【Zatsu】闇深な自販機(完)
こどものころ、ぼくには夢があった。
幼馴染の女の子と一緒に、手作りの小さな船で海へ出る。
新大陸を探すんだ。
何日も続く日照りの下でも、荒れ狂う嵐のなかでも、帆を降ろすことなんて考えられないね。
人差し指の向く先は、つねに水平線の向こう側。
その気になれば、あの入道雲にだって手が届く。そう信じていた――。
2023.03.17(Before)
ところが――
2023.03.18
2023.03.20
2023.03.22
2023.03.24
2023.03.25
2023.03.30
2023.04.01
2023.04.06
2023.04.08
そんななか、ひとつの転機。
こういうのって、えてして突然に訪れるものだね。
燦燦と照らす太陽に、思いがけない通り雨。
そう、おれは、この町から引っ越すことになったんだ。
maimai543
2023.04.19
2023.04.20
2023.04.21
2023.04.22
2023.04.23
2023.04.24
2023.04.25
2023.04.26(あと3日)
2023.04.27(あと2日)
2023.04.28(あと1日)
さいごの夜
でも、そんなのんびりしたところが、オマエらしいや。
……。
結局、あの日を最後に「おまかせ兄」の姿を見ることはなかった。
でも、これでよかったんだ。いまさら戻ってこられても……迷惑なんだよ。だから――これでよかったんだ。
こうして、じつに1年近くに及んだオーナーさんとの交流、行き当たりばったりのハチャメチャな物語は、驚くほど唐突に終わりを迎えたのだった。
羊が一匹、
こどものころ、ぼくには夢があった。
幼馴染の女の子と一緒に、手作りの小さな船で海へ出る。
新大陸を探すんだ。
何日も続く日照りの下でも、荒れ狂う嵐のなかでも、帆を降ろすことなんて考えられないね。
人差し指の向く先は、つねに水平線の向こう側。
その気になれば、あの入道雲にだって手が届く。そう信じていた――。
でもそれは、子どもゆえの夢想だった。
現実味がないからこそ、純粋に楽しんでいられたんだ。
その証拠に、成長し、世界が広がり、いざ大海原へ漕ぎ出せるとわかったとき、おれの足は動かなかった。
恐怖でひざが震え、あたりを見回し、なんども逡巡を繰り返し、それでもさいごまで一歩も前に進めなかった。
弱虫、いくじなし、ヘタレ、口ばっかし君
周囲から投げつけられるあざけりの言葉に耳をふさぎ、おれは自分の世界へ逃げ込んだ。
ここはやわらかくて暖かで、いやな奴もいない。
心地よさに身を任せ、どこかで感じる不安から目をそむけ、必死にこちらへ手を伸ばしてくるもう一人の自分を突き放した。
いまの自分の姿を見たくなかったから。
見てしまったら、この時間も終わってしまうと思ったから。
やがて、私もいつしか大人になり、それなりに社会と接点を作りながら、色も匂いもない、かりそめの生活を繰り返していた。
そして偶然にもあなたと出会った。
意欲も覇気もなく、ただ時の過ぎるのを眺めるだけの私に、あなたは問いかけた。
「新しいこと、してみない?」
「いや、いいよ。今更そんな元気もないし、ひとりじゃ続かないし」
「じゃあ、一緒に手伝ってあげるわよ。ほらほら、ボーッとしてないで。新しい世界に飛び出すのって、楽しいんだから」
なかば強引に私の手を引くと、ふたりで太陽の下に飛び出した。
サラリ。ほほをかすめる心地のいい風、ひとつまみ。
まるで小さいころに見た、TVアニメのヒーローとヒロインだな。心を失っていた私に、彼女は無邪気に笑いかけてきた。それこそ、こちらの戸惑いなんてお構いなしに。
それがなんとも嬉しくて、おれの凝り固まった心は少しずつほぐされ、ほどかれ、外に開かれていった。恐怖や猜疑心がなくなったわけじゃない。けれど、おれは差し出された手を握り返すことができたんだ。
そして目の前に広がる果てしない海に、ぼくは自作の船を浮かべた。
「おもかじいっぱーい」彼女が笑いながら大声で叫んだ。
ひとりじゃできないことも、ふたりならできる。失敗することもあるかもしれないけれど、ふたりなら……なんとかなるでしょ😉
人差し指の向く先は、つねに水平線の向こう側。
新大陸を目指して船を出す。
「帆を上げ~い!」屈託のない笑い声。
「アイアイサー!」
風が吹いてきた。
了
長いことおふざけに付き合っていただいた(でも途中から絶対にこちらの存在を意識していた)オーナーさんへの感謝と、こんな駄文を読まされた皆様へのねぎらいを込めて😁。
闇深な自販機(おわり)