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「ビオトープ」

もうかれこれ4~5時間は箱の中で揺られている。不定期的なリズムで体へ振動が伝わり、熟睡ができない。その振動で隣の者ともよく体がぶつかるこの狭苦しい空間にはもう限界を感じていた。一体何が起こったというのだろうか。

 そうこう考えている間に突然振動が止み、暗闇だった視界に色が付いた。ここが新たな住居となるのか、何なのか、1つの説明もないままに運ばれることとなった。その後、担ぎ上げられ、台の上に置かれたままで数時間が過ぎた。

その場所は、軽快なメロディと共に多くの者が行き来をしていた。最も気になっていたのは見た事もない色をした気味の悪い何かがそれぞれの種類に分けられて所狭しと並べられている事だ。こんな場所があったとは。初めて知った驚きと疑問の多さに"新鮮さ"が溢れ出した。

それから暫くして、何かきま自分の前に立ちふさがった。背格好は今朝まで暮らしていた場所で見ていた何かに非常に似ている。その何かが隣と自分とを見比べて、数秒後には結局自分が選ばれた。その後、僕はまた例のごとく箱の中に入れられて揺られることとなった。

数時間後の僕は、冷たい水の中に晒されていた。この数時間で自分の知っている毎日では起こり得ない事が様々起きていた。今思えば自分は何も知らず、取り立てて疑問も無いまま生きてきたことに気づいた。知っている事と言えば、毎日水をくれる何かと空を飛ぶ何かが存在する事くらいだ。たまに、上から落ちてくる水は何だったのだろう。

そうする間に何かに担ぎ上げられて、熱い地面に置かれる事となった。その何かは先ほどよりも増えていて、そのほとんどが自分を見ている。何かの内の1つだけが棒を持ち、こちらに向かい歩み出している。

「右、もっと右!」「そこ!そこ!」

自分を円形に取り囲んでいる多くの者から一斉に歌声に似た音が立ち込め、勢いよく棒は振り下ろされた。しかし、周囲の予想と反したのか、ため息が充満した。

「西瓜台無しじゃんー。」

そんな音が聞こえてきた時には、いびつな形で自分が割れていた。そうか、俺の名前は「西瓜」だったのか。何かを塗り込まれたのか少し染みたのを最後に覚えている。

もう一度、「西瓜」になって生まれたら、今度はうまく割られてみたい。

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