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【映画評】アン・リー監督『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(Life of Pi, 2012)

 動物園の虎に勝手に餌をやろうとして父親に窘められ「動物には心がある」と反論する幼い主人公。父はいう、「お前は虎の目に自分の心が映っているのを見ているだけだ」。J・バートの主張にも通じるやり取りだ。

 映画の中で相互に関連付けられる人と動物の目つきは両者の間で鏡のような機能を果たすが、平行しこそすれ、それらは同一である訳ではない。その様な映画は寧ろ動物の目つきを完全に理解することはできないということを、或いは人間の目つきがそこに反射しているだけかもしれないということを示唆する。無論、それは動物の世界からの人間の排除を意味する訳ではない。動物と人との間で交わされる目配せが実は非対称であると理解することが、両者の間に何らかの形での相互理解を想定する前に必要だ(Jonathan Burt, Animals in Film, 2002, pp. 71-72)。

 ただし、『ライフ・オブ・パイ』のベンガルトラは「ほとんどが高度なCG技術で創り出された」(パンフレットより)。そうするとこのトラもまた「ロード・オブ・ザ・リング」(2001〜3)シリーズのゴラムに、あるいは『フランケンウィニー』(2012)のスパイクに近づくわけだ。私を画面のあちら側から「見ている」のは果たして何者なのか。

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