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6ヶ月間の英国インパクト投資ファンド勤務を終えてーインパクト投資のグラデーション

記憶がフレッシュなうちに、銀行から英国でインパクト投資の老舗ファンドマネジメント会社に飛び込んだ私の半年間の振り返りを書きたいと思います。
自己紹介参加しているプログラムについては過去記事をご参照ください。
前半はマニアックかもしれないので、詳細を飛ばす方は後半の振り返りに飛んでいただけたら。
なお、この直後に「6か月前の自分の疑問に答える」記事を書いてみました。私のnoteを初めて読んでくださる方がいたら、そちらから読んで頂いた方が前提や全体像が分かりやすいかもしれません。

10月にインパクト投資を行う勤務先(以下、弊社)に入ってから、とにかくいろんな経験をしようと、社内のネットワーキング+色々な案件に入れてもらい、必死に走ってきてあっという間の6か月間でした。一言でいうと、楽しかった!夢のような時間でした。
自分の平日の勤務時間で、社会課題解決に奔走する会社への資金支援について考えられるというのは、ソーシャルビジネスに関心があり決算書を読んだりビジネスについて知ることが好きな私には天職ではないかと。(言い過ぎ)
個人としての働き方や参加するプログラムに関してのまた別の機会を持つとして、この記事ではインパクト投資で働いてみて、の感想にフォーカスしてみようと思います。マニアックになってしまったらすみません。

主に印象に残っていること

◆投資候補先のインパクトが自分達の求めるものに合致しなければ検討の土壌にもあがらない。
当たり前のようで不思議だった。儲かる実が目の前にあっても、解決しようとしている社会課題や解決法(Theory of Changeとしてまとめられることが多い)不明瞭な場合は即パス。

◆勤務先は従業員25人の中小企業
pros 整備されていないことが多くvalue addできる。フラットな組織で働きやすい
cons 外部レポートを買う予算が基本ない、社内システムがないから自分でエクセルを叩くなど。効率化への投資がまだ進んでいない。

◆インパクト投資、という一見ニッチな分野の裏には相当なグラデーションがある。

この狭い業界では有名なSpectrum of Capitalをおさらい。インパクトdrivenの中にもグラデーションがある。

独断と偏見のマッピングなのでぼかすしかなかったのだけど、いろんな人にインタビューしたりデータを集めて作った英国インパクト投資マップはこんな感じ。上に行くほどMarket rateでリターンを求めて、下に行くほどImpact FirstでBelow Market rate。x軸はざっくり資金提供元としてのフォーカスで、左はアーリーステージの企業に投融資していて、右はより成熟したステージ。

独断と偏見の英国社会的インパクト投資マップ

緑ロゴの私の勤務先はインパクトファーストで、適切なリターンを出していこうというスタイル。
英国大手のBridgesはマーケットリターンは確保しながらインパクトを出し続けると公表している。
ちなみに金融機関がインパクト投資に参入しているのは省いてます。入れるとしたら図ののずっと上の方になるかと。

◆BridgesのようなImpact firstではないmarket playerたちも似たような語彙でインパクトを語るため、impact firstのbelow market playerとして自分達のインパクトを伝えることが難しい。

投資家としてはリターンが大きい方が嬉しいのは自然な判断なので、英国ではBridgesのようなmarket rateファンドに投資資金が集まっている現状。
B社の投資先のインパクトが弊社と比べて少ない、と言えるわけではない。推察では、スケーラビリティの高い事業を行なっている会社により多く投資し、弊社はより草の根に近い活動に投資しているのかも?競合のポートフォリオはわからないが。。

競合を悪くいうのは避けたい文化や、自社はリターンが低いというメッセージはあまり届けたくない(リターン向上の為にも日々頑張っている)こともあり、競合と比べた自社のユニークネスを伝えることに苦戦しているように見えた。

◆Patient capitalのちから
このソーシャルセクターではよくpatient capitalという言葉が使われる。辛抱強く待てる資金。
Market rateの人たちは、多くの投資家(LP)相手に当初約束通りかそれ以上のリターンが出続けていることを定期的に説明する必要があるため、ビジネスライクなカルチャーが強い。less patientであると思う。
対して勤務先含むBelow market rateの人たちは、インパクト重視な行動をすることを事前に投資家(LP)とも握っているため、インパクトの存続や最大化をまずは優先して、その上で事業として利益を出し続けられるように柔軟に条件見直しなどを行う。これがpatient capital

とある投資先の方が、いわゆるMarket rateな競合とBelow market rateな弊社両方と働いたことがあるのでインタビューさせてもらう機会があった。
Market rateな競合との打ち合わせはいつも数字を頭に入れて準備してから交渉しに行かないといけない。向こうから提示された条件を飲めるか飲めないか。
弊社との打ち合わせは一緒にパソコンを叩きながら、どうやったらこの局面を一緒に乗り越えられるか話し合う感じ。ありのままの数字をテーブルの上に広げてアイディアを出し合うパートナーシップが有難い、と。
n=1のインタビューではあるが、patient capitalの実態を肌で感じることができた話であった。

◆資金の出し手
Below Market rateである弊社の投資家はBSCや財団等公共の目的を掲げたりチャリティの色がある方が多かった。今後よりリターンを求めている人から投資してもらえるようにリターンやリスクプロファイルを少し変えたファンドを今度ローンチする予定(公開情報)があったりと、将来的にはより多くの投資家を獲得したく、そのために行動はしている。
想定の範囲内ではあったけど私は正直ちょっとがっかりしたかも。やっぱり普通の企業や社会はマーケットレートじゃないと投資できないのかな、という現実を見た気がします。少なくても2023年時点では。

振り返ってみて

インパクト投資の中でのグラデーションが一番印象に残ったしこれからも考え続けると思う。
Market Rate Playerには踏み込めないBelow Market rateのインパクト投資があることを知った。

日本語のTwitterで インパクト投資は儲からないというのはデマ、儲かります! という議論を何度か目にした気がする。
確かにみんな投資家として存続し続けるためのリターンが出るようにプライス設定していると思う。
ツイートされていた方達はmarket rateのリターンが出るところにしか投資しないブティック系のファンドなのかもしれない。日本が国まで巻き込んでとしてインパクトベンチャー!と掲げているのは、まさにこのmarket rateの世界に近いような気もする。

私が奮闘していたbelow market rateの世界では、market rateほど儲からない案件が山ほどあった。そちらには相手にされない、社会の本当に困っている人に寄り添った支援をするチャリティーや社会起業家が弊社から資金提供を受けていた気がする。
ホームレスの人に手に職をつけるよう訓練機会を提供して採用する会社は、みんなが上場や買収のようなエグジットを目指しているわけではない。market rateのリターンが出ない投資は後ろめたいことではない。


利益主義の銀行から来た私としては、弊社って借り手に甘くない?と感じたことは一度や二度ではない。
でも私たちがImpact first(below market rate)でPatient Capitalを提供できるこそ、借り手がそれぞれの社会問題解決にフォーカスして最善を尽くすために(時にファイナンスの条件を見直したりしながら)伴走できるという自負と誇りがあった。

最近私が日本語の情報で私がよく見る「インパクト投資は儲かります!インパクトベンチャー万歳!」は、ぜひぜひ。三方よしで素晴らしいと思う。

ただImpact firstの世界で6ヶ月間走り続けた私としては、
Below market rateのpatient capitalは地味かもしれないけど、社会課題解決の重要な役割をこれからも担っていくと思っている。
国も、いわゆる資本主義の中にある営利企業も、解決しきれない社会課題に、利益を出しながら従業員に給料を払いながら挑戦していく社会的企業の応援者。大企業とかユニコーンベンチャーみたいにバカ儲かりはしないけど、こつこつと課題に向き合って走り続ける企業を専門に投資する、インパクト投資家がいる。
そんな世界があることを、読んでくださった方が心に留めていただけたら。
そして、そんなインパクト投資家にもより資金が流れるような社会になるように、私もこれから考えて行動し続けていきたい。

モデルナへの投資も半導体への投資もインパクト投資と呼ばれ得る昨今、老人ホームで使われるデジタルデバイスへの投資もインパクト投資。ホームレスの就労支援企業への投資だってインパクト投資。

自分は投資を通じてどんな社会的インパクトと金銭的なリターンを求めてたいか、それらは全てグラデーションである。

これからインパクト投資の世界で活動する上でこれからも自分に問い続けると思う。

書き足りないことも多いけど、そろそろ娘が起きてくるのでこの辺りで。

4月からは、インパクト評価やインパクト投資ファンドへのアドバイスを専門としたコンサル企業で半年間働きます。
引き続き更新するので、またお付き合い頂けると嬉しいです。

追記
日本のインパクト投資推進にご尽力されている五十嵐さん(@Take_Iga )から頂いたTwitterリプライが参考になったので許可を頂いて↓
“日本ではインパクト投資はまだPoCの段階で、インパクト投資が日本でも機能することを証明することを優先するため、また早期に実績を作るために、レイターで経済的リターンが得られる蓋然性が高い案件が多くなっているのだと思います。“


PS.過去更新が滞っている部分も、メモはたまっているのでのんびり書いていきます。


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