僕は今ここにいる。

退屈だ。とても退屈だ。私は、朝起きるのが嫌いで、いつもギリギリに起きている。目覚まし時計を3つもかけているし、寝る前に必ずアラームが鳴るように設定している。それでもまだ眠いから、布団の中でうとうとしてしまう。
そしてやっと起きて顔を洗い、歯磨きをしてスーツを着る。このスーツというものはなかなか面倒なものだ。袖を通すときに腕を上げないといけないし、ネクタイなんて何度やってもうまく結べない。そんなこんなで家を出る時間になってしまう。
「いってきます」
誰もいない部屋に向かって呟く。私の両親は2人とも早くに他界してしまった。私がまだ小さい頃に事故で亡くなったらしい。だから私は1人で暮らしている。別に寂しいとは思わない。両親が遺してくれた遺産もあるし、仕事場にも恵まれている。ただ、退屈だ。
毎日同じような道を歩いていく。途中でコンビニによって朝食を買う。今時珍しく、レジ袋が有料になったのだ。おかげで買い物をするたびにお金を払うことになってしまった。そのせいか最近はお弁当を作るようになった。といってもおにぎりとかサンドイッチだが。あとは飲み物を買って出勤するだけだ。今日もいつも通りの道を通って会社へ向かう。
しかしこの日は少し違っていた。いつもの道には工事中の箇所があり、通行止めになっていたのだ。迂回しようにもそこ以外を通るルートがない。仕方ないので、遠回りになるが別の道を通って行くことにした。しばらく歩くと、見覚えのない景色が広がっていた。
ここはどこだろう?そう思って周りを見渡す。すると遠くの方に大きな建物が見えた。行ってみよう。なんとなく気になって近づいてみる。それは大きな病院だった。なぜこんなところに病院があるのか不思議に思い、何かに引き寄せられたかのように中に入ってみたくなった。今思えばなぜ病院に入ろうと思ったのか全くわからないが、入らないといけない使命のようなものを感じた。受付に行き、院内地図を見てみると屋上に行けることがわかった。せっかく来たんだし、ちょっとだけ行ってみようかな。そう思いエレベーターに乗って上へ行った。
屋上に着くと、目の前に広がる光景に息を飲んだ。そこには一面の花畑があったからだ。色とりどりの花々が風に揺れている。よく見ると花以外にも木やベンチなどもあった。私は無意識のうちに歩き出し、一番近くにあるベンチに座っていた。なんだか心が落ち着く気がした。それからどれくらい時間が経っただろうか。私は会社をサボっていることに気がついた。ちょうど気がついたタイミングで会社から電話がかかってきた。急いで会社に行かなければと一瞬思ったが、気づいたら電話越しに風邪だと嘘をつき会社を休んでいた。その日が人生で初めて会社を休んだ日になった。私は何かから解放された気分になり、とても清々しい気持ちになった。いつの間にか空はオレンジ色に染まり始めていた。寝てしまっていたのだ。そろそろ帰らないと……そう思ったとき、後ろから声をかけられた。
「あなたはどうしてここにいるんですか?」
驚いて振り返るとそこに立っていたのは白衣を着た女性だった。見た目からして20代後半といったところだろうか。彼女はゆっくりとこちらに向かってくる。
「えっと……」
私が言葉を探している間に女性はどんどん近づいてきて、私の隣に座った。
「私はここの看護師です。あなたはどうしてここに?」
「あの……なんというか……散歩をしていたら迷い込んでしまいまして……」
正直に話すわけにもいかないので適当な理由をつけた。
「そうなんですね……。それならもうすぐ閉院なので帰った方がいいですよ」
時計を見ると針は5時半を指していた。もうそんな時間なのか。
「わかりました。帰ります」
そう言って立ち上がろうとした時だった。
「待ってください!」
彼女が呼び止めてきた。
「どうしましたか?」
「もう少しだけここにいませんか?」
「でも……」
「お願いします。もう少しだけでいいので一緒にいて下さい」
彼女はどこか悲しげな表情をしているように見えた。このまま帰るのも悪い気がしたので仕方なくもう一度ベンチに腰掛けた。
「ありがとうございます。実は私、人と接することが苦手なんです。だからこうして誰かと一緒にいたことがほとんどなくて……。患者さんとお話したりすることはあるのですけどね」
確かに彼女と話をしていてあまり目を合わせてこないし、距離も少し遠いように感じる。それに少し暗い雰囲気を感じる。
「あなたはここで何をしていたんですか?」
「特に何もしていないんですよ。ただぼーっとしてただけです。ここは静かだし居心地が良いですね」
「本当ですか!?良かったぁ〜!初めて言われたよぉ〜」
急に喜んだ彼女にびっくりしてしまった。
「ど、どうかされましたか?大丈夫ですか?」
「あ、ごめんなさい。嬉しくてつい我を忘れてしまいました。今まで誰もこの場所に来てくれなかったものですから……」
「こんな素敵な場所なのに誰も来ないなんておかしいですね。こんなに綺麗なのに」
「そうでしょう?だってこの花たち、全部私が育てたものなんですよ。ほら、これとか見て下さい」
指さされた方を見てみるとそこには小さな白い花があった。とても可愛らしい花だ。
「これは何という名前の花なんでしょうか?」
「これはシロツメクサっていう名前のお花です。可愛いでしょう?私はこの名前が好きでよくお世話しているんです。他にもたくさん種類があって、例えば……」
それからしばらくの間、彼女の説明を聞いて過ごした。
「すみません、長々と話し込んじゃって。退屈じゃありませんでしたか?」
「いえ、全然そんなことなかったですよ。むしろ楽しかったです。またお話しましょう。いつでも良いので。ではそろそろ行きますね。本当に今日はありがとうございました。」
そう言い残して屋上を出た。
あれから数日が経ち、いつも通りの生活に戻った。しかし、私はあの日以来毎日のように病院に通いつめるようになった。そしていつしか彼女に会うことが目的になっていた。会える時間は短いのだが、それでも幸せな気持ちになれるし癒される。いつの間にか私は彼女を好きになっていたのだ。
ある日のこと、仕事が早く終わったので病院に向かった。エレベーターに乗り屋上へ向かう。扉を開けるとそこには彼女がいた。
「こんにちは。今日も来てくださったんですね」
彼女は笑顔で出迎えてくれた。
「はい、あなたに会いたくなってしまって。迷惑でしたらすぐに帰ります」
「いえ、私も会いたかったですし嬉しいです。そうだ!今度私の家に遊びにきませんか?」
「えぇ!?」
思わず声が出てしまった。まさか家に誘ってくれるなんて。普通は食事に行ったり、映画に行ったりしてある程度距離を詰めてからだと思うのだが。
「ダメ……ですか?」
彼女は不安げな顔で見上げてくる。
「もちろんOKですよ。楽しみにしておきますね」
それからしばらく他愛もない会話をした。
「それじゃあそろそろ失礼します。明日も来るのでよろしくお願いします」
「はい、待っていますね」
「あの、最後に一つだけ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「何でしょう?」
「どうして私を家に連れて行こうと思ったんですか?」
彼女は一瞬驚いたような顔をしたが、その後優しい笑みを浮かべながら言った。
「それは内緒です」
私はその答えに満足して病室から出た。次の日の昼休み、会社近くのカフェに来ていた。ランチを食べ終わりコーヒーを飲みながら一息ついていると、スマホにメッセージが届いた。送り主はあの女性だった。
『お疲れ様です。今日の夜空いてますか?』
私は少し悩んだ後、空いていると返信した。するとすぐに返事が来た。
『良かったです。では19時に駅前の噴水広場に集合ということでよろしいですか?』
私は了解と返した。一体家で何をするのだろう。疑問に思いながらも待ち合わせの時間まで仕事をこなした。
約束の時間の少し前に噴水広場に着いた。辺りを見渡してもまだ彼女の姿はない。もうすぐ来るだろうと待っていると声をかけられた。
「すみません、遅れてしまいました」
振り返るとそこには白衣ではなく私服姿の彼女が立っていた。
「いえいえ、大丈夫ですよ。」
「ちょっとお買い物に行っていたんです。それにしても今日はとても暑いですね」
確かに今日は猛暑日なのでかなり気温が高い。立っているだけでも汗が出てきそうなくらいだ。
「そうですね。ところで本当にお家に行くんですか?なぜ呼んでいただけるのか教えて欲しいんですけど……」
「ふっふっふ、それは着けば分かりますよ。とりあえず電車に乗りましょうか」
そう言って歩き出した彼女の後ろについていった。駅に着くまではお互いに無言だった。そしてホームでちょうど来た電車に乗った。車内はかなり混んでいて席は全て埋まっていた。ドアの近くに立って窓の外を眺めていると突然手を握られた。びっくりしながら隣を見ると彼女が微笑んでいる。
「すみません、つい手が当たってしまいました。嫌でしたら離しますが……」
「いえ、全然問題ないです!」
むしろ大歓迎だ。こんな美女の手に触れられる機会などそうないだろうからな。そのまま手を握っている状態で30分ほど揺られていただろうか。目的地に到着したようだ。電車から降りる時もずっと繋いだままだったのでドキドキしてしまった。改札を出てバスに乗って10分程で到着した。
「ここが私の家です」
案内された先にあったのは大きなマンションだった。
エレベーターで8階まで上がり、そこから歩いて5つ目の部屋の前で止まった。鍵を取り出し扉を開ける。中に入ると綺麗に整理整頓されていた。靴を脱いで部屋に上がる。
「どうぞ座ってください」
ソファーに腰掛ける。そして彼女はお茶を出してくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ急に誘ったりして申し訳ありません」
それからしばらく沈黙が続いた。気まずい空気が流れ始めた頃、彼女が口を開いた。
「実は私には病気があるんです」
唐突な告白だったので驚いてしまった。
「えっと……どういうことでしょう?」
彼女は下を向いて話し始めた。「私、癌を患ってるんです。それもステージ4。医者からは余命1年と言われています」
「そんな……嘘ですよね?」
「本当です」
彼女は悲しそうな表情をしている。とても冗談やドッキリを仕掛けられているようには見えない。「ごめんなさい。いきなり言われても困りますよね。でも私はどうしてもあなたに伝えたかったんです。だからこうして家に呼んだんです」
「……それで、伝えたいことというのは?」
「私が生きているうちに、思い出を残して欲しいんです。私はこの人生の中で何も残せずに死んでいくのは絶対にイヤなんです。お願いします、私と一緒に過ごしてくれませんか?」
彼女は真剣な眼差しで訴えかけてくる。その目を見て私は思った。あぁ、この人は本気で言っているんだなって。
「私なんかで良ければ喜んで」
「本当ですか!?嬉しいです!それじゃあさっそく始めましょうか」
「始めるって何をですか?」
「決まっています。楽しいことをです」
「具体的には何をするのでしょうか」
「ふっふっふ、よく聞いてくれましたね。これからすることはただ一つ。あなたの心の中にあるモヤを取り除くのです!」
「もしかしてそれは……」
「そう、恋バナをするんですよ!」
私は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「さぁ、どんどん聞かせてください!」
「といっても特に話すことはないですけど……」
私は恋愛経験がないのだ。今まで恋人なんてできたことがない。もちろんキスの経験もない。童貞なのだ。だが、ここでそれを言うわけにもいかない。
何とか誤魔化すしかないだろう……。そう思って話をしようとした瞬間、彼女が先に言葉を発した。
まさか私に経験がないとバレてしまったのか? 焦っていると彼女が言った。
「まあ。一旦過去のことは聞かないであげましょう。」
良かった。とりあえず一安心だ。
ほっとしているとまた彼女から話しかけてきた。
今度は何だろう? そう思っていると、とんでもない質問をしてきた。
それは、好きな人のタイプについてだ。
これは正直に答えるべきか?それとも適当に答えるべきなのか? 悩んだ末に私は彼女に自分の理想の女性像について語った。
「ふうん。清楚で巨乳な人がタイプなんだぁ。」
そう言ってニヤけている彼女の顔はとても可愛らしかった。その後も話は続き、気がつけば夜になっていた。
そろそろ帰ろうと思い立ち上がると彼女が引き止めて来た。
そしてこう告げた。
今日からここに泊まっていきませんか?と。
流石にそれはマズイと思ったが、断れなかった。
さらに彼女は同じ布団で寝ようと提案してきた。うるうるとした目で何度もお願いされたため最終的に折れてしまった。
2人とも緊張しているせいかなかなか寝付けない。そんな中で私はあることに気づいた。そういえば名前を聞くのを忘れていたな。そこで勇気を出して聞いてみた。
「そう言えばお名前はなんというのですか?」
「ああ、まだ言ってませんでしたね。私は七瀬美雪と言います。あなたのことも教えていただけると嬉しいです」
「分かりました。私は清水圭吾といいます。ちなみに年齢は26歳です」
「年上だったんですね。全然気づきませんでした」「ところで美雪さんは何歳なのですか?」「今年で24になりました」
「えぇ!もっと大人っぽい雰囲気があったのでもう少し年上かと思っていました」
「私ってそんなに老けて見えますかね……」
「いえいえ!そういう意味で言ったのではなく、とても綺麗だったので驚いてしまっただけです」
慌てて弁解すると彼女は嬉しそうな顔をしていた。
「ありがとうございます。褒めてもらえるのは素直に嬉しいですね」
その後私たちは他愛のない会話を続けた。それからどれくらい経っただろうか。お互いに眠くなってきた頃、彼女が急に私の手を掴んできた。そのまま胸に持っていき触らせてくる。
「あの……その……こういうのは良くないと思いますよ」
「いいじゃないですか。減るものではありませんし。それに私はもうすぐ死ぬんですよ?だから最後ぐらいは良い思いをさせて下さい」
「……わかりました」
私は欲望を抑えることができなかった。柔らかい感触に触れながら必死に理性を保つ。だが限界はすぐに訪れた。「すみません、これ以上我慢できません」私はついに言ってしまった。
「いいですよ。私もそのつもりでしたし」
彼女は私を受け入れる体勢を整えてくれている。それを見た私は勢いに任せて押し倒した。それから彼女と何度も交わり続けた。私はこれまでにないほど興奮してしまった。やがて疲れ果て、私たちはそのまま眠りについた。
翌朝、目が覚めると隣には裸のままの美雪がいた。昨日のことを思い出して恥ずかしくなる。私は急いで服を着て、朝食の準備をした。今日は会社が休みなので起きてきた彼女と一緒にご飯を食べ今後のことについてゆっくり話そうと思った。「おはようございます」
「はい、おはようございます。今日の朝ごはんはパンと目玉焼きですけど食べられますか?」
「大丈夫です。それではいただきましょうか。それじゃあ、いただきます」
「どうぞ召し上がってください。そういえば、どうして私を家に呼んだのか、そろそろ教えていただけませんか?」
私が尋ねると、少しの間を置いてから答えてくれた。
「実はですね……」
そう言って彼女が話し出した内容はとても衝撃的なものだった。
「私とセックスして欲しかったのです!」
予想していなかった答えを聞いて唖然とする。しばらく何も言葉が出てこなかった。しばらくしてやっと口を開いた。
「どうしてそんなことしようと思ったのですか?」
恐る恐る聞いてみると、予想外の答えが返ってきた。
「私の人生はそう長くありません。だからやりたいことをやりたいだけやると決めたんです。人生は経験ですよ!経験!」
そう言って彼女は笑っていた。
そんな風に考えていたとは知らなかった。彼女の顔を見ると、曇り一つない表情をしている。死が怖くないのだろうか。
そして私は考えた。どうしたら私は彼女のためになれるのだろうかと。
悩んだ末に私はある質問をした。
「あなたの残りの時間で私が役に立てることはありますか?」
すると彼女は嬉しそうに微笑んだ。「もちろんありますよ。私の最期まで一緒に居て欲しいんです。それがあなたにしかできないことなんですよ。」
「分かりました。これからよろしくお願いしますね」
こうして私たちの関係は始まった。美雪がいつ死んでも後悔しないようにたくさんの思い出を作ろうと思った。
それから毎日が楽しくなった。今までずっと1人で寂しい日々を送っていたから、誰かがいるというのはそれだけで嬉しいものだ。しかも美人で巨乳な人なら尚更だ。
それから月日が流れて2ヶ月後、ついに美雪の命の終わりが訪れた。それは突然のことだった。美雪の携帯から連絡があったのだ。医者と名乗る者に事情と病院名を説明された。急いで駆けつけると、そこにはベッドの上で静かに眠る美雪の姿があった。
その姿をみた時、私は何も考えることができなくなっていた。
わかっていたことのはずなのに目の前の現実を受け入れられずにいた。
しかし美雪は覚悟を決めた顔をしていた。
「ごめんなさい。私、もうすぐ死んでしまうみたいです」
「泣かないで下さい。私は幸せ者です。こんなに優しい人に看取られながら逝けるのだから」
彼女は笑顔だった。でもどこか悲しげにも見えた。
私は彼女に何かをしてあげられなかったのだろうか……。
私は無力感に襲われながらただ泣くしかなかった。やがて彼女は息を引き取った。
葬式が終わった後も私は会社に出社し続けた。心ここに在らずの状態が続き時間を無駄に消費する日が続いた。

するとある日、家のインターホンが鳴る音が聞こえたので出てみると、そこに立っていたのは死んだはずの美雪だった。
私は驚きすぎて声も出せなかった。

彼女は私の反応を見て面白かったのかクスッと笑うとこう言った。
「○○さん、久しぶりですね。元気にしていましたか?まぁ驚くのは無理もないでしょうけど、ちゃんと説明するのでとりあえず家に入れてくれませんかね?外は寒いんですよ〜」
私は慌てて彼女を中に入れた。
リビングに入ると、美雪は懐かしそうな目をしながら部屋を見渡している。それからソファーに座って話し始めた。
まず最初に、なぜ自分がここにいるのかを説明してくれた。なんでも神様の力を借りて一時的にこの世に戻ってきたらしい。
次に、私に会いに来た理由を教えてもらった。
美雪は、自分の命が残り少ないことを知っていて、死ぬ前にどうしても私と会いたかったそうだ。
そこで私にある提案を持ちかけてきた。
その内容は、天国で暮らす代わりに私と恋人になってくれないかということだった。
その話を聞いた時は驚いたけれど、正直悪い話ではないと思った。むしろ私にとっては好都合かもしれない。
返事はすぐに決まった。迷う必要なんてない。
なぜなら私も同じ気持ちだからだ。
美雪の提案を受け入れた私に彼女はキスをしてきた。
「○○さんのえっち♡」
それを聞いて思わず笑ってしまった。久しぶりに彼女と一緒の時間を過ごすことができてとても幸せな気分になった。
朝食を食べ終えると、彼女がいきなり抱きついてきて押し倒されてしまった。そして私の上に跨って服を脱ぎ始めた。
下着姿になると私に見せつけるように胸を強調してくる。
私は我慢できなくなって彼女を押し倒した。
それから何度も交わり続けた。
美雪の身体はとても柔らかくて温かかった。
何度も果てた後、疲れ果てて眠りについた。


目がさめると美雪の姿はなかった。
先ほどの出来事は夢なのだと気づくのに時間は掛からなかった。
少し落ち込んだが、私は一度死ぬ決心をしたため「死んでもいいや!」という気持ちが強くなった。
そして、どうせ死ぬならいろんなことをやってみようと色々試してみた。
そう。気がついたら出会った頃の美雪のように積極的になったのだ。
「美雪、ありがとう。」そう呟きながら今ある幸せを噛み締めた瞬間、私の人生は好転し始めた。この日を境に、私は仕事のミスが減り、今まで苦手だった同僚と普通に話せる様になった。

そして何より、今まで見えていなかった周りの人の気持ちや行動が見えるようになったのだ。
そんな私の変化に気付いたのか、周りからは『最近明るくなったね』と言われるようになり、更には会社の同僚から『一緒に飲み会行こうよ!』なんて言われる様になった。

私は嬉しかった!自分に自信が持てない私が、こんなにも人から必要とされている事が本当に嬉しかった。

それからと言うものの、私の生活はどんどん変化していった。朝起きれば、今日はどんな楽しい事が起こるんだろうか?なんてワクワクしながら起きるし、仕事では、どうすれば効率良く作業が出来るかを考える様になってきた。そのお陰で残業時間が大幅に減った為、上司には褒められたし、同僚とも気軽に話せる様にもなった。

今まではただ漠然と仕事をして、ただひたすらに給料だけを貰う為に働いていたけど、今は違う。仕事を通して、色んな人に感謝されるようになって初めて、『生きてる』って実感する事が出来るんだ。だから私はこれからも精一杯頑張ろうと思う。

これからもきっと楽しいことが待っているはずだ。だって私には美雪がついているのだから! END

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