この描写の怖いこと!でも哀しいんですね、恋する哀れさからですから。
 でも皮肉にもこの取り憑きで、葵の上が瀕死の状態になりそれを源氏が介抱することで、やっとふたりは本当の夫婦に。が、妻は子を産み死んでしまいます。亡き葵の上を火葬場で荼毘に付し、夜通し悲しみの葬儀が続きます。その夜明けの場面が印象的です。

人の死は、無常の世の当然のことわりですけれど、源氏の君にとっては死別の御経験は夕顔の君一人くらいで、多くの死を目の当たりには御覧になっていらっしゃらないせいでしょうか、この上もなく、亡き人を恋い焦がれていらっしゃるのでした。
 八月二十日あまりの有明の月のころなので、風の風情もあわれ深いのに、左大臣が子ゆえの闇に昏れ迷っていらっしゃる様子を御覧になるにつけても、源氏の君は無理もないことと思われて、気の毒で、つい空ばかりが眺められて、

昇りぬる煙はそれとわかねども なべて雲居のあはれなるかな
(空に上る火葬の煙は どの雲になったことやら わからないけれど
  雲のかかるすべての空がしみじみ懐かしまれる)

と、お詠みになりました。

(抜粋 源氏物語 巻二 瀬戸内寂聴訳)

 その後、しばらく妻を失った悲しみを紛らわすかのように源氏は歌を詠み続けます。
 なるほど。私は歌というものの存在意義をはじめてそこで知った気がしました。それは源氏のグリーフワークだったのでしょうね。空を仰ぎながら言葉を紡ぎ、悲しみを悲しみ切る男の哀切に震えます。
 思うに源氏物語はこのような愛別離苦が非常に豊かです。その無常観を突破するために、男女は抱き合うのかもしれません。

 その後、源氏は本来のプレイボーイぶりを取り戻していきます。紫の上は源氏の理想通りに養育され、ヴァージンを奪われます。
 物語後半の山場は藤壺の宮の出家ですが、どうして藤壺は出家したのか。いちばんの読みどころ。
 政敵である右大臣家の娘、朧月夜とのあぶない関係も読ませどころ。この情事の発覚により悪役、姉の弘徽殿の大后は源氏の失脚と抹殺を計ります。ヤバいです。男と女、ドラマティック!
巻三に続きます。

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