【映画評】ピーター・メダック監督『チェンジリング』(The Changeling, 1980)。
ハンガリー出身の監督が撮ったカナダ映画で、しかし舞台はアメリカである。
交通事故で妻子を失った初老の作曲家が心機一転、歴史保存協会の女の仲介で古い屋敷に住み始めるも、毎朝6時に鳴り響く轟音に悩まされるようになる。そんなある日、男は屋敷に屋根裏部屋があることを発見し、そこにあった子供用の車椅子がいったい誰のものなのか調べ始める。という、これは、ケルト的「取り替え子(changeling)」伝承の現代(北米)版である。
「屋根裏」で見つけた「オルゴール」が奏でる曲と男が久しぶりに作ったピアノ曲とが、メロディーどころか調もピッチも完全に一致するという「音」による仕掛け、降霊術の様子を録音した機械に記録される子供の「声」、そして何より——『悪魔の棲む家』(1979)が示唆に留めた主題たる、地下墓地の代理表象としての——「井戸」等々の描写を本作は大々的に展開する。他に「車椅子」、「階段」、そして最後に全てを燃やし尽くす「火事」をも含めて、本来、19世紀イギリスのゴシック・ホラーのものであった諸モチーフが、1960年代以降、本作の如きアメリカを舞台とする幽霊屋敷映画(カリフォルニア・ゴシック)に接ぎ木され、そこからさらに1990年代のJホラーへと受け継がれることとなる。
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