見出し画像

【Zatsu】コンビニバイト<前編>

seiichiさんの記事を見て思い出したことがある。


これまでアルバイトのひとつやふたつは経験された方も多いのではないでしょうか。世の中不景気で、一時に比べると求人の数もかなり減ってはいるものの、ビジネスがある以上はバイト求人もそれなりに発生するわけです。

自分の場合、大学時代に某大手コンビニで深夜のバイトをしていました。大学生なんて昼夜逆転があたりまえだから、深夜勤務っていうのは好都合。時給も日中と比べるとかなり割増だしね。商店街や飲み屋街の近くだったこともあってか、強盗騒ぎもまったく起こりませんでした。

だからといって、忙しかったわけじゃない。いや、むしろヒマだった。ヒマすぎたんだ。良きにつけ悪しきにつけ。

コンビニには直営店とフランチャイズ店という2種類の運営形態があります。

直営店はその名のとおり本部直轄の店舗で、たとえばセブンイレブンならセブンイレブンジャパンが「ここに店舗を構えよう」と計画して出店、運営する店舗のことです。当然ながら店長はセブンイレブンジャパンの社員です。

一方のフランチャイズ店は、一般の商店主などがセブンイレブンの名前や形態を借りて商売をしている店舗です。店長はその店舗の運営主。よく酒屋さんがいつのまにかコンビニになったりすることがあるでしょ? 店長が元酒屋のご主人で。アレです。

基本的にはどのコンビニも上に書いたとおりだと思う。おれが働いていたのは直営店でした。
で、直営店はなんとなく厳しいような印象があるんだけれど、実際はそうでもない。まあ場所にもよるが、結局は雇われ店長なので、少々のことではうるさいこと言いませんでした。

21:00 出勤し、1時間ほどまじめに仕事をする
22:00 店長がようやく帰り支度を始める
22:30 「じゃあ、あとよろしくな」の挨拶とともに店長帰宅
以降 おれたちの自由時間

深夜は基本的に2人体制で勤務するんだけれど、店長が帰ると同時に、おれたち2人も裏の従業員スペースに引っ込みます。繰り返しになるけれど、うちの店は極端にヒマでした。この頃の時間になると商店街であいている店はほとんど無く、人通りもなくなる。店内にも客はいません。信じられないかもしれないけれど、客ゼロです。立読み客すらいない。ここ、いちおう 東京23区なんだけれど……。

客が消え、店員が消え、監視カメラからも人影が消え、無人と化した店内に店内放送だけがむなしく響く光景。おかしい。あきらかに。

おれたち2人は裏に入って何をしているかっていうと、そりゃあもう、飲む喰う飲む喰うですよ。とり憑かれたような反復運動。毎日の業務として廃棄処理がある。賞味期限切れの食料品を売り場からはずして従業員室のゴミ箱に捨てる作業なんだけれど、捨てるわけない。いや、本当は捨てなきゃいけない規則なんだけれどさ、おれの良心がNOと言っているうちは捨てるわけにはいかんのよ。

もったいないんだよね。だって、実際に売り場から下げるのは賞味期限切れよりも数時間前なんだよ。あらかじめ余裕を持って、期限切れが近いものは販売しないことにしているんだ。だから、下げた直後はまだ賞味期限内なんだよね。紙パックのジュースを飲みながら弁当や惣菜をほおばる。デザートまでいただいて、普通に買ったら3,000円くらいかかる食事をするわけですよ。(注:昔の学生時代のハナシですので、すみません)。

裏の部屋で相棒とワイワイやりながら、延々と飲んだり喰ったり雑誌見たりしているんだけれど、たま~に(1、2時間に1回くらいの割合で)客がくる場合がある。裏の部屋には監視カメラのモニターがあってね。ピンポーンっていう入口のチャイムがなってモニターを見ると、客の入ってきたことがわかるんだ。よくまあ、店員も立読み客もいない店に入る勇気があるなって感心するけれど(おれなら別の店を探すけどね)。

客が入店したのを確かめて、おれたちは「来たよ」「ああ、来たな」と言葉を交わし、食事を再開します。客の存在は完全に無視です。ひたすら飲む、喰う、笑うの反復快楽におぼれます。しばらくすると、「あのー、すみませーん」という声が聞こえる。モニターに目をやると、レジに買い物かごを置いた男がひとり、キョロキョロしている。

チッ!

おれの相棒が大きな舌打ちをして立ち上がり、レジに出て行く。食事の邪魔をされた相棒はお客さんを睨みつつレジへ入り(お客さん、何も悪くないんだけどね)口の中をもぐもぐさせながら、無言で(ただいま食事中なので)バーコードをスキャンし、代金を受け取ると客の手につり銭をねじ込み出口を指差す。
逃げるように帰る客。
「二度とくるな」と言わんばかりに出口を見つめ、裏の部屋に帰ってくる相棒。勝利の笑顔を浮かべている(再注:昔の学生時代のハナシですので、本当にすみません)。

けれどね、こういう恵まれた食事環境がなんの障害もなく維持されているわけではありません。廃棄品は捨てなければいけないという原則、フランチャイズ店なら店長が融通を利かせてくれる店もあるんだろうけれど、直営店はどこもこれに厳しいらしく、おれの店舗も例外ではありませんでした。
深夜に本部社員が抜き打ちで巡回することがある。
彼らにバレると、捨てた分の代金を払わされるだけじゃなくクビになりかねない。廃棄ルールはそれくらい厳しいものだったんだ。

やつらとのバトルはまさにコンビニ戦争ウォーズと呼んでもいいくらいのものだった。だましあい、裏のかきあい、そして挑発。相手もこういう現状はうすうす知っているから、いろんな手を使って証拠を握ろうとする。この壮絶なやりあいの話は、長くなるのでまた明日。

この記事が参加している募集

#業界あるある

8,634件

#この経験に学べ

54,729件