見出し画像

家より心地良い場所

恋も仕事もうまく行かない。
これが大殺界ってやつなんだろうか。
評価をされない職場。
朝から深夜まで残業ぼかり。
同世代の奴らといったら、身を堅めたり飲み会やってたり。

一度慰労会で使ったそのお店は、お洒落な雰囲気の、少し薄暗くて大人な雰囲気のお店。

恋も停滞していて、
仕事もうまくいってんだかなんだかわからなかったが、1日1日が否が応でも足早に、
いや、駆け足で、
いや、ボルトが世界新記録出すくらい速く、
1日があっという間に夜になって、また、寝たのか寝てないのかわからないが、
朝がやってくる。

仕事が残っていたけど、職場を21:30に上がった。

職場から最寄りの駅に向かう途中にある、行きつけの2階のダイニングバーへ。

一階の大衆酒場で、なかなか上に目が、足が向かない。
大衆酒場はいつもごった返しているのだが、
急な階段の上には、薄暗い店内にワインレッドのテーブルクロスが地味に映える。

ラストオーダー30分前に行っても笑顔で迎えてくれる。

「いらっしゃいませー」
「おーっす…」
「疲れてますねー」
っとバーテンダーのユキが半笑いしながらいつものように接する。
奥のキッチンで作業しているもっちゃんも
「いらっしゃいませー今日もいつもの?で、良いですか?」
「いつもの牛肉天ぷら丼ねー」
「ご飯はどうします?」
「うーん帰って寝るだけだから普通でおながーい!」

ユキは何も言わずに、グラスを2つ出し、ウィスキーをワンフィンガー入れて炭酸水を注ぐ。
薄いゴールドのフィズがたくさん出ている。
もう一つのグラスにはウィスキーをトリプルフィンガー入れて、炭酸水を注ぐと濃い目のゴールドに輝いでいる。

もちろん俺もだが、
ちょい飲みコースは2杯と2品ついて1,500円でお手頃価格で
楽しめる。
癒される。
満たされる。

「今日もお疲れですかー???」
っと、奥の水場からサキが声をかけてくる。
「サキの笑顔で、保ててるわーなんとかー」

好きな人へのラブレターも毎日書きに行った。

ほぼ毎日通った。

家に帰るより
心地良い場所

それが奪われた。

三年も通った。
どんな時も…
主にしんどい時がほとんどだったけど、
嬉しい時も分かち合った。
悪い遊びも…したかな。

店は無期限の休業に入る。

そして、3人もどうにもならない状況で、
指を咥えてるわけにはいかない。

新たな門出になってしまった。
こんな早い形で。

もっちゃんは、元は板前で自分のお店を構えたいという目標がある。
ユキはバーテンダーを続けたいと言っている。
サキは、モデルを目指してバイトを続けていきたいと。

まだ若い彼らには、この状況、お店に留まる必要はない。

同じ場所でこう会えることはない。

3人にThank you letterを心を込めて書いた。

3人に幸多きことを切に願うばかり。

本当にありがとう。


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?