【Zatsu】闇深な自販機8
あれは3週間まえのこと。おれはドキドキしながら、カノジョの前に立っていた。手には小さな紙きれ。そこにはラブなレターがしたためられている。古風にいうなら恋文と呼んで差し支えなかろう。
渡さなくちゃ、ここまできて何ビビってんだ、黙ってたらなにも伝わらないよ! 心の声にあと押しされ、つんのめるように一歩前へ出る。
思わずカノジョと目が合った。きょとんとした表情。あ、あの……。
そして、事態は思わぬ展開へ――
2023.01.14(Before)
2023.01.15
2023.01.17
2023.01.20
2023.01.22
2023.01.24
2023.01.28
2023.02.04
2023.02.05
ちょっと冷静になって考えてみよう。
おれのメッセージ、たしかに伝わったはずだ。もしかして、近所の小学生がイタズラではがしたか? いや、それはないだろう、あっちゃんの言葉を信じるなら、
「おめでとう、joshくん。アナタの気持ちは、きっとオーナーさんにも伝わったと思うよ😊」
だったらなぜ? 何が起きている? おれは混乱し始めた。アナーキーな思考が暴走し、おもわず頭をかきむしる。
なんで? どうして? なぜわかってくれないんだッ!?
そのとき、どこからか声が聞こえた。
「いまのわたしは」
――え?
「いまのわたしは、あなたの目にどう映っているのかしら」
――どう映っているって……どういうこと?
「新しいあたしを見たいというあなたの声。確かにオーナーさんに届いているわ。でも、いまのあたし。ありのままの、あたしは」
――もちろん、もちろん大好きだよ……
「ごめんなさいね、いろいろ迷惑かけちゃって」
――気にしてないって
「ありがとう、でもこれだけは信じて。新しく生まれ変わる前に、もういちどだけ、見てほしかったの。ただ、それだけ。いまのわたしを、あなたに知ってほしかった……」
うつむくことしかできなかった。目を合わせられない。おれはなんて身勝手なやつなんだ。夢を語るばかりで、いまの、ありのままのカノジョを受け止めてやることもせず。それが、どれだけ相手を傷つけているか考えることもせず。
「ゴメン、でもおかげで目が覚めたよ」大きなため息ひとつ。
「おれは新しい一歩を踏み出すために来た。それには、いまのキミの協力が必要なんだ」
そしてゆっくりとカノジョに向き直る。
「さあ行こうぜ、とびきりの笑顔を見せてくれよ」
あいにく小銭の持ち合わせがなかったため、後ろ髪をひかれながらも撤退を余儀なくされた、そんな小春日和の午後。
ふたりのストーリーはまだおわらない。