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【試訳】独島イン・ザ・ハーグ【12】

ドハは、騒がしく鳴る携帯電話の着信音で目を覚ました。

「もしもし!」

「イ事務官、明け方に電話してすまないね」

「あ、次席。いいえ、どうしたんですか?」

「こんな電話ばかりで申し訳ないが、今すぐ出勤してくれないかな」

「何があったんですか?」

「日本が今日の明け方、独島に攻め入ったんだ」

ドハは慌てて外交部へと車を運転した。車中のラジオでは、ニュース速報が繰り返し流れていた。

「本日午前3時、日本の海上自衛隊軍艦12隻が独島を奇襲・包囲しました。遅れて独島沖合に到着した我が国海軍が戦闘準備を終えて待機中です。

日本の自衛隊がいつ上陸を試みるか分からない状態のため、独島に駐屯中の警察は緊張感を緩めずにいます。

後ほど開かれる国家安全保障会議で、大統領が軍事攻撃の是非を決定する予定です。現在独島沖合には一触即発の戦雲が漂っています」

この前「竹島防御訓練」についての報道が出た時とは次元が異なる衝撃と恐怖がドハの心をえぐった。

ドハが事務室に到着すると、ペ次席が深刻な面持ちで迎えた。

「局長と課長は、長官に同行してさっき大統領府へ出発したよ」

「どうしてこんなことが? 恐ろしいです」

「ああ、誰も予想できなかった奇襲だ。日本がここまでしてくるとは・・・」

その時、テレビで日本の官房長官の緊急談話のニュース速報が流れた。

「ケビン、音量を上げて」

「これまで韓国が日本の領土である竹島を長い間不法占拠してきましたが、日本は平和のために耐えに耐えてまいりました。

それにもかかわらず、韓国は日本を刺激し続け、挙句の果てには竹島への派兵までも決定しました。

主権国家として日本はこれ以上黙って見守ることができず、本日の明け方、最小限の防御措置を取りました。

しかし、未だ我が国は、今回の事態を合法的、合理的、平和的な方法で解決することを望んでいます。

このため、我々日本国政府は、本日付けで国連安保理に本件竹島問題の解決を公式に要請する考えです」

ペ次席は怒りを爆発させた。

「やっぱりずる賢いヤツらだ、日本は。自分が先に武力行使しておきながら、すぐに平和だ何だと云々して、戦争をするかどうかの決断を我々の方に押し付けているとはな」

ドハが尋ねた。

「日本のこの計画を、アメリカは事前に知っていたのでしょうか?」

「既に長官殿がアメリカ側に問い合わせたんだが、どうやら日本は独島包囲直後に通告したらしい」

「事前に通告していたのなら、アメリカは反対したでしょうね」

「問題は、今我が国が独島へ入り込んだ海上自衛隊を攻撃しようにも、アメリカがそれを止めるということだね」

「既に日本が安保理招集を要請したわけですし、安保理の決定を待とうとアメリカは言うでしょうね。それでも我々が武力攻撃をすれば、日本には勝てるのでしょうか?」

「海軍力は日本が圧倒的に優っていると聞いたことがある。知り合いの将校の話だと、暴力団と中学生の戦いだそうだ。もちろん、戦いというものは、いざやってみないと分からないことではあるがね」

「戦争が禁じられた国の軍事力の方が休戦中の国の軍事力よりも強いなんて、何故なんですか?」

「その通り。軍事力の格差を脇に置いて他国と戦争ができるのなら、どんなに楽なことか。我々が戦争をしようとすれば、アメリカや国連からの圧力は相当なものだろうな」

「安保理に行けば、恐らく国際司法裁判所(ICJ)の裁判で解決せよと勧告するでしょうね。

国連憲章第36条第3項は、安保理が『法律的紛争が原則として同裁判所に付託されなければならないことも考慮に入れなければならない』と規定しています。

安保理がICJ行きを勧告した事例もありますし。1946年にコルフ海峡においてイギリスとアルバニアの間で紛争が起きた際にも、安保理がICJ行きを勧告し、結局ICJ裁判が開かれました。

1976年にトルコとギリシャがエーゲ海の船舶を巡って戦争直前まで行った際も、安保理が招集され、ICJ行きを勧告しました。

ただ、トルコとギリシャの間に訴訟対象を何とするかを巡って今に至るまで合意がないため、 裁判は開かれませんでしたが」

「我々が本当に戦争をやるつもりなら、安保理の決定前に動かねばだな。いやと言うほど長く安保理の決定を待っていたところで、安保理はICJに行けと言うだろうけれど、戦争を始めてしまうと体裁が一層悪くなる」

「だからと言って、すぐにICJ裁判をするのも無理ではないですか。これまで独島問題では裁判を行わないというのが政府の方針でしたから、準備が充分にできていません」

ドハは独島の領有権の根拠は我々韓国側の方が多く持っていると考えていたが、訴訟自体の遂行能力は日本が上を行っていると評価していた。

今までICJ裁判官をたったの1人も輩出できていない韓国とは違い、日本は数十年間にわたりICJ裁判官を輩出してきた。

日本の国際法学者の層も韓国より底が厚い。韓国は国際公法訴訟の経験が全くないが、日本は既にICJやICJの前身である常設国際司法裁判所(PCIJ)で国際公法訴訟を何度か経験してきた。

独島問題においても日本は1950年代から訴訟をしようと主張してきたほど、訴訟準備が充分にできている一方で、韓国は訴訟する理由がないと主張してきたため、訴訟の準備ができていなかったのだ。

訴訟は一種のスポーツのゲームに似た性格があり、訴訟遂行者の能力に従って、嘘が真実に勝つ場合も少なくない。

ペ次席は長い溜息をついた。

「大統領府は頭が痛いだろうな。戦争をしても楽ではないし、訴訟をしても手ごわいし。どちらを選んでも、世論は政府を非難するだろうし」

日本による独島包囲のニュース速報が流れてから、戦争の不安感が急速に広まった。

テレビやインターネットで随時現れる旭日旗を掲げる軍艦に囲まれた独島の姿は、国民に並々ならぬ心理的衝撃を与えた。

朝9時に株式市場が開かれるや、大部分の株式がストップ安を記録し、スーパーは生活必需品を買い占めようとする主婦たちでごった返した。

ネット上では、すぐに日本を武力で攻撃す べきだという主張と、戦争だけはいけないという主張が激しく対立した。

日本の侵略を政府内の親日派が知りながら幇助したのだという主張が、ネット上で徐々に拡散され始めた。

一方、北朝鮮の朝鮮中央放送は、

「日本の今回の独島侵攻は、北東アジアの平和を踏みにじる露骨な野望を露わにしたものであり、 南朝鮮だけでなく全同胞を危機に陥れようという意図の特大型挑発」だと規定し、

「南朝鮮は、日本の好戦狂を一人残らず無慈悲に殺してしまわねばならない」

と助言し、必要な際には北朝鮮もこれに参加すると言った。

しかし、これに対して韓国政府も日本政府も何の返答もしなかった。

ニュース速報で大統領府スポークスマンが、国家安全保障会議で出た結論を朗読した。

「日本は本日未明、大韓民国の領土である独島に対する不法武力侵攻を敢行しました。

長い間アジアの国々が憂慮してきたとおり、 日本は百年前と同様に、武力でアジアの平和を破壊し始めました。

大韓民国は日本に対して、直ちに独島から軍を撤退させ、本日の不法な武力攻撃について謝罪するよう厳に要求します。

同時に大韓民国は、アジアをはじめとした世界各国に日本の武力侵攻を糾弾し、懲らしめるよう要請します。

早晩、国連安保理が正義に満ちた決断を下すものと確信しています」

スポークスマンの話が終わらないうちに、記者たちが一斉に手を挙げた。

「現代日報のイ・ウンジョンです。先ほどの声明は、政府が日本に対する軍事攻撃を放棄するという意味ですか?」

「軍事攻撃もあり得ます。全ての可能性がオープンになっています」

「それは、結局今すぐには軍事攻撃をしないという意味では?」

「今はそのように見ることもできます」

「NBCのイ・ジェウォンです。今軍事攻撃をしない理由は何ですか? 日本よりも軍事力が劣るためですか?」

「我々が軍事攻撃をした場合、独島に不法武力侵攻した日本の不法性が薄まる可能性があること、北東アジアの平和が崩れるという点を考慮しました。

非常事態のため、記者会見は一旦ここまでで終わりとさせていただきます。ご了承願います」

政府がいざ武力攻撃をしないという趣旨の発表を出すや否や、世論ではむしろ武力攻撃をすべきだという声が高まり始めた。

すると政府は、既に配備された広開土王艦と大祚栄(テジョヨン)艦のほかに、独島艦と世宗(セジョン)大王艦を独島近海に追加で配備した。

自衛隊(※)の上陸を防ぐために、浦項(ポハン)の海兵隊一個師団の一部の兵力が鬱陵島に陣を張った。

自衛隊・・・原文では「日本軍」となっていますが、これまでの訳と統一させるため「自衛隊」と訳しました。

光化門広場と日本大使館前で市民たちは昼にはプラカードを、夜にはろうそくを掲げた。彼らは韓国政府に対しては不十分な対応を叱責し、日本政府に対しては独島侵攻を激しく非難した。

一部の韓国人は、日本で人気の韓流スターに対して独島が韓国領だと宣言してくれと迫った。

デモ隊は、日本の総理の人形を燃やしたり、水につけて溺死させたりするパフォーマンスをした。

これを報道した日本人記者とカメラマンがデモ隊に袋叩きに遭う事件が発生し、両国民の感情を更に悪化させた。

そうすると、日本でも嫌韓デモが相次いだ。在日同胞は店の扉を閉め、外に出て行かなかった。

安保理は速やかに招集され、審理に入った。国内外の視線は全て安保理の心理結果に注がれた。

韓国のネットユーザーたちが国連のホームページに押しかけ日本を非難したため、国連ホームページが麻痺してしまった。

韓国の取材陣は、ニューヨークの国連本部の前に陣を張り、安保理理事国関係者たちの一挙手一投足を毎日報道した。

アメリカ国務長官は、今回の件が平和的に解決するのを願うという、一般的な発言を繰り返すだけだった。

【13】へつづく

【画像】manu zoli【Pixabay】


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