見出し画像

傑作「クライマーズ・ハイ」

この作品は発行当初から何度も読んでいます。
そのたびに新たな発見があり、
生き方や仕事への姿勢を考えさせてくれる
一冊です。
無人島に持って行きたい一冊を選べと
言われれば、
間違いなく本書をバッグに入れます。

私の知り合いで、東日本大震災による津波で
最愛の息子さんを亡くされたご遺族がいます。
息子さんは当時、海沿いの銀行支店に
勤めていました。
上司の指示がずさんで、
避難できず津波にのまれました。
以来、命を大切にする企業の在り方を
問い続けています。

ご遺族は、
日航機墜落事故のご遺族とつながり、
毎年、事故現場の群馬県御巣鷹山に
慰霊登山をしています。
「今年も行ってきたよ」という話を伺い、
それがきっかけで
墜落事故をテーマにした本作を久々に
読もうかなと思っていたところ、
「読書の秋2022年」のフェアで
本書が推薦図書となっていることを
知りました。
「これは、すぐに読まねば」と決意し、
すべての読書計画を変更し書棚から
取り出しました。

物語は、地元の新聞社が
「世界最大の航空機事故」に向き合った
怒涛の日々を描いています。
墜落事故の紙面制作に関する指揮を執った遊軍記者
「悠木」が主人公ですが、
悠木の一言一言や立ち居振る舞いには
しびれるものがあります。

例えば、
墜落現場を取材した後輩記者が書いた
渾身の記事を1面でなく、
中面に落とす判断をした上層部に
直談判する場面、
締切との関係で事故現場を中継するテレビを
見ながらコソコソと雑感記事を書いている
同期記者を見つけ、
烈火のごとく怒り原稿用紙を
破り捨てる場面…。
どこを切り取っても、
悠木の新聞に対するプライドや誠実さが
伝わってきます。

最も好きな場面は、
事故対応で嵐のような編集局のフロアに、
小さな男の子を連れた
1人の女性が新聞を求めて現れるシーンです。
同僚記者が相手にしない中、
なぜ来たのか事情を察し、
当日の新聞だけでなく、
事故発生からの新聞をつかみ
「お代はいりませんので」と言って
手渡すところは、
悠木の優しさが伝わってきて涙腺崩壊です。

この物語には「横糸」もあります。
悠木が販売局に勤めていた同僚の山男と
谷川岳の鋭鋒「衝立岩」に登る約束をするも
実現せず、
後年、山男の息子とともに挑戦する場面が、
多くの分量を割いて書かれています。

今回、「読書の秋2022年」をきっかけに
読み直しこの挑戦のストーリーに、
「はっ」としました。

以前は、悠木が山男との約束を果たすため、
その息子と険峻な山に挑戦するという
一般的なとらえ方をしていました。
今回感じたのは、
人にはそれぞれ「内なる衝立岩」があり、
それに挑む意義や尊さを
作者は問うているのではないか、
ということです。
墜落事故に向き合った悠木と同じ年代に
達したことで感じたことかもしれません。

この文を読んで頂いているみなさんの中にも、
病気やけが、結婚や子育て、加齢など
さまざまな事情でかつての夢や挑戦を
断念した人はたくさんいると思います。
自分のその一人です。
しかし、
人は挑戦しようという気持ちがあれば、
何歳だってできると思います。
人生の最終盤になった時、
「己の限界に挑戦したか」と問われたら、
迷わず「YES」と答えらえる人生を
これから歩んでいきたいと考えています。
本作はそんなことに気づかさせてくれました。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?