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怖い話)深夜の車庫

知人、Sさんから聞いた話である。
コロナウイルス流行の前、東京2020オリンピックの開催を控えた2018年ころ、Sさんは、それまでの会社を早期退職し、東京の警備会社に勤務していた。
この警備会社は、都内のターミナル駅で回送、折り返し電車の車内清掃、忘れ物の回収、居眠り客に降車を促す仕事を大口の取引先にしていた。
回送電車は、点検整備のため、いったん車庫に入るのだが、東京に近いM駅付近に大きな操車場があり、そこに格納される。

あるとき、その操車場車庫に格納された回送電車内に、乗客が残されているという連絡が入って、残された客を誘導するために、Sさんらが急行した。
現在の電車は、管理センターから監視とアナウンスが可能なのだ。
管理センター職員が、アナウンスをしている。
「お客さん、起きてください。もう終点で車庫内に入ってしまっています。そちらに職員が向かっておりますので、指示に従って降りてください」
黒っぽいコートを着た男性と思われる乗客は、だらしなく足を投げ出し、体を折り曲げるようにして眠ったまま、起きる気配もない。
Sさんらの手もとの無線から、センターの職員が怒気を含んだ声で、「おい、あんたらがしっかりしてないから、こういう無駄な仕事が増えるんだよ」と文句を言っているのが聞こえる。
「3号車だぞ!3号車!」
車庫に到着したSさんらが、3号車の前に行くと、センターの操作でドアが開いた。
3号車の中には、誰もいなかった。
「あのー、すみません。誰もいないのですが」
「あー?なにー?よく見ろ!何言ってんだ」
センターの職員はいよいよ切れそうになって怒鳴っている。
「おい!隣だ、客、移動してるんだ。隣の車両に移って寝てるぞ!」
Sさんら警備員は、結局、車内全てを探したのだが、乗客はついに見つからなかった。
Sさんの先輩警備員によれば、M駅操車場では、消えてしまう居眠り客探しは、時々あることで、乗車中、病気の発作で亡くなった乗客や、M駅近くで起こった電車事故の死亡者が出るのではないかとうわさされている。

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