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会社を辞めた日のこと

時計の針が24時を超えた瞬間、頭の中でカウントダウンタイマーがカチカチと音を刻み始めた。止めようとしても、止まってくれない。
いつもより時計の針が早く進んでいくように感じた。

今年やり残したこと、なかったっけ。

焦る気持ちを押し殺して、「今年の振り返りをしよう」とnoteを見返していると、3/31に残した下書きを発見した。会社を辞める時に投稿しようとそのままになってた下書きがそのままになっていた。

そうだ、あの後忙しくなって、ちゃんと書こうと思って、そのままだった。「プロセスの一つ」という感じでみんなには話してるけど、実は大切な場所だった。だからこそ、たくさん退職前にたくさん言葉を残しておいた。

今日を過ぎたらまた、思い出の宝箱にしまっちゃうけれど。

きっとこの時に感じた気持ちは次に繋がっていくと願って。

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今日で会社が終わる。
本当に最後かなっていうくらい、やることがあってバタバタしてる。息つく暇もなく、お昼の時間がやってくる。
毎日のように通ったランチのお店。よく休憩していた公園で日の光を浴びながら、最後とは思えない最後の時間を過ごす。
頼られてるからこんなに仕事がやってくるのか、それともうまく引き継ぎが出来てないからなのか。もうそれは知る由もないけれど。

なんか足りない

そんな言葉が、ずっと頭の中をぐるぐるしていた。
辞めることは自分の中で100%納得して出した結論だった。
それなのに、なんだか落ち着かない。もっと晴れやかな気持ちになると思っていた。
たくさん散歩して考えたし、いつも以上にノートに気持ちを書きなぐった。それなのに、いつもは心が落ち着くそのおまじないも、全く効果を発揮しなかった。

なんでだろうって考えて、ようやく答えが浮かんだ。

特別な日を感じたいんだ。

「もうこの場所には入れなくなるんだな」と思って、頑張って作った資料を漁ろうとか考えてたのは、たぶん「最後」を感じたかったから。

そうすることで、「やり残しなく、やりきった」と思える気がしたんだ。
辞める前の日はこんなことをしてたよって思いたい。
辞める日はこんなことを思ってたよって思いたい。

終わりを感じるときは他にもたくさんある。
一年の終わりや、旅の終わり、卒業。でもそれらには、卒業式やカウントダウンなど非日常の儀式が用意されている。
周りの空気も浮き足立っているから、その流れに乗って終わりを感じやすい。でも、会社の最終出勤日は、そういうイベントもなく、いつも通りの日常しかなかった。

ちゃんと心残すことなく終わらせたいんだよな。

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扉を出てから、大切なものを自ら手放す選択をしたことを、改めて実感した。自分さえ望めば、そこで働き続けることもできた。でもその未来を、自らの手で捨てたんだ。

この退職は前向きなものだし、後悔なんてしていない。僕の生きたい道のりを歩むには、こうすることが最善だと思ってる。

だから、後悔はない。
でもね。これまであった繋がりが、完全に断ち切れるわけじゃないとしても、タイミングが合わなければもう会うことはないかもしれない。

信頼関係というのかな。人と出会って、その人がどんな人かを知って、会話を幾多と交わしたから、目には見えない関係性が確かにあって。

その関係がゼロになるわけではないけど、一時のオワリを迎えるのは、それはひどく寂しいことだと実感する。

別れを告げた瞬間。

建物を出た瞬間。

ひとつひとつの最後を味わって、終わりを迎えたあと、「もう自分はそこに所属してる人ではなくなったんだ」という実感が溢れてきた。

寂しかった。微かでも「そこ自分がいたこと」を感じられる残り香を探して、自分の心を慰める。

旅を終えるときの感覚と同じだ。
お気に入りの景色にお別れをする。飛行機に乗る。
搭乗ゲートをくぐる瞬間まで、それは当たり前に手の届く距離にあるのに、自由に外を歩けなくなった瞬間、新しいところに立っていて、もう戻れないと泣きじゃくるんだ。

こんなに溢れ出す感情さえ、この先日常の中で忘れ去って、思い出すことも少なくなっていくんだろうな。でも、ふっとこの時の記憶が鮮明に思い出されることもあるかもしれないな。

別れの瞬間が来るたびに、「こんな辛い思いをするくらいなら、色んな望む未来を諦めてもいい」と思ったりもする。

でも、そうやって終わりを切なく感じられるということは、つまりそれほど愛を感じられる場所と巡り会えたということなんだよな。

それほど心はいたむけれど、でも大事であればあるほど、精一杯考え抜いて答えを出すから、別れの決断は次への大きな一歩になる。

僕が一番頑張ろうと思えるのは、何かの終わりを感じられる瞬間。

「もういいよ」ってくらいのこの痛みも、きっと何度も経験するんだろうな。そしてその度にきっと、優しさを思い出して、強くなれる気がする。今だからこそ見れる景色。心に刻み込んでおきたい。



時間は取り返しがきくようで、後になってから取り返せないもの。

時間という単位だけで見れば、今日と明日の1時間は代えがきくかもしれない。でも今日という日に、この感情をもって、この場所であなたと出会えるのはどうあがいても、いま目の前のこの日、この時間だけだから。

過去のあの時を振り返って、「あの時振り返っておけばよかった」と思っても、遅いんだよ。失われた時は取り戻せない。

いくら時間をタイムトラベルできたとしても、目の前のあらゆる環境が同じ条件で揃うのは、今目の前の現実だけなんだ。

だから、今日この時間を今日限りだと思って、偽らず素直に大切に過ごそうね。

Best wishes moving onto the next chapter of your life.


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