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アブノーマルモード -友人から待ち合わせに指定されたラブホの一室で-

母校が何かとイベントの都度他校を交えた取り組みへと発展させたがるため、交流を重ねるに連れて他校の若い女性教師に意識が向き始めた。
見知らぬヒトの行き交う通りでのような会話が可能であればいざ知れず、コンタクト可能なタイミングは相手が勤務中であったが意外にもあっさりと連絡先の交換に至った。

ヒト目を気にしながらも、やり取りを重ねながらいつしか定期的に時間を作っては食事を取る間柄へと定着していった。名前は千夏という。
教師とはいえ、就活を終えて翌年には社会に出ようという僕との年齢差は3つほどで、歳上の女友達とそう変わりなかったが、異性としての好意とは別に「先生とヤリたい」という別のプレミアム感を一方的に抱いていたのは事実だった。
対して千夏にとっては周囲の社会人仲間に比べると、まだまだ学生のお子ちゃまそのものだと言わんばかりで、定期的に会えはするものの真面に相手にされていない、そんな感触はずっと拭えないままであった。

僕が就職して首都圏での生活を始めてからも、帰省する度に時間を作るといった関係は続いた。学生の頃と違うことと言えば、社会人になった僕を子供扱いしなくなったことだろうか。
千夏の周囲の人間関係は、皆が地元を出ずに慣れ親しんだコミュニティの延長で形成されている様だった。
安月給でこき使われる日常の憂さを晴らす様に週末の夜はクラブで飲み明かす、遊びも学生時代から代わり映えしないのだと、言葉の節々物足らなさを滲ませていた。
一方で首都圏での生活により話題も興味の対象も変わりつつある僕に対して、時折り向ける物憂げな視線はいつしか知り合った当初とは異なる尊敬の眼しに変わり行く様でもあった。
誘うのはいつも僕の方だったが、次第に千夏からも翌日の予定も空いているのだと、時間を作ろうとする意思をこちらに示す様になっていた。

帰省時のある夜。
食事を済ませた後の車中でこれからどうしようかと持て余していた。
「今日は家に帰らなければならない?」
「明日お休みだから家に連絡を入れさえすればどうにでも」
「じゃぁ、何処か連れて行って欲しいところはない?」
「特にはないけど、たまには行ったことないところへ行ってみたいかな」
「そうだな…。何処かへ行くでも良いけど友達に会わせようか」
「えー、会ってみたーい!」
「そうしよう、オレも暫く会っていないから調度良い」
「何処へ行くの?」
「相手が何してるか次第だな」
「では、お任せします」
「ドン引きするかも知れないけど、ビックリしないでね」
「それどういう意味?恐いんだけど…(笑)」
「いや、友人に会わせるとか自分のルーツを晒すようなものでもあるから、オレも恥ずかしいじゃん」
「そういう意味ね。それは楽しみだな」
「ちょっと連絡入れてみる」

一旦運転席を離れて昔からの馴染みの友人であるジローへ久々の連絡を入れる。
「元気?久しぶり。今何してる?」
「おぉ、滅茶苦茶久しぶりじゃん!元気、元気。今女とラブホで遊んでる!」
「遊ぶ場所(笑) 相変わらずだなぁ、それは邪魔したようで。久々に会わないかと思ったんだけどそれなら改めるよ」
「いや、別に良いよ。来れば?」
「...そういう訳にはいかないだろ、こっちも女連れだし」
「調度良いじゃん、来れば?」
「その部屋後からヒト増えても大丈夫なの?」
「余裕、余裕。フロントと離れた場所だし。何時に来れる?」
「ちょっと説明してみるけれど、行けるとしたら1時間後かな」
「早く来て!(笑)」
「友達と会わせるのに『ラブホへ行くから』って普通に説明出来ると思うか?」
「良いじゃん、彼女連れ同士で同じ部屋使うノリで来れば」
「相手は真面目なヒトなので乱交みたいなのは絶対無しで」
「それは大丈夫だから早く来て(笑)」
ドン引きするかも知れないがと前置きはしているものの、これだと驚かせてしまうことは必至ではないか、そう考えながらも運転席に戻り、何も説明せずに車を出した。

何処へ向かっているのかなどの説明し辛い部分は特に伝えず、目的地に到着する頃にはそれとなく「今彼女とラブホにいるらしく、そこに行くことになった」と伝えたところ、案の定「何で自宅や他の場所じゃなく、ラブホテルの部屋を指定されるの?」と至極真っ当な返答には答えられずにいたが、今更後戻りは出来ない。

(続く)


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