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“Concerning the Management of Women Traveling to China”に関する考察

1 はじめに
  茶谷さやかちゃんがドヤ顔で固定ツイートにしてる文章を読んでみた感想?なんかそういうの。これ。魚拓はこれhttps://www.japaneseempire.info/post/concerning-the-management-of-women-traveling-to-china

2 考 察
(1) 『内務省発警第5号 支那渡航婦女ノ取扱ニ関スル件』序文の解釈
 この文章では、冒頭に『内務省発警第5号 支那渡航婦女ノ取扱ニ関スル件(昭和13.2.23)』(アジ歴 A05032040800)について、その序において「内務省は3つの理由で、中国の売春宿で働く日本人女性の募集を規制することを欲した。①女性の人身売買への軍の関与は軍の威信を低下させる。②軍人の家族は軍人の姉妹や娘が軍の売春宿に売られていることが知られると動揺する。③現在の採用慣行は国際条約に違反するおそれがある。」と主張しているが、当該文書の記述は、①については「軍との関係を詐称する者」についてであり、②については「①のような行動が軍の威信を傷つけた場合、国民、特に出征兵士の家族に悪影響を及ぼす」旨であり、③については「これら業者に恣意的に募集をさせると人身売買を禁ずる国際条約に違反するおそれがある」旨であり当時の売春婦の採用慣行のことではなく、①において「軍が関与した活動である」、②においては「人身売買が家族に知られる」という当該文書に存在しない記述が加えられており、③においては、放置すれば発生することが予測される不法行為がその当時の制度そのものに置換されており、正確さに欠ける。

(2) 条約との関係
     当時日本が批准していた女性の人身売買を禁止する条約は『条約第一七号・婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約』(アジ歴 A03021581999)及び『条約第一八号・醜業ヲ行ハシムル為ノ婦女売買禁止ニ関スル国際条約』(アジ歴 A03021582000)である。
 これらに関してこの文章は「21歳以上の日本人女性の同意を得た移送といえども、それは前借金契約による強制であり、条約違反である。」との主張をなしているが、『醜業ヲ行ハシムル為ノ婦女売買禁止ニ関スル国際条約』においては「未成年の女性の売春を目的とした国外への移送については同意の有無を問わず禁止(第1条)」「満20歳以上の女性を詐欺又は強制の手段をもって勧誘・誘引・拐去することによる売春を目的とした国外への移送を禁止する(第2条)」との趣旨の条項があり、「婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約」では「1910年の条約(醜業ヲ行ハシムル為ノ婦女売買禁止ニ関スル国際条約)で成人の下限の年齢が満20歳であったのを満21歳に改める(第5条)」旨を定めているだけであり、21歳以上の女性が自由意思により海外において売春することを禁じてはいない。
 また、この文章では「国際連盟が1932年に内務省に対して示した(前借金契約に対する)懸念を払拭していないので、条約に違反している」と主張しているが、前借金を伴う契約は、昭和2年レ第1505号(昭和3年2月6日 業務妨害被告事件)の大審院判決に「契約問題ト稼業問題ヲ混同シ現在猶人身売買ノ如キ酷法ノ存スルカ如キ理論導カシムル原判決ハ理由不備且偽律錯誤ノ違法アリ」と指摘されているとおり、前借金の存在を以て人身売買とする論理は少なくとも国内においては同時代的には成立せず、当該条約批准後の国際聯盟の調査においても「前借金を目当てにした家族らによる強制」ついての懸念が指摘されているものの、本人からの意思確認の徹底と自由廃業によって自由意思が確保されていることにより条約に違反であるとはされていない。つまり、その契約が本人の自由意思で行われている限りにおいて「契約に拘束されていたので条約に違反する」ことにはならない。
 
(3)『陸支密第745号 軍慰安所従業婦等募集ニ関スル件』との関係
 この文章では、『内務省発警第5号 支那渡航婦女ノ取扱ニ関スル件』と『陸支密第745号 軍慰安所従業婦等募集ニ関スル件(昭和13.3.4)(アジ歴 C04120263400)』を関連させ、軍が慰安所の存在及び軍と慰安所の関係を隠蔽しようとした、と指摘している。確かに双方の文書で売春と軍の関係を秘匿する、あるいは否定する記述がなれていることは一見共通するものに見える。
 永井和の『陸軍慰安所の創設と慰安婦募集に関する一考察』の「問題の警保局長通牒は、軍の依頼を受けた業者による慰 安婦の募集活動に疑念を発した地方警察に対して、慰安所開設は国家の方針であるとの内務省の意向を徹底し、警察の意思統一をはかることを目的としてとられた措置であり、慰安婦の募集と渡航を合法化すると同時に、軍と慰安所の関係を隠蔽化するべく、募集行為を規制するよう指示した文書にほかならぬ」という見解を援用している。
 しかしながら、永井は同考察において、「私は、慰安所とは将兵の性欲を処理させるために軍が設置した兵站付属施設であったと理解している。」と述べ、軍が設置した(させた)施設をもって「慰安所」と定義している。それは『日本軍の慰安所政策について(http://nagaikazu.la.coocan.jp/works/guniansyo.html)』において、『野戦酒保規定(NDL  https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2959709 コマ番号10)』第6条を根拠に「日中戦争期につくられた陸軍の慰安所は、軍の兵站施設である野戦酒保の付属慰安施設であったのであり、その経営を受託された慰安所業者は軍の請負商人であり」と述べていることからも明らかである。つまり、永井の主張においては慰安所とは貸座敷業者として公認された業者と軍の契約において運営されているものということになる。事実、同考察において永井が挙げている和歌山県で生起した軍慰安所の存在を認識していなかった警察が慰安婦募集を誘拐と誤認した件は、正規の貸座敷業者によるものであった。
 そこで『内務省発警第5号 支那渡航婦女ノ取扱ニ関スル件』に挙げられている者を見ると、「(日中両軍による紛争の状況が沈静化した地域に進出する)料理店、飲食店、「カフエー」又は貸座敷【類似】の営業者」とあり、いずれも正規の貸座敷業者ではない。これらは、当時の国内法的には『貸座敷取締規則』(業者の登録制)に違反する違法営業であって、これらの業者において雇用されている者は「公娼」ではなく、本来ならば取り締まりの対象である『娼妓取締規則』(娼妓の登録制)違反の「私娼」に該当する者である。つまりこれらは、支那事変において日本軍が制圧した地域において、そこに駐屯する日本軍人を主な客として利益を上げることを企図して進出する脱法的営業者であって、『内務省発警第5号 支那渡航婦女ノ取扱ニ関スル件』においていう「軍当局ノ諒解」は業者による事実に反する虚偽の宣伝ということになる。
 一方、『陸支密第745号 軍慰安所従業婦等募集ニ関スル件』においては、軍が正規に契約する合法的な貸座敷業者の選定に関する注意であり、業者の選定を適切にするとともに、部外者の介入をさせないよう指示するものであって、私娼への対応を定めた『内務省発警第5号 支那渡航婦女ノ取扱ニ関スル件』とは本質的に異なるものであるのを永井もこの文章を作成した者も看過していると言える。
 前述のとおり、この両文書は「軍の関与の否定」「軍の関与の隠蔽」という一見共通した指示がなされているが、前者は「実際に軍と関係がないもの」の関与の否定、後者は「世間的な体面」を考慮しての関与の隠蔽という性質が異なるものとして理解すべきであろう。

(4) 内務省の「黙認」について
 この文章は、『内務省発警第5号 支那渡航婦女ノ取扱ニ関スル件』における「当分の間之を黙認することとし(第1項)」という記述をもって、「この規定自体が序文に記されている問題(国際条約に違反する人身売買)を解決できていないことを認めていると解釈できる。内務省は前借金契約と軍の継続的な関与によって、日本が条約に違反していると認識し、それを「黙認」したのだ。」と主張している。
 しかしながら、同第5項には「五、醜業ヲ目的トスル婦女ノ渡航ニ際シ身分証明書ヲ発給スルトキハ稼業契約其ノ他各般ノ事項ヲ調査シ婦女売買又は略取誘拐等ノ事実ナキ様特ニ留意スルコト」と人身売買や誘拐等の防止を明記しており、この「黙認」が人身売買や誘拐を黙認したものであると解釈することはできない。
 さらに、前述のとおり、前借金契約は同時代の日本では合法であって、かつ国際聯盟も人身売買の判定をしていない事象であり、その前提において『内務省発警第5号 支那渡航婦女ノ取扱ニ関スル件』は国際条約の問題はクリアしているので前借金契約の存在を以て人身売買であると内務省が判断する理由にはなり得ない。
 当該文書で内務省が懸念しているのは、「料理屋」「カフェー」等の名目で営業許可を取り、当局の貸座敷業者としての営業許可なしに事実上の娼館として営業するこれら脱法売春業者が行う募集や契約を放置した場合、「支那渡航婦女」の年齢や契約条件が日本政府が国際聯盟に説明したものと異なる状態でなされることと考えるべきであろう。
 当時の中支の売春の状況としては、『昭和十一年中ニ於ケル在留邦人ノ特種婦女ノ状況及其ノ取締(※)』に記述があるとおり、中国政府が公娼制度を廃止したことや、廃娼運動を進める婦人団体の申し入れ等を受け、上海総領事館警察が昭和11年までに、海軍とも連携した上で上海一帯における公娼・私娼の新規開業を認めず、娼妓及び私娼の転業等を進め、売春を縮小する施策を講じていた。
 売春を目的とする私娼の増加はこのような方針と矛盾するものの、当時の日本軍において支那事変占領地における現地女性に対する強姦の多発とこれの国際的な報道による軍の威信低下、現地私娼との遊興による性病の多発が問題になっていたため、「現地ニ於ケル実情ニ鑑ミルトキハ蓋シ必要已ムヲ得ザル」ことから、「国内法上は脱法行為である私娼の営業」及び「領事館が縮小・廃止を企図していた娼館廃止の方針に対する逆行」を黙認するという趣旨であって、これにあたり、最低限、人身売買や誘拐の防止、性病の予防というラインは守るという趣旨として理解すべきなんじゃね?
 ※政府調査「従軍慰安婦」関係文書資料第1巻p435

3 まとめ
 なんかねー、文書に書いていない行間を読んじゃって、あたかもそれが文書に記述されているかのような記述をしたり、違うものを同じと言ったり、条約の条文を勝手に変えちゃったり、いろいろ問題あるっていうか、どこどう押せばこういう解釈になるの?陰謀論に行く前に日本語ちゃんと読もう!
っていうアレですよね。つか、固定ツイート外したほうがよくね?ってか、この文章自体リジェクトした方がよくね?まる。

※追記1:当局による「黙認」が人身売買ではなく、日本国内法に定める公娼の許可を取らぬ業者による脱法的売春の黙認であることを示す史料として、大正十四年一月十四日に在天津総領事の吉田茂が外務大臣の幣原喜重郎に宛てた報告文書『買笑婦ノ実況取調ニ関スル件』(アジ歴B06150832800)に見られる「当館管内ニハ公娼ト称スヘキモノナキモ唯酌婦ノ営業許可ヲ与ヘテ事実上娼妓ト同一ノ稼業ヲ為ス事ヲ黙認シ居ルモノ大正十三年末現在日本人一七名朝鮮人四二名及支那人一七名アリ之等ニ対シテハ毎週土曜定期検黴ヲ施行シ・・・」が挙げられよう。

※追記2:2月7日、自民党の山田宏参議院議員がポプラ社の百科事典の慰安婦に関する記述に対し「対応を検討する」とツイートしたことに対し、茶谷さやかちゃんが、Twitterで「今の辞典の表記で問題有りません。政治圧力に負けないでください。」と発言し、それにあわせておきさやかなるれきしがくしゃさんが、「慰安婦や強制連行については既に研究の蓄積があります。それを無視した要求をする議員の要求に屈しないで下さい。」と。「表記に問題がない」「既に研究の蓄積がある」というわりには上記の如きお粗末な状況では、「君の言う事イマイチ信用できないんですけど」とか「必要なものを蓄積できてねえんじゃね?」としか言えないわけでございます。一方、自民党の山田議員については、これまでも自分の管轄外のことについてTwitter上でバカウヨさんに媚びるような発言を繰り返しているおバカさんで、政治家が個別の書籍の記述を検閲するとか、お前少しはものを考えて発言しろよバカ、自民党もこいつに少し注意しろよ、という輩ではあるんだけどね。


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