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ドイツ語とアジア人蔑称

今回は明るくないテーマですが、ドイツで暮らす上では重要な話です。

ドイツと言うと、ユダヤ人大虐殺の反省をしっかりとしている、過去の歴史認識における模範国で、2015年の欧州難民危機でも積極的に難民を受け入れた人権先進国、というようなイメージがあるかもしれません。

が、こと、アジア人に対する差別意識はと言うと、「英仏と比べてそこまで酷くない」というのが私の今までの認識でしたが、残念ながら「どうもそういうわけでもない」という認識に変わりつつあります。

私はミュンヘンに住んでいた頃は、幸いアジア人差別とは無縁の生活をすることができました。

やはり、ドイツ人はホロコーストをしっかりと反省しており、内心ではどう思っていようとも、少なくとも態度には出さないように気を付けているんだなあ、というのがその時思ったことでした。実際、ミュンヘンは日本人に限らずアジア人には住みやすい街だと思います。

一方、フランクフルトに住むようになってからは、知人から、人種差別的な発言をされたという話をちらほら聞くようになり、「ドイツって思っていたよりもアジア人差別があるんだな」と感じるようになりました。

日本、中国、韓国、タイ、ベトナムというように国別に見ると違う私たちですが、「アジア人」と総合して見た場合では、総じて比較的大人しく、対立よりも調和を尊び、抵抗よりも忍耐を選ぶ、という共通点が見られます。

それがアジア人差別がなくならない、というか、それ以前に差別の存在自体が見えない原因なのだろうと思います。

前置きが長くなりました。
今回お伝えするドイツ語でのアジア人蔑称は「Ching Chang Chong」です。
「チン・チャン・チョン」や「シン・シャン・ション」と発音します。

これは中国語の響きを真似てからかった表現です。ドイツ人の耳には中国語の発音や中国人の名前がこんな感じで聞こえるみたいですね。

発言者にどれだけ悪意があるかは人それぞれだと思いますが、
あなたがアジア人で、あなたとすれ違った人が肩越しに「シン、シャン…」と呟いてきたら、それは人種差別の発言と受け止めて間違いないです。

この「Ching Chang Chong」がややこしいのは、これ自体には蔑称以外の使われ方もあるためです。

例えば、色々ある「ジャンケンポン」のドイツ語の言い方の1つとして使われます。この場合、必ずしもアジア人差別的な意味は含まれていません。

ちなみに、私は「ジャンケンポン」の意味では「シュニック・シュナック・シュヌック(Schnick, Schnack, Schnuck)」を専ら使います。

また、アジア人(主に中国人)の話している言語が分からなくて「ちんぷんかんぷん」だ、という時にも、この「Ching Chang Chong」が使われます。この場合も、必ずしもアジア人差別的な意味は含まれていません。

だからこそ、「Ching Chang Chongなんて中国語で何の意味もないんだし、アジア人差別なんて大げさなんだよ」と言い返す人がいるかもしれません。

が、差別と言うのは、発言者に悪意があるかどうかではなく、受け止めた側が差別と捉えたら、それで差別になるのです。

特に、アジア人に対してわざわざ言ってくるのなら、意図は明確です。

ホロコーストを反省した国民にも民度の低い人は残念ながらいるんですね。

公正を期すために言うと、ドイツでも「ちゃんとした」人間であれば、まずこういうことは言いません。

私は合計で8年以上ドイツで暮らしていますが、アジア人を理由に差別を受けたことは、ほぼ皆無です(あることはあります)。

ただ、住む場所、付き合う人、訪ねる場所によって、待遇が変わってきます。当たり前かもしれませんね。そして、ミュンヘンのように街自体が裕福な都市であれば、そういう経験をすることも少ないと思います。

フランクフルトは、さすが金融の街と言うべきか、貧富の差がハッキリしているので、今まで見ずに済んだドイツの嫌な面が見えるのかもしれません。

さて、この「Ching Chang Chong」、以下のようにあまりに悪意に溢れた商品を作ったドイツ企業があり、ネットで炎上したことがあります。

ドイツ語の拙訳:

「シン・シャン・ション!は、アジアのことわざで、『美味しいココナッツライスが大好き、たったの5分でできるんだ!』って意味なんだ。信じられないって? 食べてごらんよ。君もココナッツライスをシン・シャン・ショろう!」

2020年8月頃のニュースのようです。コロナ真っ盛りで、アジア人がドイツの街中でも「コロナ!」と呼ばれていた頃の話です。

この商品、まあ、どこから突っ込んで良いのか分からないくらいです。
それで、これを作った会社が、よりによってドイツの会社と言うね。

幸い、ネットで大炎上してこの会社『ライスフンガー』(Reishunger:お米食べたい!のような意味)は投稿を削除したそうです。

が、この製品を作って投稿するところまでは、誰も反対しなかったんだなと。ものすごい神経だなと。

うーん、ホロコーストからこの会社の経営者は一体何を学んだんだろう?

人権意識の高い、心根の優しい多くのドイツ人にとって風評被害以外の何物でもありません。

日本や他のアジア諸国と関わりのあるドイツ人であれば、こういうものを見ると非常に嫌がるし、私たちと同じように悲しむと思います。

差別は無知と偏見から生まれるもので、気にしないことも大事ではあるのですが、少しずつでも良いから声を上げていくことも、同じくらい大事なのかもしれません。

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