Studying Abroad for Nuclear Innovation (SANI) マサチューセッツ工科大学 2022年12月~2023年3月


氏名:坂部 俊郞(さかべ としろう)
留学時の学年:博士後期課程2年
所属:京都大学大学院エネルギー科学研究科エネルギー変換科学専攻
留学先国:アメリカ合衆国
留学先大学:マサチューセッツ工科大学、Plasma Science and Fusion Center
受入教員名:Prof. Dennis Whyte
プログラム名:Studying Abroad for Nuclear Innovation (SANI2022)

MITの象徴とも言えるGreat Dome

受入大学の概要

【大学名】Massachusetts Institute of Technology (マサチューセッツ工科大学、通称MIT)
【所在地】アメリカ、マサチューセッツ州、ケンブリッジ
【創立】1861年( The first classes began in 1865)
【学生数】11858名(2022年10月時点、International Studentsを除く)
【世界大学ランキング】1位(QS世界大学ランキングより。2013年版から2023年版まで11年連続で1位)
【特徴】
世界随一の学術都市である、米国のマサチューセッツ州のケンブリッジに位置する工科大学です。主に理工系分野で世界をリードする、言わずと知れた全米屈指の名門校であり、今までに多数のノーベル受賞者を輩出しています。学術都市ということもあり、一駅隣りにはハーバード大学があり、またキャンパスのすぐ近くを流れるチャールズ川を挟んだ向こう側にはボストン大学があります。ボストン市内には、歴史情緒溢れる建造物や美術館や博物館が多数存在している一方で、世界を代表するようなハイテク企業の本社や支社も集結しています。文化的な魅力と近代的で洗練された雰囲気がとても高い次元で両立しているような印象を受けました。

雪化粧のGreat Dome
クルージング船から撮影したボストン湾岸エリアの写真

留学準備

動機

私は京都大学の核融合分野の研究室に所属しているのですが、欧米での研究開発が年々活発になっている分野ということもあり、身動き(?)が取りやすい博士後期課程在学中に海外留学を一度経験しておきたいという希望を持っていました。
そんな中、2022年の6月中旬に、MITの核融合部門であるPlasma Science and Fusion Center(以下、PSFC)が核融合ブランケットシステムに関する野心的な研究計画を記した論文を発表したことを知りました。京大の現所属研究室の研究領域と重なる部分が大きかったので、本論文は現所属研究室でも話題になっており、私自身も非常に大きな興味を持つに至りました。
本論文の共著者の方のお名前が、SANI留学プログラムの受入研究者のリストにも記されていることを見つけ、「この絶好のタイミングを逃すわけにはいけない!」と思い、本プログラムに応募いたしました。

面接

2022年の7月上旬に、上記の論文の筆頭著者の方にビデオ面接をして頂く運びとなりました。①自己紹介、②現在の京大での研究内容、③MITで研究したいこと、をそれぞれパワーポイントにまとめて発表いたしました。15分程度発表した後に、質疑応答の時間となりました。上記①~③の各々について様々な質問を頂くことができ、自身の発表時間と合わせて面接全体の時間は1時間程度だったと記憶しております。
面接から数日後にMITから受け入れOKのご連絡を頂きました。当然のことながら、ご連絡を頂いた時はとても嬉しかったです。

渡航準備

ビザは交流訪問者(J1)ビザを取得する必要がありました。当初は11月から受け入れ開始という予定でしたが、手続き上のルールの関係で12月からの受け入れとなりました。
私の場合、大まかなタイムラインは、
7月/面接、渡航日の調整
8月・9月/MITの留学生受け入れサイトへの情報登録(書類準備に奔走)
10月/DS-2019書類の受け取り、米国総領事館での面接
11月/交流訪問者(J1)ビザの取得、荷造り
という流れでした。

所属研究室での研究概要とその経過や成果、課題など

MITのPSFCは、MIT発の核融合スタートアップ企業であるCommonwealth Fusion Systemsとともに、高温超伝導コイルを生かした新型の核融合炉であるARCを建設する予定を発表しています。
ARCには、FLiBeという溶融塩材料を用いたブランケットシステムが採用される予定となっており、PSFCではARCの建設に先立ち、FLiBeブランケットシステムの包括的な評価を実施することを計画しています。核融合ブランケットでは、リチウムと中性子の反応を利用して、核融合炉の燃料となるトリチウムを生産する必要があるのですが、本計画では、FLiBeブランケットシステムにおけるトリチウム生産について包括的な評価を世界で初めて実施することを目的の一つとしています。
私は、本計画に使用する核融合中性子源の周囲の中性子分布を明らかにすることを目的とし、研究に従事していました。中性子と反応性が高い放射化箔とγ線やβ線に感度を持つイメージングプレートを組み合わせた手法を用いることにより、中性子源周辺の中性子分布を網羅的に測定しました。また、中性子源のプロファイルをより精緻に明らかにするために、他の中性子測定手法による測定結果とも組み合わせて考察を行う予定です。中性子測定に際して、実験条件の考案や実験データの解析の補助として、放射線挙動計算コードであるPHITS(Particle and Heavy Ion Transport code System)も使用していました。
現在も遠隔でMITチームのミーティングには参加し、研究における協力関係を継続しています。2023年7月には、英国オックスフォードで開催される、核融合分野における主要な国際学会であるSOFE2023( 30thIEEE SYMPOSIUM ON FUSION ENGINEERING)にて、本成果を発表する予定です。

PSFCの建屋。FUSIONの文字が大きく掲げられています。
研究の様子

所属研究室内外の活動・体験

研究所にはコアタイムはありませんでした。実験の日は午前7時などに研究所に行くこともありましたが、基本的には午前9時~10時ごろに研究所に行き、午後7時~8時頃に帰宅するという生活をしていました。自炊の習慣があまり無いため、MIT内の売店でサンドイッチを買ったり、近くの飲食店で食事をすることが多かったです。休日は、研究所の友人や地域の言語学習コミュニティでできた友人とともに観光に勤しむことが多かったです。ボストンのあたりは観光都市としても有名ですが、ニューイングランド水族館、ハーバード大学自然史博物館、ボストン科学博物館、ボストンお茶会事件博物館、ボストン美術館、ボストン現代美術館、MIT博物館、ケネディ元大統領の記念館、フェンウェイパーク(野球場)、フランクリンパーク動物園、NBA観戦など…主要な観光スポットは一通り巡らせていただきました。

ボストン美術館。アメリカ三大美術館の一つに数えられるそうです。
地元の人気シーフードチェーン店である「Legal Sea Foods」の定番メニューのロブスター。圧巻の迫力でした。しかも、このサイズでスモールとのこと…。

留学先での住居の種類(寮、ホームステイ等)、探し方、申し込み方、ルームメイトなど

2022年11月27日~2022年12月12日:ホテル
2022年12月12日~2023年3月5日:シェアハウス
2023年3月5日~2023年3月15日:AirBNB①
2023年3月15日~2023年3月24日:AirBNB②

渡米から二週間程度は、Booking.comで見つけたホテルに泊まっていました。渡米後にFacebookの物件探しページでメッセージを頂いた方数名と会い、実際に物件を内覧し、MIT近くのシェアハウスに決めました。MITの大学院生の方とのルームシェアでした。同居している学生の方は、ほぼいつも、数式を書き連ねたり、論文を読んでいたりしていて、非常に研究熱心な方でした。
物件探しが留学生活はじめの大きな関門かと思いますが、詐欺等のリスクがあるため、基本的には現地で内覧した後に決めるのがよいかと思います。また、物件会社のネット上の口コミも丹念にチェックすべきでしょう。メールのやり取りをしていた物件賃貸の会社の中で、頻繁にトラブルを起こしていると思われる会社や詐欺の報告が簡単に出てくる会社が複数ありました。また、シェアハウスや又貸しの場合は、(当然のことながら)関係者の素性を明らかにした状態で入居することをお勧めします。
3月はAirBNBを2度使用しましたが、どちらの物件もホストの方が非常に親切で快適でした。AirBNBを利用する場合も、実績があり、高い評価を得ているホストを選ぶように注意すべきかと思います。

居住していたシェアハウスの屋上からの風景。
手前の川がチャールズ川で、その向こうがボストンの繁華街になります。

留学費用(プログラム支援内容、渡航費、生活費、住居費、保険料)など

プログラム支援内容:生活費等支援80万円(20万円/月)、国内移動費、往復航空券、ビザ申請費用

一ヶ月あたりの支出:43万円程度
住居費:23万円程度/月(4ヶ月のおよその平均) 
食費:14万円程度/月
日用品:2万円程度/月
交通費:1万円程度/月
その他(交際費・遊興費など):3万円/月

日本で加入した海外保険:35650円(留学全期間を通しての金額)
受け入れ機関側での保険料等:600ドル/月(加入必須)

※受け入れ機関側でのビザ申請用書類発行のために、総額で3805ドル/月以上の財政支援を受けて渡航する旨を証明する書類を、こちらから提出する必要がありました。(2022年度時点の情報です)

今回の留学から得られたもの、後輩へのメッセージ、感想、意見、要望

初めての数ヶ月単位での海外滞在ということもあり、期待と不安が入り混じる中での留学でしたが、無事に一定の成果を上げた状態で帰国することができて、ひとまず安心しております。初めてづくしの海外滞在でしたが、生活面の課題も研究面の課題も一つ一つ根気よく丹念に解きほぐしていけば解が得られるということを実感することが多く、非常に有意義な渡航となりました。
研究面においては、経験の乏しい中性子測定や放射線挙動計算コードに取り組むことになりましたが、極めて優秀な研究チームの方々が親切かつフレンドリーに支えて下さったことが非常に大きな励みとなりました。活発に議論を交わすことができる環境や新しい技術を積極的に取り入れながら研究を推進している環境は非常に印象的であり、MITが継続的に高い成果を出し続けている理由の一端はこのような環境にあるのではないかと思いました。英語でのコミュニケーションに困難を感じることも多々ありましたが、自分のアイデアがチームに受け入れられ、実験結果に関して称賛を頂いた時の喜びは忘れられないです。
4ヶ月程度という決して長くない滞在期間でしたが、様々な面で成長を実感することができた留学体験でした。私は、修士号を取得してから一般企業で数年働き、それからまた博士後期課程に入った人間なのですが、年齢を重ねても、新しい環境に身を置くことで新しい技能や知識、そして価値観を身に付けられると実感できたことは本当に大きな収穫でした。

今回の留学に際して、常に親身になって、全面的にご支援してくださった東京工業大学の小原徹先生、久須美文様、そしてNICP事務局の皆様に感謝申し上げます。受け入れ先のMIT・PSFCのProf. Dennis Whyte氏、Dr. Kevin Woller氏、そして研究チームの皆様にも深い感謝の意を表したいと思います。
また、私の所属大学である京都大学の小西哲之先生、八木重郎先生、向井啓祐先生、和田裕子氏にも、留学の実現のために様々なサポートや助言を頂きましたことを深く感謝申し上げます。

その他

ご興味ある方は、私が所属している京都大学の研究室のHPをチェックして頂けますと幸いです。
http://www.atomic-energy.iae.kyoto-u.ac.jp/

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