鉄道ローカル線の現状と地域社会への影響

人口動態の変化が日本の地域社会へ大きな影響を与えている結果、多くの鉄道ローカル線が存続の危機にあります。人と物を運ぶ公共交通のメインプレーヤーを維持するため、新たなローカル線の活用アイデアが必要です。

タイムリミットが迫る赤字ローカル線

国土交通省資料などによりますと、日本の鉄道会社では、大都市圏の混雑緩和と列車遅延の対策、旅客数減少によるローカル線の赤字対策が長年の課題でした。
大都市圏での混雑と列車遅延に対しては、新線•複線化•線路増設•駅改良•車両大型化•相互乗入れなどを進めており、設備投資に多額の資金を投じてきました。
一方で地方の旅客数減少に対しては、人口減少や少子高齢化などの社会変化が原因なので直接的な対策は難しく、都市部路線の収益でローカル線の赤字を補填することで維持をしてきたようです。
赤字ローカル線の最終処分である廃線は時々話題となるのですが、地域の住民や自治体からの強い反発が予想されるのと、公共交通の使命感により、鉄道会社から提案される機会は極めて少ない状況が続いてきました。
ところが、昨年末にJR西日本は「これ以上の赤字ローカル線維持はもはや困難」と表明し、それ以降、他の鉄道会社も同様の意思表示を始めました。もともと日本の鉄道は、定期券利用客が減少傾向にあり経営が不安定となりやすい要素を抱えてました。そこへ、2020年初頭から新型コロナウィルス感染症に襲われたことで、事態が加速度的に進みました。在宅勤務やWEBミーティングがビジネスの移動を減らし、国内とインバウンドの旅行客が姿を消した結果、ローカル線を都市部で支える構造が機能不全を起こしました。
ポストコロナの時代となっても「一度進んだ時計の針は戻らない」そう判断した鉄道会社が地域社会へサウンディングを始めたのです。

輸送密度が示す赤字ローカル線の実態

既に1970年台前半の時点で利用頻度の低い路線が問題となっており、当時の国鉄査問委員会提言により3路線が廃止されました。近年では、2016年にJR北海道が輸送密度の数値を示して、200人未満の9線区(路線の一部区間)は廃止かバス等への転換を、2,000人未満の11線区については今後の存続可否を、相談したいと地域社会へ提案しています。昨年末から各鉄道会社が発表している路線を見直す基準の値は、JR北海道の輸送密度2,000人を踏襲していると思われます。
輸送密度は一日あたりの平均輸送量で、輸送の規模を比較するための指標です。利用者の人数と移動した距離を調査して、路線の一日あたりの平均通過人数を計算します。当然ですが、混雑している区間と空いている区間がありますので、路線全体を平均した値となります。そのため、路線の輸送密度が2,000人でも、A駅とB駅の間は5,000人、C駅とD駅の間は200人、などは多々ありそうです。
この廃線の目安としている輸送密度の数値は、時代と共に変化しています。旧国鉄時代の1980年は4,000人未満としてましたが、2016年のJR北海道で2,000人未満に下がり、そして本年7月には国土交通省の有識者会議が1,000人未満と提言しています。
2020年時点において、JR旅客5社合計で各廃線基準の輸送密度に該当する路線の割合は、4,000人未満が57%、2,000人未満が39%、1,000人未満が22%です。
1,000人未満の路線が廃線となれば、現在日本の各地域で血管のように張り巡らされた鉄道のレールが至る所で寸断されてしまいます。そして鉄道は公共交通の主役の座から去り、有効な代替交通手段がなければ、多くの地域で人と物の流れが滞り住民が孤立する事態となります。

赤字ローカル線の対策

但し、赤字だからとの理由でローカル線を直ちに廃止するのは、そう簡単ではなと容易に想像できます。代替交通手段の運行、鉄道軌道の撤去、線路跡敷地の所有と管理など問題は多くあります。鉄道会社と地域社会も、何らかの方法で公共交通を可能な限り存続させたいとの思いは強いと考えます。
現在、議論されている主な赤字ローカル線の対策は以下の通りです。
①第三セクター方式:赤字路線を分離し、自治体と民間で設立した新会社へ移管
②上下分離方式:赤字路線のインフラを分離し、鉄道会社は列車運行のみ担当
③廃線:代替交通手段として路線バスなどを運行し路線を廃止
第三セクター方式は、旧国鉄時代から採用されてきました。今後も検討されるケースは増えると思いますが、現状では多くの会社が赤字経営のようです。
上下分離方式は、レール•踏切•架線•信号機•駅•橋•電力設備などのインフラの所有者と、列車を走らせる運行サービスを行う会社を分けた運営方式です。赤字ローカル線の経営で重荷となっているのは、インフラ維持費用や保守作業員不足と聞きます。路線のインフラを分離した場合、鉄道会社は所有者へ利用料を支払うことになりますが、経営が改善するので有力な選択肢のようです。一方、分離したインフラの所有者は自治体となり、維持費用の負担が課題となりそうです。
廃線の場合は、バスの輸送力で代替が可能かを評価します。路線に代わる道路が整備されているのか、雪で不通となる期間はないか、朝夕の通勤•通学の利用者を運べる能力があるのか、などをクリアできずに断念するケースも少なくないようです。
どの手段を選んでも地域の住民と自治体は負担が増大し、人口減少下での経営課題が未解決のままならば、公共交通としての持続可能性に懸念が残ります。

将来的なローカル線の可能性

現在開発が進められている自動車の自動化技術は、全ての道で自動運転を可能とするレベルが最終目標です。そして自動運転の社会実装は、技術の成熟度に合わせて段階的に実施することが計画されています。まずは一定の条件をクリアした限定的なエリア内での走行を許可すべく、本年4月の国会で道路交通法が改正されました。
鉄道の線路は旅客•貨物輸送の専用敷地で、基本的に人の出入りが制限されているエリアです。改正道路交通法の規定により、線路跡敷地は限定的なエリアとして自動運転の走行が可能となります。従いまして、廃線を自動運転バスの専用道路として整備すれば、地域公共交通の維持に繋がりますし、更に次世代モビリティ開発の実証フィールドとして地域振興にも役立つと考えます。実際に、JR東日本は気仙沼線•大船渡船の線路跡敷地で運行している路線バスの自動運転化を目指しています。
更に、ドローンも同様の趣旨で航空法改正が予定されています。その場合には、ローカル線をドローン配送などの実証フィールドとして活用できますし、将来的には地域社会の物流網維持へ貢献できる可能性があります。

赤字ローカル線を次世代モビリティの社会実装で活用することは、既に全国を網羅する鉄道路線が存在している日本の特性に合う、効果的な策と言えそうです。


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