退職した人と飲みに行った話

学生の頃、部活動の後輩が「辞めたい」と申し出てきたことがありました。
顧問から「なんとかして引き止めろ」と命じられたので、後輩の同期の中で親しい子何人かに協力を要請したところ、彼女らは見事に後輩の退部を阻止してくれました。
そのとき力を貸してくれた子に話を聞くと、思い留まった決め手は、彼女が後輩に向けて放った「あなたが部活を辞めたら、私たちとの付き合いも終わるよ」という一言だったそうです。

どうして冒頭でこんな話をするのかというと、この飲み会で、決め手になった一言の意味を身をもって知ったからです。


ここからはずっと例え話になるのですが、結論から言うと、
「同じアイドルのファンクラブ(FC)に入ってたこと以外につながりがないのに、推しに対する考え方が決定的に違う上にそれを指摘することもできない」
みたいな雰囲気の飲み会でした。

その人には、着なくなったお洋服を譲って頂いたり、漫画貸して頂いたり、一緒に飲みに行ったり、とにかくたいへんかわいがって頂きました。
なので「FC辞める」「他界する」って聞いたときは「考え直してください」って引き止めたりなんかして、でも最終的に「これからも飲みに行こうね!」とお互い言いながら爽やかにお別れしたので、これからも付き合いは続くもんだと思ってたんですよね。


幻想だったんですけどね。
なんていうか、すごく居心地が悪いというか、やりづらい飲み会でした。


やりづらいって何が?って話なんですが、要は何を話していいのか分からないというか。
その人とはFCでしか繋がりがなかったので、話題は必然そのアイドルのことになるんですけど、なんだか噛み合わないんです。
それも当然、というか最初から分かり切ってたことですけど、「積み重なった不満が爆発して他界した相手」「多少不満はあれど今も推し続けている私」では、そもそも噛み合うはずもなく。


FCに入るほど推している相手でも、多少不満に思うことはありまして。
私は好きなアイドルに対して、「推したい」「売れてほしい」と思っています。推しが成長していくところを見ること、そしてその成長を応援することが私の推し活の目的です。
ですが彼はやれファンと寝ただのやれ他のアイドルと揉めただのスキャンダルまみれなので、心穏やかな推し活とは程遠い現状を嘆いているし、不満にも思っています。
それを吐露すると、相手は「それは彼のファンサが少ないのが悪い」と仰います。


「ファンサをたくさん受ければ解決する。あなたの推し方ならもっとファンサを受けて然るべきなのに、それがないから不満に思うんだ」
「あなたの推し方に対して彼が報いるときはきっと来ない」
「私もそれが不満で他界した」

ってな具合でして。

正直「少ないなあ」と思っていないわけでもないんですけど、もともとファンサの少ないアイドルだということは最初に提示されていて、それを分かってFC入りを決めたので、ファンサは別に問題じゃないんですよね。
「報いてほしい」と思っていないわけでもないですが、「何を以て報いとするか」はオタク自身が決めることなので、年々売れていき、彼が夢を叶えていく様を見ていることを私にとっての「報い」としています。スキャンダル多いけど。

相手の言う「報い」が何を指しているのかは分からない(というか、分かろうとしてない)のですが、相手は「ライブで無理やり最前とったり握手会で時間超過したりマナーが悪いのに「運営が悪い」「ファンサが少ない」と文句を言って辞めた人」みたいな感じなので、まあつまりそういうことなんだろうなと。

とはいえそれを指摘すると、相手と私の関係や性格上喧嘩になることは目に見えていたので黙っていました。いつもこうですね私。

それに、なんというか、物悲しくなってしまって。

トラブルメーカーではありましたが、その人の人懐っこい性格や細かい気配りは、FCの雰囲気を明るいものにしていたと思います。私も現場で何度も助けてもらいました。
それにその人も、推し活を通じて救われた場面がきっとあるでしょうし、「彼の力になりたい」「彼が好きだから応援したい」と思ったからこそ、けして短くない年月を推しに費やしていたのでしょう。
だからこそ、最後の最後でお互い疑心暗鬼になり、腹の中を探り合いながら去ってしまったこと、純粋に「応援したい」という気持ちを忘れて俗っぽい悪口を言うようになってしまったことは、推しもその人も嫌いになれない私にとって凄く悲しいことに感じられます。


「他界した人間は全て悪」とは全く思っていませんし、考え方の決定的な違いに気付かなければこの先も一緒に飲んだりしていたんでしょうけれどね。

今回はこれに気付くための飲み会だったということで、ここはひとつ。

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