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#36 「今」

部屋を後にし、
彼女は、女性の嗜みに部屋出てすぐの化粧室に向かった。
その隙に、
レジカウンターに向かい、会計を済ます。

会計が済み、
エレベーターの【▼】ボタンを押そうとしたところに、
「お待たせ〜」
と、顔真っ赤にして参上した。
「あれ?会計は??」
と、聞かれたので、
野暮ながら
「俺のリサイタルみたいなもんだったからいーの」
「もー!あたしたくさん飲んだのに〜」

【チン】

エレベーターが到着

今いるフロアーがカウンターフロアーになるので、
オール目的のグループが男女8人と入れ替わる形で彼女の手を引いて乗り込む。

彼女は一人では立てる状況ではなく、
俺の手を振り解き、左腕を握りしめてきた。
「大丈夫?」
「なーにーが?」
『だめだこりゃ(汗)』

左にあるフロアボタンの【1】を押し、
【閉】を併せて押す。

数秒
2人の空間になる

1階に着く
2人のために扉が開く

目の前に、
エレベーターを【今か今か】と待つ、
若人がわんさかとそこにいた。
どきっとてしまい、
申し訳なさそうに、
彼女を腕から手に替え、
握り締めてビルの出口を目指して歩き始めた。

引っ張られる手を彼女の顔は少し歪んでいた。
ので、
俺は、腰に手をやり抱えるように、
赤羽駅のロータリーまで一緒に歩いてみた。

彼女の温もりを感じる。

春になったばかりの夜の外気はまだ寒く、
同じように歩くカップルばかりだ。
体を寄せ合い、
色鮮やかに光を放つネオンへと向かっていく。

俺たちは、
駅の改札口に足を向けた。

彼女は何を思ったのか、足を止める。

『?』

「どしたの?」
寄せていた体を離し深呼吸をする。

「あたしね…」
少し間を置いて、心を落ち着かせていた。
「子供ができづらい体なの」
彼女の目には涙が…
「お母さんがね、子宮に癌があったりしてね、遺伝するって。」
「今は、大丈夫なの?体がしんどいとか、恵はないの?」
「うん…大丈夫」
「良かった。未来のことなんてわからないよ。俺もいつ病気や事故に遭うかなんてわからない。
それに、こうして好きな人ができるなんて思ってなかったんだよ。
モノクロで毎日をこなしていくしかなかったのを救ってくれる人も現れたんだよ?」

ロータリーの中央で話す二人の空間は、
特別な空間なのか、
周りに何もないと錯覚させる。
街灯1つがスポットライトかのように二人を照らす。

「俺はね。恵が今、健康でいてくれるだけでいい。
辛いことも嬉しいことも、今一生懸命頑張ってくれるだけで…」
と言いかけたところで、
彼女は俺の口を唇で塞いだ。

彼女の涙が俺の頬に伝った。

唇を離し、
彼女の頬に流れる涙を、指でぬぐい、
持っていたハンカチで拭った。

彼女は、拭ったハンカチを見て、
「おしゃれなの持ってるんだー」
と、小悪魔的なハニカミで、俺に言う。
青と白のギンガムチェックのハンカチ。

「誰にもらったのー?」

と。いつもの彼女び戻っていた。

to be next story…

(あとがき)
なかなか執筆ができておらず、
また、最近皆様の記事も見れておらず、
誠に申し訳ございません。

短文で申し訳ありません。

そろそろ自分のシーズンでこんなスパンになってしまいませんが、
引き続きよろしくお願いいたします。

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