美の言語化について

書き留めていたメモを文章にしてみました。


考えるきっかけ

美には、人を沈黙させる力があるのです。これが美の持つ根本の力であり、根本の性質です。絵や音楽が本当に解るという事は、こういう沈黙の力に堪える経験をよく味う事に他なりません。

ー 批評家 小林 秀雄 美を求める心

言語優位の私は、小林秀雄の言葉に衝撃を受けました…とにかく怖かった。

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本題

言語化とは、その人の価値観や思考のフィルターを通して、そのモノを再構築したにすぎない。そのモノをそっくりそのまま捉えられてる訳ではない、ということを念頭におく必要がある。

(だから、例えば言語が無い世界では物事がどう見えるのかな、と疑問に思います。)

言葉にならないもどかしさ、言語と非言語の隙間を芸術という別な方法で昇華させるのが芸術家。
(千住 博 「芸術とは何か」)

だから、勝手にこれはこうなんでしょ?!
と作品を鑑賞する側が、我が物顔で解釈をお触れしてまわるのは違う。

言語と非言語の隙間は本人にしか分からない。
(本人にも分からない力が働いているのがmasterpieceなのでは?と思います。
あくまで私見ですが…)

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分かりにくい作品があった時、そこに言語(解説)があったら先に言語の方が吸収されてしまう。

これは、芸術から言語に次元を下げることによって、万物を理解しようとするため。
とりあえず、分かるものに置き換えて噛み砕いてみよう…と。
(千住先生の考え方を踏まえると、とても自然な働きのように思えます。)

ちなみに、作品を見て、感性を感性のままで同じ次元のままで受け止められる人はいるのでしょうか?
(天才ならできるのかもしれない、とかつての私は言い訳をしていました。)

小林秀雄の「沈黙に耐える」とは、
できるだけ同じ次元で受け止められるように、
その次元の差を埋める、きり詰めていく、ということではないか。

作品に出会った時に感じる、<言語化することができないインパクトそのまま>に向きあってみたい。

私たちは、理解できない対象物を理解しようと焦ることにより、言語という次元へと下ろしていくが、理解できない状態こそが正しいのかもしれない。と芸術の奥深さに、おもわず笑ってしまった。(難しい!!笑)

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技法とかそういうHow toの言語化はさておき、
(技法も大切だとは思いますが、薄っぺらいように思われて私はあまり好きではないです。)

その人の価値観やメガネを持って見た作品というのもまた真実。

誰も本当のことを分かっていない。
それぞれの目で見ているものは一致してるとは限らない。それぞれが「見たいように見ている」というだけ。
(妻と義母という題の騙し絵をご存知ですか?若い女にも老婆にも見える不思議な絵です。)

言語における信頼性も然り。
言葉はその人が経験してきた文脈上でしか理解できない。
(経験を通して、言葉にイロがついているみたいなもの。)

確かに辞書には意味が載っている。
だが、辞書に書いてある通りに小説を読んだら感動できるのか。

自分の経験という、言葉に対する裏打ちがある。だから響くものがある。
そんな脆い世界で、作者と近いビジョンを持った時に感動するのが小説。

それぞれの人のツボは違う。

私達の目は『景色を映す』という単純な働きをしているだけではなく、今迄の人生で培われた価値観やメガネを持って物事を見ている。

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まとめ

「分かってる人は何も言わない」っていう上流階級な気取った考えで言語化を押さえつけられるのはつまらないと思う。

小林秀雄が言いたいのはおそらくまた別で、

感動のあまり、言葉という低次元で芸術という高次元を語れないということ。

言葉にならない隙間を昇華したのが芸術だから、言語より芸術のほうが"高次元"ということになる。

ただ、その次元間の移動・変換に意味があるのだと思う。だから、言語化が正しくないとは思わない。

「美は高次元だから、そう簡単には言語という低次元に還元できない。それが本物のもつ力だ」ということだと考える。


端から言語化を諦めている人と、堪えて堪えて言葉を切り詰めている人では違うだろうな。

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最後までお読みいただきありがとうございました。

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