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一方通行風呂【毎週ショートショートnote】


新しい銭湯ができた。
名前は「一方通行風呂」。

入り口から、支払い、脱衣、洗い場、湯船まで、すべて一方通行らしい。


俺は友達と、その暖簾のれんをくぐった。

細い受付を済ませ、細いロッカーに服と持ち物を突っ込めば、あとはひたすら前に進む。

天井から、湯と泡が降る。
歩きながら髪を洗った。
さらに、横からタオル付きのアームが伸びて、上手い具合に体を擦ってくれる。
気分がいい。

いよいよ、湯船だ。
空港にある平らなエスカレーターの上に、風呂用の椅子が並んでいる。
腰掛けると、そのまま胸ほどの湯が張られた、細い風呂を進みはじめた。

まるで、工場のベルトコンベアだ!
俺がそう言うと、後ろから笑い声がした。

愉快だ、と思った矢先。


俺は、ストンと落下した。

ピカピカの真っ白な床。
俺は、よろよろと立ち上がる。
暗闇から、唸り声と息遣い。


嘘だろこれ、もしかして___

俺の頭には、宮沢賢治の『注文の多い料理店』が浮かんでいた。

そうか。
あの店も、とうとう自動化したんだな。

◇◇◇

【411字】


4歳の息子に「一方通行の風呂って、どんなんかな」と聞くと、「‥せまそう」と言ったところから、考えました。

宮沢賢治の「山猫軒」は自分で進んでいきますが、自動でご飯が運ばれるのなら、逃げられなくていいですね。

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