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あなたを「建物」にたとえるなら。



あなたを、建物に例えるなら何ですか?



これは、わたしが教員採用試験の個人面接で、一発目にたずねられた質問だ。

た、食べ物ですか?
いえいえ、建物ですよ。

面接官のニッコリ顔に、内心パニック。
あまりに予期せぬ質問。
教育関係ないやんけ!
しかし、すぐに頭をフル回転した。
ええ感じの建物、建物、たてもの‥!


「‥日本家屋です。
人のぬくもりを感じるあたたかな建築のイメージなのに、中に入ると、太い柱が家を支えてくれているのがよく見えます。
わたしも、日本家屋のように、子どもたちにあたたかみを感じてもらえる教室で、子どもたちを支えられる頼もしい教師になりたいです」


ふうん、ほお。
面接官はうなずいて、何事もなかったのように、「では次、近年の教育では‥」と次の質問をはじめた。

ジャブのつもりか?
とにかくわたしは、この冒頭の質問のインパクトが強すぎて、それ以降の質問はまったく覚えていない。

日本家屋の、なにを知ってんねん。
そう突っ込まれそうな答えだが、あのときはこれが限界だった。
瞬時にそれっぽいことを答えたんだから、よしとしよう。


では、今は?

いまなら、なんで答えるだろう。
教師としてではなく、ひとりの人間として問いかける。


「じぶんを建物に例えるなら、何だと思いますか?」




誰かを元気にする、ガソリンスタンド?
困っている人を助けたいなら、交番?
どんなことにも対応できる、コンビニ?

病院、ビル、美術館、駅。
あらゆる建物が、自分のなかを巡っていく。



そのとき、とあるマンガのことを思い出した。
羽海野チカ『ハチミツとクローバー』だ。



『ハチクロ』は、わたしが持っている、数少ない「紙」の漫画のひとつ。
あらゆる漫画を手放してきたが、どうしても捨てられない漫画の一つが、これだ。
名作、何度読んでも泣く。


わたしが思い出したのは、本筋とはあまり関係のないシーン。
タケモトという青年が、自転車で自分探しの旅をする場面だ。

道中、水を汲ませてもらうため、タケモトくんは水道を借りたいと思うのだが。
そのとき、家々を見ながら、考える。


新しくて、塀がきちんと立つ立派な一軒家には、なんとなく頼みにくい。
でも、不揃いな木々が並ぶ庭に、縁側が見える古ぼけた民家は、なんとなく、自分を受け入れてくれそうだ。

タケモトくんは、そんな家を探して、水道を貸してくれるよう頼む。
すると、方言まじりのおばあちゃんは、余り物のご飯やお菓子をたんまり分けてくれるのだ。


こんな家みたいな人に、なりたい。

建築科のタケモトくんは、そんな感想を抱きながら、自分探しの旅を続ける。
『ハチクロ』では、この自分探しのシーンがいちばん好きだ。



タケモトくんの思い描く建物は、かなり田舎の民家だった。
そこまで「ザ⭐︎おばあちゃん家」とまでいかなくていいけど。
わたしも、どちらかと言えば、そんなあたたかみのある建物のような人になりたい。


スタイリッシュで、アートな建物にも憧れる。
高層マンションや、派手なホール。
おしゃれな百貨店や、賑わう駅ビル。

でも、そんな都会めいた建物に、わたしはきっとなれないだろう。



それより、公民館みたいな人は、どうだろう。

和気あいあいと人が集まり、やんわり話して、思い思いに過ごして、気が済んだら帰っていく。
良いものがもらえるわけでも、お得なことがあるわけでもない。
何も提供はしないけど、そこには秩序と安心がある。

憩いの場、自分を出せる場、大きくはないけど、必要な場所。
居心地の良い空間に、気心の知れた仲間がいる。

あるいは、小さなカフェ。
それか、こじんまりした庭のある家。
どれも、日差しがたっぷり入る、大きな窓があるといい。


そんな建物のような人に、なれたらいい。
そんな母であり、妻であり、教師であり、わたしでありたい。

のびのびと過ごせる。
大らかな心で受け入れてくれる。

そんな存在に、わたしはなりたい。







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