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【Zatsu】ぞくっとした想い出

もう10年くらい前になるけど、新宿ちかくのとある町に職場があったんです。けっこう築年数のいった8階建てのビル。だから、周囲と比べても特に高いわけじゃない。

ワークライフバランスなんてここ数年の話だからね。残業上等、職場泊上等。高級家具のように黒光りした職場環境だったわけです。

時期はもう夏真っ盛り。その日も過重労働を終えて仕事を切り上げ、ようやく帰途に就く。会社のフロアを施錠してエレベータで1Fへ。
既に人の気配はなく、非常灯みたいな薄らぼんやりとした照明が寂しい。正面玄関の自動ドアはとっくにシャッターが下りているので、裏口にまわって表へ出た時にはもう夜中の2時をまわっていたのを覚えている。

裏口を出てすぐに車寄せがあり、屋根が覆っている。
疲弊していたおれは夢遊病者みたいにふらふらと車寄せを抜け、国道を左に折れると、いつものタクシー乗り場を目指して歩きはじめた。

そのとき、背中に尋常じゃない寒気を感じた。
いるんですよ、だれか。
もうわかっているんだけど、確認せずにはいられなくて、ゆっくり一定のスピードで体をひねり振り返る。
車寄せの屋根の上に、青い女。
腹ばいになってこちらを見下している。
表情は読めないんだけど、あまり良い感情は持っていない様子。

かかわらないほうがいいな、と直感したので、なるべく感情を乱さないように意識しながら、前に向き直り歩きだした。
何が異常かって、体の後ろ半分だけが異常に冷たい。
もう夏だからね、夜とはいっても湿度がすごいんですよ。
正面はじっとり汗ばんでいる。
でも、背面は凍てつくように寒い。

とにかくこの場を離れよう、それだけ考えて足を動かし続けていると、しばらくいったところで急激に背中の寒気が消え、今度は猛烈な湿度の不快感が全身を覆った。うへぇ~。気分わるっ。

翌日、同僚にこのことを話すと、特段おどろいた様子もなかった。このビル、ほかにもいろいろあるらしい。おれが知らなかっただけで。

これがきっかけなのか不明だが、以後このビルで何度か経験することになる。それはまた別の機会に書きます。

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