【小説】テクノロジーを語る勿れ【第33話】

 ミチやナオは広木よりも一足先に社会人となり大阪市内で、いずれも美容関係の仕事に就いていた。地元が近いとはいえ、都市部で学生生活を過ごしながらトレンドをおさえたファッションに身を包んだ彼女達を、広木は初対面の時にある種の憧れを抱きつつあった。そしてユウジの手前ということもあり、ミチには必要以上のアプローチはせずにナオやその他の女の子と連絡先を交換した。

 その日からナオとのコミュニケーションを開始するも、余り連絡のやり取りに豆ではないことや、生活のリズムの違いが顕著に見て取れた。だが、シンガポールで持て余していたこのタイミングでは、珍しくというべきか運良くというべきかすぐさまメールの返信があり、それであればと広木は反射的にナオにコールをしていた。
「ハッロー!元気?」
「元気、元気、久しぶり!」
「ってか何でシンガポールにいるんだっけ?」
「インターンで数カ月だけ滞在しているんだよ。もう少しで帰るけど」
「良いなぁ、私も仕事で来年フランスに行くかも!研修で1週間とかだけど」
「ヨーロッパとか行ってみたいな、僕も」
「帰国して地元で就職?」
「いや、地元は出るよ。一旦横浜の寮に入るつもり」
「そうなんだ、環境変わるの楽しみだね」
「そうそう、それで言おうと思ってたんだ。就活で大阪寄った時結局会えなかったし、就職したら東京大阪くらいは行き来するようになると思うから、タイミング合わせて食事でもしようよ」
「オッケー!遅い時間になるかもだけど」
「全然平気だよ。それを連絡ついた時にずっと言っておきたかった(笑)」
「調度タイミング良かった。実は携帯電話を新しいものに変えたので、この後その連絡先もメールしておくね!」
「宜しく、忘れないように!(笑)」

 就職活動で敢えて東京へのセミナー参加の帰りに、ナオに会うこと口実に大阪で一日滞在するような予定を組んだこともあったのだが、互いの予定がその日に合わなくなり計画を見送っていたりもした。就職して時間や金銭面ももう少し自分の裁量が利かせられるようになれば東阪での交流はお互いの意志さえ伴えば適うだろう。

 帰国の目途が立ったことを愛にも連絡をしようかと少し迷った。渡航前の会話では、空港まで迎えに来てもらい、その日は愛の自宅で一泊してはどうかと、愛の方から提案を受けていた。そのためにシフトの調整を事前にしておきたいため、予定が決まったら予め伝えるように、そういう会話を事前にしていた。
 ところが、シンガポール滞在中に気持ちが不安定になった頃、広木が愛に対して恋人同士でもないのに若干束縛を仄めかすようなメッセージを送ったのをキッカケに、愛は明示的に「彼氏でもない人にそう言われても…」、といった言葉を返した。
 そういうものかと、海外の渡航先から帰国するのを空港まで出迎えてくれ、そのまま一夜を過ごそうという関係と交際関係の区切りは何なのだろうと思う。広木は釈然としなかったが、愛には愛の基準があるのだろうと敢えて取り繕うような言葉も返さずにそのままフェードアウトしようとしていた。

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