エアモビリティと地域活性化

次世代モビリティは陸•海・空で起きている移動革命の推進力です。陸ではCASEやMaaSの技術開発が活発化し、海では自動•遠隔操船の開発と実証実験が行われています。そして空では、持続可能な社会を実現すべくエアモビリティの社会実装が進められています。

エアモビリティの社会実装

ドローンは、機体の位置や姿勢を自動制御しながら電気をエネルギーに飛行する無人航空機です。最初は主に兵器として開発されたようですが、今では趣味やエンターテイメントの世界で活躍しています。東京オリンピック開会式でのドローンパフォーマンスはかなり印象的でした。
ドローンは軽量なので気象の影響を受けますが、基本的には安定した飛行が可能なので、人手不足の農業や建設などの業界で利用が加速しています。今後は災害時における迅速な物資輸送や被害状況確認などでも活用され、国民生活の安全を守る機能を果たして行くことでしょう。
現在、大きな期待を受けているのがラストワンマイルのドローン配送で、物流拠点からエンドユーザーへ荷物を運ぶ実証実験が世界各地で行われています。ドローン配送は、物流業界で慢性化している人手不足への有力な切り札であり、都市部での交通渋滞や過疎地域での物流網維持など社会的課題への有望な対策の一つです。

さらに、ドローンを大型にしたような「空飛ぶクルマ」の開発が国内外で加速しています。電動化によるCO2削減と移動時間•コストの低減を目的にしており、大都市の交通渋滞対応と地方での移動手段確保の役割を担います。目標性能は5〜7人の搭乗者で距離200km程度を時速300km/hで飛行すること、サービス用途としては空飛ぶタクシー•トラック•メトロなどが検討されています。日本では「空飛ぶ移動革命に向けた官民協議会」が2018年に発足して、技術や法制度の課題解決の作業が行われています。

空飛ぶクルマは翼を持つタイプの機体も有りますし、当面はパイロットが操縦しますので、一般的なドローンのイメージとは異なります。但し、電気エネルギーとシステム制御で飛行しますし、将来的にはパイロットが搭乗しない自動•自律飛行を目標としていることから、この記事ではドローンと空飛ぶクルマを合わせてエアモビリティとしています。
日本では、小型軽量のドローンと大型重量の空飛ぶクルマを分けて法制度が整備されつつあります。ドローンでは、レベル4に対応した改正航空法が本年末に施行される予定です。空飛ぶクルマは、実証フェーズの目標とされている2025年大阪万博までは現行法制度が適用され、本格的な整備はそれ以降となるようです。

ドローン「レベル4」の実現

現在の航空法は、第三者のいない無人地帯上空でのドローン飛行を認めていますが、一定の条件を満たさない場合(目視外など)には国土交通大臣の許可が必要となります。
ドローンは機械なので絶対に故障や落下しないとは言いきれません。さらに、システムが操縦して飛行するので、テロやハッキングの対象となり易い性格を持ちます。
その為に日本では、①飛行場所②操縦③監視状況の違いによりドローンの飛行レベルを四段階に分類して、航空法の規制を受けています。
       〔飛行場所〕     〔操縦〕   〔監視状況〕
・レベル1 : 無人+有人地帯     人      目視内 ←条件により申請不要
・レベル2 : 無人+有人地帯  システム   目視内      同上
・レベル3 :    無人地帯     システム   目視外
・レベル4 :    有人地帯     システム   目視外  

そして、飛行レベルに応じて(1)機体認証制度(2)操縦ライセンス制度(3)運行管理要領に関する新しいルールが規定されています。
(1)機体認証制度
レベル4の第一種とレベル3以下の第二種の分類があり、機体の構造•機能•強度などが基準を満たすことを確認して安全性を証明します。また、自動車の車検と同様に定期的な更新が必要となります。
これにより、今後ドローンの開発や製造が拡大した際に、技術検証や認証データ取得などで自由に飛行できる実証フィールドの需要が各地域で高まりそうです。
(2)操縦ライセンス制度
レベル4の一等とレベル3以下の二等のライセンスがあり、ドローンを飛行させるために必要な知識と能力を有することを証明します。有効期間が3年なので継続した技量の維持が求められます。
この国家ライセンスは汎用的な共通項目が対象となりますので、実際に農薬散布や設備点検などの業務を行う場合には、さらに各分野ごとの専門的なカリキュラムが必要との指摘があります。従いまして、教育•訓練フィールドとしては汎用的なカリキュラムに適した環境の他に、各産業分野ごとの模擬環境(例えば水田•橋•ビル•風力発電装置など)を整備することも必要と思われます。
(3)運行管理要領
同じ空域を複数ドローンがレベル4で飛行する場合は、衝突等の事故を回避するために事前のルート調整が要求されています。事故が発生した際には、機体回収や負傷者救護の体制構築が求められ、当然に原因究明や対策実施も必要です。
迅速な事故対応には人材育成と試験環境が重要となりますので、自由にドローンを飛ばせるフィールドを各地域で確保することは重要と考えます。

エアモビリティ社会実装と地域活性化

ドローンの飛行高度は基本的に150m以下です。空飛ぶクルマは今後の議論次第ですが、数百m以下の飛行高度が想定されています。
ここで問題となるのは土地所有者の地上権が上空300mまで及ぶと解釈されていることです。この基準が適用されたならば、エアモビリティが高度300m以下を飛行する場合には全ての土地所有者からの許可が必要となり、レベル4の本格的な普及は困難と思われます。今後どのようなルールとなるかは、社会がどこまでのリスクを許容するのかに大きく左右されそうです。

日本では各地域ごとに課題があり、エアモビリティの活用が大いに期待されています。そのためには地域社会の受容と協力が絶対的な条件となり、安全と安心の証明が必須です。安全は技術の開発と検証を積み重ねて実現し、それを目に見える形で地域社会へ伝えることが安心感の醸成にプラスと思われます。
実証フィールドでのドローン飛行試験を一般公開することにより、地域住民の反応や意見を確認することができます。それらを次の段階である実証実験の計画へ反映させることで、実証フィールドから外へ出て地域社会で実施するドローン飛行への抵抗感を下げていきます。当然ですが、実証実験も地域住民へ公開して受容性を高めていきます。
このようなステップは人口密度の高い都市部では難しく、地方を先行させるのが円滑な社会実装へ繋がると考えます。つまり、地方に実証•教育•訓練のフィールドを整備して開発を行い、周辺地域で実証実験を実施して成熟度を向上させ、その後に都市部へ展開するとの流れです。
これが実現できたなら、ベンチャーやサービス企業が集まりますので、地域社会へ仕事を供給できる可能性が有ります。
また、エアモビリティを含めた次世代モビリティによる地域開発は動的なので、技術進歩と共にバージョンアップが必要となり、一度構築された社会実装の流れは継続するものと思われます。整備したエアモビリティの実証•教育•訓練フィールドの活用は続き、その結果として地域交通も維持されることになります。

100年に一度と言われる空の移動革命を好機と捉えて、人口減少下の地域でも持続可能なビジネスを実現する知恵が集まればと思います。


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