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眼鏡屋

駅前のロータリーを挟んだ先の通りに小さな眼鏡屋が新装開店されている事に気付いた。地方駅と言えど、駅前の一等地となると店舗の入れ替わりも激しいのだろう。「ここのファミレス良かったのに潰れたか」多くの店舗が立ち並ぶ場所においてこんな気づきはしばしばあった。また、このような自分の意志ではどうも左右できない気づきがたまらなく好きでもあった。

  しかし、今までの経験において、「ここに眼鏡屋が出来たのか」このような気づきは初めてだったかと思う。どうして気付けたのだろうか。その理由は簡単だった。店先ののぼりだ。この眼鏡屋ののぼりには大々的に「色付きメガネ無料!」という文言が記載されており、否が応でも目を引かれてしまう。特に眼鏡を探して駅前に出てきたわけでは無いが、普段コンタクトの自分にとって、夜の家で過ごす数時間用にメガネが欲しいと思っていたのも事実だった。無料であれば色がついていたってなんだっていいだろう。「無料」に心踊らせ、電車の発車時刻までもう少し余裕があった僕は「メガネ屋がメガネを無料にしてしまったらどうやって商売していくのか」そんないらない心配をしつつも入店することにした。

   自動ドアを抜けると店内には裸眼の店員が立っていた。店内は奥に長い作りになっており、所狭しとメガネが並べられていた。自分以外、他の客は見当たらない。「いらっしゃいませ。どのようなメガネをお探しでしょうか。」店員に声が声を掛けた。「あの、店先ののぼりを見たのですが。」「色付きの無料眼鏡ですね、、あれはお客様にはお渡しできないんです、申し訳ございません。」「もう品切れたのでしょうか?」思い掛けない返答に食い気味に質問をした。「いえ、そういうわけではないのですが、、失礼ながらお客様は既に色付きのメガネを一つ掛けておられます。」店員の予想外の言葉に次の言葉に詰まった。
そうこうしている間に電車の時間も迫ってしまい不本意ながらも何も得ること無く店を後にする事とした。店を出てからも僕は何度も会話を反芻したが、どうも合点ができなかった。
彼は自分が既に色のついた眼鏡を1つ掛けていたことに気づかないまま電車に乗り込む、

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