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慰安婦は軍属であったという主張について

結 論
まー、なんだかんだこじつけて慰安婦を軍属にしたてあげて、慰安婦の雇用や処遇について国家の責任云々を言いたい人がいるみたいだけど、先に結論から言っちゃうと、慰安婦は軍属等の軍の構成員ではない。


主張1:慰安所は軍の兵站関連施設であり、そこで雇用されているのは軍属等軍の構成員である。

 検証結果
 慰安婦が雇用契約をしているのは、軍や軍の部隊ではなく「慰安所経営者(貸座敷業者)」(※1)であり、第 58 回国会衆議院社会労働委員会における厚生省援護局長の答弁においても、①慰安婦と軍の間に雇用関係はない。②慰安婦は売春による収入を得ていた。③戦地にいるため、軍は慰安婦に対して自前で準備できない施設、宿舎等の便宜供与を行っていた。④雇用関係がないので、軍属として援護法の対象とすることは不可能であるとの旨を述べているとおり、慰安婦に軍や国との雇用関係はなく、軍属ではない(※2)。また、朝鮮人慰安所従業員の日記において、軍人・軍属専用の食堂の利用ができない旨の記述(※3)があり、これも慰安所従業員は軍属ではなかったこと示すものである。
 ※1馬来軍政規定集第3号中『芸妓酌婦雇用契約規則』(慰資3-36)
 ※2第 58 回国会衆議院社会労働委員会厚生省援護局長答弁
 ※3 『ビルマ・シンガポールの従軍慰安所』昭和18年4月22日記述 


主張2:慰安婦は軍の命令によって行動していたので軍属である。

 検証結果
 軍は、軍が依頼して設置した慰安所の経営者との間に委任契約(請負)を結んでいるため(※1)、軍は発注者として受注者たる請負業者に対する指揮権は有するが、その従業員である慰安婦に対する指揮権を有さない。このことは、朝鮮人慰安所従業員の日記において、ビルマのイエウに移転予定の慰安所所属の慰安婦に対し、軍の部隊長が同行の説得を試みたが、慰安婦の同意を得られず、請負業者である経営者に対する指揮権を発動したことからも、軍に慰安婦に対する指揮・命令権がなかったことがわかる(※2)。
 ※1陸達第48号『野戦酒保規定』第6条
 ※2『ビルマ・シンガポールの従軍慰安所』昭和18年3月10日、同12日及び同14日記述


主張3:1944年8月、ビルマ北部のミッチーナにおいて複数の慰安婦が米軍の捕虜になっている。戦時に捕虜になれるのは軍の構成員なので、慰安婦は軍属である。

 検証結果
 米軍の調査報告書に、米軍が捕虜の慰安婦から接収した日本軍が発行した慰安婦の営業許可証の雛形が示されている(※1)。ハーグ陸戦規定第13条には捕虜として取り扱わねばならない者として、「直接軍の一部を構成しない民間人のうち、軍が発行した証明書を保有する酒保要員等の軍に従属する民間人」を挙げており、慰安婦の捕虜はこれに該当する。また、これら慰安婦と同時に専業主婦及び無職の朝鮮人も捕虜となっており、米軍は軍と一切関係がない民間人も捕虜としていたことが判明している(※2)。
 よって、米軍の捕虜となったことをもって慰安婦を「交戦者(戦闘員及び非戦闘員からなる軍の構成員)」とみなすことはできない。
 ※1調査報告書No120『AMENITY IN THE JAPANESE ARMED FORCES』(慰資5-137 コマ192)
 ※2厚労省『俘虜名票に関する調査結果概要』(慰資4-363)

主張4:慰安所従業員は「軍夫」あるいは「軍婦」と呼ばれる軍属であった。

検証結果
「軍夫」は軍と契約した労務者であり、制度上は「傭人」となり、正規の軍属である(※1)。これに対し、慰安所従業員は日本軍によって軍の構成員である軍人・軍属と明確に区別される「軍従属者」に区分されている(※2)(※3)ことから、慰安所従業員は軍属である「傭人」には該当しない。また「軍婦」という名称の軍属は日本軍に存在せず、慰安婦が「軍婦」という軍属であったという主張自体が成立しない。
 ※1陸普第3805号『台湾人軍夫の身分取扱に関する件』(アジ歴C01005306500 )
 ※2欧受第1758号『軍法会議の管轄及軍律の適用に関する件』(アジ歴C03024440800 )
 ※3昭和18 3297暗『軍従属者ニ対スル旅行許可ノ件』(慰資1-169)

主張5:慰安婦が軍事郵便局で軍事郵便や郵便貯金を利用している記録があり、軍事郵便は軍人・軍属しか利用できないので、慰安婦は軍属であった。

検証結果
 軍事郵便は、軍事郵便規則において、戦地もしくは戦地に準ずる地域に派遣する陸海軍の軍人・軍属からなる軍関係者、 軍組織に併せて、当該地域にあるもので、軍の許可を受けた者は利用できる(※1)こととなっており、軍事郵便は軍人・軍属以外も利用できる。
 軍事郵便為替貯金は、軍事郵便為替貯金規則において、「戦時または武力紛争時に野戦郵便局及び海軍軍用郵便局で取り扱う通常の郵便為替及び郵便貯金であり、一般人も利用できるが、状況によっては一般の利用を拒絶することもある」旨が定められている(※2)。以上のことから、軍事郵便及び軍事郵便貯金の利用は慰安婦が軍属をであることを示す証拠とはならない。
 ※1逓信省令第6号『軍事郵便規則』第3条
 ※2逓信省令第7号『軍事郵便為替貯金規則』第1条及び第2条

主張6:第58回国会において、後藤俊男衆議院議員の「無給軍属ということで派遣をしておる。さらにこの派遣につきましては、それらの業者と軍との間で、おまえのところでは何名派遣せよというようなことで、半強制的なようなかっこうで派遣されておるというようなことも私聞いておる」(※1)という発言があるので、慰安婦は軍属である。

 検証結果
 本発言は、社会党(現在の社民党の前身)所属の後藤俊男議員の質問内容であり、慰安婦が無給軍属であったとする根拠は提示されていない。
 これについては、「無給の軍属」というものは業務の引継ぎ期間の雇員について、その期間は無給とする場合(※2)や、他省庁職員を嘱託する場合、給料を元所属先で支払うものとして、出向先では嘱託料を無給とするというケース(※3)がある以外、勤務期間を通じて給料が支給されない軍属は制度として存在しないので、事実に反する主張である。
 また、後藤氏本人の発言において、「半強制的なようなかっこうで派遣されている」と述べているが、仮に慰安婦が軍属として軍に所属しているのであれば、業者の仲介など必要なく、指揮系統に従って出動を命令すれば事足りるので、この後藤氏の発言そのものに矛盾がある。そもそも、軍人・軍属に対する命令は当然に強制力があるので、「半強制の命令」などあり得ないことも後藤氏の発言の矛盾である。海軍における数年間の軍隊経験がある後藤氏が、軍の命令系統について知らないはずはなく、後藤氏は慰安婦が軍属ではないことを認識しつつこの質問を行った疑いがある。
 さらに、この質問に対する政府(園田厚生大臣)の答弁は、陸海軍によっても戦争の時期によっても契約内容は異なるので実態は不明であるが、軍との雇用契約があったり、戦闘に参加した実績を証明できるならば、戦傷病者戦没者遺族援護法等の適用も吝かでない旨回答しており、実際に戦闘に参加した、あるいは看護婦として軍に運用されたフィリピンの慰安婦40~50名に対しては、準軍属と認定され、恩給の支給対象としている。それ以外の慰安婦については、政府として慰安婦が軍属であったことにも、それに準ずる「軍の命令で戦闘に参加した者」にも該当しない旨の回答をしている。
 上記の国会における質疑は昭和43(1968)年4月になされたものであるが、その後の日本政府による慰安婦問題についての本格的調査(1992年7月6日、93年8月4日)以降も、後藤氏の主張を裏付ける史料は発見されていない。
 故に、その質問内容は慰安婦が軍属であったことをなんら立証するものではない。
 ※1第58回国会衆議院社会労働委員会第21号(昭和43.4.26)
 ※2『雇員俸給支給令案及傭人給料支給令案』(アジ歴A08071558800 )
 ※3臨防疫第127号『安田幸司ヲ嘱託ノ件』(アジ歴B05015317600 )

注:文中「慰資」とは、 『政府調査「従軍慰安婦」関係資料集成』龍溪書舎出版を示し、ついで巻数、ページ数を示す。

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