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なぜ今頃『カクナリ!5』酒ネタ~「Salon du F」カクテルのお話

どうも、野口です。

『カクナリ!7』無事に入稿しました。今回はギリギリじゃなかったよ!(あたりめえだ)

緊急事態宣言の解除で札幌・すすきのの街にもようやく灯が戻りそうです。というわけで今回も過去のネタの焼き直しシリーズ、『カクナリ!5』に出しましたカクテルネタを振り返ってみましょう。

はじめに~何でいま振り返るか

書いたのが遥か昔のように感じます『カクナリ!5』、実際には2年前です。『カクナリ!』シリーズへの登場は『5』で2年振り2回目でした。『2』で出稿してからブランクがあったわけですが、今となっては理由はよく分かりません。空白期間が丸々大学3・4年と被ってるはずなので恐らく研究やら就活やら仕事やら忙しかったと思われます。データの日付を見ると適応障害でぶっ倒れる直前に書いてますね。よく書けたな自分。『7』も似たり寄ったりな状態で書いたんですけどね。

さて『カクナリ!5』での作品は「Salon de F」と題し、バーを舞台としたお酒ネタでした。実は、この作品のモデルにしたお店がこの6月に改装・拡張するということになり、じゃあちょっと振り返ってみようかという次第であります。本作に登場するバーテンダーも実在の方がモデルになってます。

将棋の戦法をカクテルに例えて紹介し、一杯ずつ出していくイメージの、いつも通りの一人語り文です。居飛車2種、振り飛車2種、オチに1種の計5種を取り上げました。ビルド、ロックスタイルのカクテルにも触れたかったのですが、全てショートカクテルになってしまいました。ページと体力・集中力の都合で王道の戦法に触れるのが限界だったことが理由なのですが、少々反省です。次回は頑張ります(?)

※以下、カクテルの写真は私のインスタより。将棋・お酒の内容についてはただの呑兵衛の雑感ですので深くつっこまんでください笑

1杯目~矢倉=ドライ・マティーニ

(写真は1970年代のGordonで作ってもらった時のもの。グラスは確かBaccarat。札幌中心部・狸小路からひと筋南のバーにて)

ジン+ドライ・ベルモット+オレンジ・ビターズ

ひとつ目は将棋の純文学「矢倉」です。「純文学」ということでヘミングウェイを筆頭に多くの文筆家が愛した、「カクテルの王様」マティーニと絡めました。

マティーニというカクテルは正直なところ分かりやすく「うまい!」というようなものではないと思います。バーテンダーの腕と感性が如実に現れるとよく言われますが、飲み手にもある種の「緊張感」を求めてくるというか、「うまい」「まずい」だけでない「何か」を表現することを求めてくる、そんなカクテルではないでしょうか。5、6年前まで「それほとんどジンでは?」というほどドライなスタイルが流行っていたように思いますが、近年のクラフトムーブメントもあってか、最近は加水・温度変化で香りとスピリッツそのものの風味を引き出す傾向が強くなっているような気がします。とはいっても強いカクテルなのは間違いないのですが。

「矢倉冬の時代」と言われた時期もありましたが、藤井聡太二冠の初タイトル獲得の原動力となったりと、相掛かりと合わせて最近ホットな戦法の一つでしょう。形勢評価のトレンドが変わりゆく中で米長流・中原流、同形矢倉、果ては土居矢倉とかなり古い形まで見直されているあたりトラッドな戦法の奥深さを改めて感じます。移り行く時代の中で、使い手の感性のままに姿かたちを変えて脈々と続いてきた居飛車将棋の王道・矢倉と、トレンドが変われどバーカウンターの王者として君臨し続けるマティーニの姿が重なりました。

ベースのジンもお店・バーテンダーによって相当変わるカクテルですが、個人的にはBBRの「No.3」やBRUICHLADDICHの「The Botanist」(シャンプーじゃないよ)で作ってもらうのが好きです。

※BBR:Berry Bros. & Rudd、ロンドンに店を構える英国王室御用達の酒屋・通称「女王様のワイン商」、ウィスキーのインディペンデント・ボトラーとしても有名。「No.3」は店の住所"No.3, St. James Street, London"に由来。

※BRUICHLADDICH:スコットランド・アイラ島の蒸留所、ウィスキーブランドとしては「Port Charlotte」「Octomore」、創業は19世紀末で歴史自体は長いが経営不振で1990年代に操業停止しており、いわゆる「復活組」蒸留所の代表例とも。

2杯目~四間飛車=マンハッタン

(写真はスコッチウィスキーベースなのでいわゆるロブ・ロイ。京都・祇園花見小路をひと筋入ったバーにて)

ライ・ウィスキー+スイートベルモット+アンゴスチュラ・ビターズ

矢倉が「カクテルの王様」ならば、振り飛車の基本・四間飛車は「カクテルの女王」マンハッタンです。ウィスキーベースのカクテルはウィスキーの種類によって名前もキャラクターも大きく変わるところから、飛車を振る筋で戦い方の異なる振り飛車っぽいなという安易な考えでこのような組み合わせになりました。この派生形が沢山ある感じが「藤井システム」とか「立石流」「角交換四間飛車」「4→3戦法」のようなバリエーションの豊富さそっくりだと思います。

基本のレシピだとベースはライ・ウィスキー(ないしバーボン)です。個人的にはライの香りがあまり得意ではないのでバーボンか、スコッチウィスキーベースの「ロブ・ロイ」でお願いすることが多いです。「ロブ・ロイ」にベネディクティン(ブランデーベースの香草系リキュール)をプラスすると「ロバート・バーンズ」(ロビー・バーンズとも、たぶん)というこれまた派生種になります。ちなみにスコッチベースだと「ロブ・ロイ」ですがジャパニーズウィスキーベースだと何になるんでしょうか。日本のウィスキーは系譜的にスコッチ系なのでそのまま「ロブ・ロイ」でしょうか。教えて詳しい人。(サントリー「山崎」ベースで作ってもらうと美味いのよこれ。大分贅沢だけど)

バーボンベースだと少し贅沢ですがウッドフォード・リサーブ(Woodford Reserve)が好きですね。あのちょっとバーボンらしからぬシュッとした雰囲気が素敵です。スコッチならシェリー樽系の、エドラダワー(Edradour)とかアベラワー(Aberlour)のように重厚な味わいのウィスキーが色合いも含め雰囲気たっぷりです。

3杯目~角換わり=サイドカー

(普通のやつの写真が無かったのでウィスキー・サイドカーでお茶を濁す。札幌市内中心部南3条、都通りのバーで)

ブランデー+ホワイトキュラソー+レモンジュース

居飛車の花形・角換わりでまず浮かぶのは谷川浩司九段です。「光速流」の鋭い攻めと寄せが最も映えるのはやはり角換わり腰掛け銀の華やかな展開でです。現代将棋の序中盤のスピード感につながるパラダイム・シフトを起こしたのは谷川九段と言っても過言ではないでしょう。一閃の切れ味のイメージから取り上げたのはこちらもバーの花形、シェークで作るカクテルの代表格・サイドカーです。

ブランデーといえば石原裕次郎さん的なイメージが強く、少々ハードルの高い雰囲気のあるお酒です。コニャックとかエラい金額のヴィンテージがあります。ただそのコワモテ感をふわっと和らげてくれるのもカクテルの役目でしょう。スタンダードカクテルにはブランデーベースのものが数多く、中でも「サイドカー」はビギナーからツウまで広く愛されるメニューでしょう。シンプルな材料故にマティーニと同様、お店のスタイルと作り手の哲学が現れる一品です。あと普通にアルコール度数が30度弱あるので油断するとベロベロになるカクテルですね。

スピリッツ+ホワイトキュラソー(オレンジピールのリキュール)+レモンジュースのコンビネーションはカクテルでは頻出問題で、
・ホワイト・レディ(ジン)
・XYZ(ラム)
・バラライカ(ウォッカ)
・ウィスキーサイドカー(ウィスキー)
などよく聞く顔ぶれがベース違いの同じ構成だったりします。ちなみにウィスキー・サイドカーをスコッチウイスキーで作ると「サイレント・サード」(Silent Third)、バーボンウィスキーだと「チャペル・ヒル」(Chapel Hill)になります。「ロブ・ロイ」しかりウィスキーの産地でカクテルの名前が変わるというのは土地の意地を感じるようなないような。

4杯目~三間飛車~ブルー・ムーン

(2杯目と同じ祇園のお店にて。Parfait Amourの製造方法によって色の出方がかなり変わる)

4杯目、振り飛車2つ目は三間飛車です。マンハッタンから続いてウィスキーベースでも良かったのですが、ちょっと趣向を変えてジンベース、香り高い「ブルー・ムーン」です。振り飛車党の中でも三間飛車使いは愛の深さを感じます。その三間飛車愛とバイオレットリキュール、いわゆる「Parfait Amour」のイメージが、そしてジンとレモンの切れ味が三間飛車の至上の「捌き」を思わせます。

パルフェ・タムールはスミレの花のリキュールで、そのままでは花を想起させる鮮やかな紫色、酸が加わると深い青になるというのが一般的です。近年は完全天然素材、オーガニックの銘柄も本格的に流通し、写真のようにピンク~赤になる「青くないブルームーン」も見かけるようになりました。ちなみにリキュール単体でも「飲む香水」と呼ばれ、ナイトキャップとしても画になるお酒です。字面もカッコイイですし(おい)

ただ、香りと口あたりの良さが幸いしてか、アルコール感が薄いと言えば薄いので、油断するとグズグズになるカクテルの筆頭かも知れません(アルコール度数はしっかり20度台後半ある) レディー・キラーのつもりで注文した男が先に潰れたのを見たことがあります()

ベースのジンはボディの強いものよりは、スムーズで香り高い「柔よく剛を制す」型(?)のものが向いているでしょうか。王道では「Star of Bombay」、個人的ベストはイギリス・サリー州の新興ブランド、「香水系ジン」のトップランナー「Silent Pool」です。ボトルも非常に素敵なので機会があれば是非お試しください。

オチ~鬼殺し=アースクエイク

(写真がない)

アブサン+ジン+ウィスキー

「アブジンスキー」とも。味とアルコールの強烈さから思いついたもはや名前オチです。中身の比が1:1:1なのでどれベースのカクテルに当たるんでしょうか。Wikiには「飲む時にはそれなりの覚悟を要する」と他のカクテルページでは見たことないような表現があります。

バーテンダーさんの「飲めないかも知れません」は実際に本作のモデルとなった方が発した一言です。中身を全く教えられず、ただ出てきたグラスに口を付けたら星が見えました。

おわりに~カクテルネタ第2回目はある?

以上4+1杯という作りでした。日々刻々と変化する現代将棋、まだまだ触れていない戦法も多くありますし、取り上げたいお酒も沢山あります。次の機会があれば、もうちょっと中身を練ってカクテルネタに挑みたいところです。(マニアックになるのを覚悟でウィスキー縛りとかやってもいいかなと思ってます)

さて『カクナリ!7』も〆切が迫って参りました。ご参加の方は制作にますます熱が入るところでしょう(お尻に火がついているわけではなく) 編集長はじめ総括の皆様は発送まで気が抜けない日々が続くことでしょう。

ツイッターなどで皆さんの感想を伺える日を、そしてまた楽しくグラスを傾けながら将棋談義が出来る日が来ることを楽しみにしたいと思います。

長々とお付き合いありがとうございます。

では、また。

Ryohei Noguchi

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