恋愛記事が書けなくなった

ライターになったばかりの頃、私の得意分野の1つに「恋愛」があった。

思春期から絶えず誰かに想いを寄せたり寄せらたり、雑誌やネットで恋愛テクニックを学んで磨いてきた甲斐あって、私の書く恋愛(ハウツー)記事は定評があった。

女性向けの恋愛メディア、男性向けの恋愛メディア、婚活、マッチングアプリ、セックステクニック、エトセトラ……。特にセックス分野はここまでオープンに書ける人はいないらしく、重宝されていたように思う。

うろ覚えだけど、こんな感じのタイトルだった。

・男性にモテるために磨くべきスキル
・彼をオトすボディタッチテクニック
・マッチングアプリで好印象のプロフィール写真の撮り方
・女性の「お持ち帰りOK♡」サイン
・女の子がキュンとするセリフ10選
・キスでイカすテクニック
・ベッドの上であなたを忘れられなくする方法

タイトルだけでどんな内容か想像がつくと思う。加えて、知人からの恋愛相談に乗ったこともあった。感謝されたが、その後どうなったのかは知らない。

私は恋愛のプロでもなんでもない。モテるわけでもないし、自分の恋愛がいつでも上手くいっていたわけでもない。結婚しているけれど夫との仲がすこぶる良好なわけでもない。「自分で書いたテクニックを自分で実践してみろよ」案件だ。

完全に“雰囲気”で書いていた。そしてその“雰囲気”が評価されていた。

現在、恋愛記事は一切書いていない。書いてくださいとオファーがあっても断るだろう。書けないからだ。

書かないのではなく、書けない。LGBTQ+を意識するようになってから、私は恋愛記事を書けなくなった。

私が今まで書いてきた恋愛記事の登場人物には男と女しかいない。もっと厳密に言えば、ストレートの男と女。そこにはゲイも、トランスジェンダーも、クィアも、存在していない。恋愛記事の中でLGBTQ+は存在していないことになっている。

けれども、現実には、LGBTQ+は人口の5%存在しているのだそう。LGBTQ+について「見るのも嫌」と発言した議員がいましたね。

95%の人間のために、そして利益を得るために、5%の人間を「いないことにする」のに違和感があった。

今後同じような恋愛記事を書けと言われても、「いやでも読者は同性愛者かも」「バイという可能性も」「トランスジェンダーを排除してないか?」「黒人のマイノリティはどうなる?」とかいろいろ考えてしまって、まともに執筆できないと思う。だから「書けない」のだ。

セックス分野に至ってはもっと慎重だ。読者は満足でも、セックスの相手を傷つける行為を推奨していないか、グラデーションレイプではないか、何か大切なことを見落としていないか……。

ストレートの女性に向けて書くのだとしても不安要素は残る。彼女は、本当に恋愛がしたいのかな。「女は結婚してこそ幸せ」という重圧に加担していないだろうか。彼女に勧めるべきはモテテクじゃなくて、セルフケアじゃないのかな……。

恋愛について考えるとき、たくさんのことが頭の中を駆け巡って、筆が進まなくなる。そもそも「恋愛すべき」という考え方が必ずしも正しいとは限らないわけで。

セクシャルマイノリティの存在を肌で感じている今、恋愛記事は今最も「書けないテーマ」の1つである。


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