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相手の都合が見えなくても、わたしのやることは変わらない。


「誘ってカレンダー」というのは、どうだろう。

この日はワンオペだから、暇です。
夫がいないから、家遊び可能。
公園に一緒に行く人、募集中。

こういうのを書き込めるカレンダーを作っておいて、仲のいいママ友と共有する。
そうすれば、おたがいの都合が合いそうな日を見計らって、気軽に「あそぼ!」と連絡できる。

欲しい。


‥いや、ほんとうは欲しくない。

ほんとうは、こんなカレンダーがなくても、「今日暇してる?」ってLINEしたい。


できないのだ、臆病だから。
断られるのがこわいのだ。
迷惑かな、とか考えちゃう。
そこまで軽快な関係を築くには、時間と体力がいるのだ、わたしは。


◇◇◇


子どもの頃、相手の予定が分からないのなんて、当たり前だった。

携帯なんてない。
だから、遊びたいときは家の電話にかけた。


小学生のころは、仲のいい友達の家の電話番号はすべて暗記していた。
休みの日になると、順番にかけていく。

もしもし?◯◯です。
Aさんはおられますか?


我が家には、「電話のかけ方」という紙が、電話前の壁に貼ってあった。
作成者は、母だ。

うちの電話番号、かけるときと受け取ったときの決まり文句、不審な電話が来たときの断り方。
黒い名前ペンの、すこし急いだ字。
成長とともに内容が付け足され、セロハンテープだらけだった。


わたしはそれを見ながら、友達に電話をかけた。
電話ごしに、相手のお母さんやお父さん、ときにはおばあちゃんが出てきても、その紙を見つめていれば、対応できた。

わたしはAちゃんの友達の◯◯です。
 Aちゃんはおられますか?
 お留守なら、大丈夫です。
 ありがとうございました


何度も何度も、その紙のお世話になった。
たまに想定外のことを聞き返されて、紙に書いてない!とあわてたりもした。


電話は、行き当たりばったりだ。
でも、どれもいい思い出だ。
友達の予定も、都合も、こちらからはなにも見えなかったけど。
その「不便さ」に疑問を持つこともなく、わたしは毎日電話をかけた。


◇◇◇


そうして、おとなになったわたし。
お向かいに住む、息子の友達のママにすら「暇してる?」とLINEできない。

何度も車を確認し、窓から目を細めて玄関を睨み、見えもしない部屋の中を想像する。
よし、今の時間なら「今日はなにする?」って話しながら、予定を組もうとしているころだ。
連絡するなら今しかない!
そうしてようやく、勇気が出る。

「息子が、遊びたいらしいんやけど。
 今日って暇してる?」


息子を引き合いに出す、ビビリっぷり。
ごめん息子、でもウソではない。


連絡してしまえば、あとはどうってことない。
「暇やで、あそぼー!」と返事がもらえることもあれば、「今から出かけるねん、ごめんねー」と断られるときもある。

でも、どちらも感情は揺さぶられない。
断られても、ダメージはない。
これ、ほんとだ。
「あ、予定があるんやー」で終わり。

じゃあ気にせず、さっさと連絡しろよである。
それでも、慣れない。
そういう人間なのだ、わたしは。




電話のかけ方」の紙を見ながら、堂々と電話の前に立っていた、わたし。
あのころのわたしに、励ましてほしい。

相手の都合が見えても見えなくても、あなたがすることは変わらないでしょ、って。



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