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#ブルックリン物語
ブルックリン物語 #11 言いだしかねて”Can't Get Started With You”
僕の暮らすアパートは築100年の物件で古い煉瓦造りである。
煙突があるけれど、暖炉はない。それがあったであろうと思われる場所は潰されて、そこには僕が毎日クッキングするキッチンがある。
ウッドデッキに出て我が家を見ると、外見だけ風格のある煙突がにょきっと屋根から突き出て残っているさまは、どこか寂しげに映るけれど嫌いじゃない。
ある日、管理人でありハンデイマン(技術屋)の一人、ホセがデッキの上に
ブルックリン物語 #07 りんごの木の下で ”In The Shade Of The Old Apple Tree”
「え。さっきポケットに縦にちゃんと入れてあったはずなのに」
気づいたときにさっきまでそこにあった確かな重量はすでになく、着慣れたジャケットはジグザグに走るぼくの体の周りを優雅に心もとなくただ揺れていた。
友達が家に来るので何か作ろうと近所のスーパーに買い物に来たのは数時間前のこと。ぼくは普段から財布を右のポケットに縦方向に入れる癖があり、野菜やら肉やらを探すときに右手が当たりその都度財布は浅い
ブルックリン物語 #01 良き人生 "The Good Life"
ブルックリンに引っ越してから早いもので5年目に入る。
それまではニュースクール (The New School for Jazz & Contemporary Music in NYC) で同期のドラマー、テップと12丁目のアパートをシェアしていた。
テップが一人暮らしを始めたいと言うのと、僕も自分自身の時間をもっと欲するようになったことで、それじゃあそれぞれの部屋を借りようということになり、