ベテルギウスの夜に：おいなりさん
ベテルギウスの夜に：おいなりさん
《この政変は、事前に準備されていたのか・・・あまりにも鮮やか過ぎる》
この作品は、『被災後』の続きです。
ラジオから政府発表が始まった。
「正一位、太政官大臣兼内閣総理大臣、野村善人閣下から
お言葉を頂きました」
めぐたん が、おいなりさん だと言った。男は、何だこの
大時代的な言い回しはと訝しく思った。
正一位と言えば、おいなりさん しか浮かば無い。
太政官政府と言えば、明治維新直ぐ発足した政権の名前で有
る。大日本帝国憲法体制に成る前の国の形だ。
今回、ラジオは、太政官政府と言っている。
何でだろう。嫌な予感がする。
「地球的規模の大災害に対して世界の為に我々日本が、
成す事は、一刻も早く復旧し、世界にハイテク物資を供給す
る事です。
そのため政府が強力な指導力を発揮しなければ成りません。
その強力な指導力を使い。戦後直ぐに有効に働いた傾斜生産
方式をさらに進めた。限り有る生産資源を可能な限り必要な
所へ回し、全てをシステマティックに連携連鎖させて行きま
す。
手始めに停電で暗いと作業が出来ませんのでガラス工房・
美術工芸家にランプの制作をやって貰っています。
この様に強制的に従来直接、生産に関係し無かった人達にも
行って貰います。この強力な指導力を得る為、憲法を停止し
ました。天皇陛下にお願いして、勅語を承りました。
陛下のお言葉をお聞き下さい」
「憲法停止だなんて驚いたね」
男が、思わず言った。
「そんな事、出来るんだ」
彼女も言った。寧ろ問い掛けか。
「無理押しだろ」
彼女の問いに答えた心算だったか、いい加減な事を言い放っ
た。
陛下のお言葉が始まった。
「かかる世界的危機、人類の文明滅亡の瀬戸際に日本国の
責任を痛感し、国政に強権を与える為、３年の期限を切って
絶対権力を太政官大臣に与え、その証として正一位の位を
授ける。
なお、後世、彼が独裁者の誹りを受け無い事を願う」
総理の話に戻った。
「国民の皆様にお願いする時は、ラジオでお願いし、
個別の案件は、係員が直接伺います。場合に依っては罰則を
科す事もありますので気をつけて下さい」
「嫌だな罰が有るんだって」
彼女が言った。
「仕方無いよ。独裁政権だから、政党内や政党間の政治の
ゴタゴタが無く成るんじゃ無い。
案外上手く行くかもしれ無いよ」
男は、適当に答えた。
「ゴタゴタと言ったって共和党政権は、前民政党政権と
異成り圧倒的大多数を占めているから、太政官政府じゃなく
ても強権を発動出来たんじゃ無い」
彼女は、昨今の国内政治にも明るいなと思いながら、男は、
自論を述べた。
「残念ながら、圧倒的大多数と言っても民政党政権が余り
にお粗末なので民政党支持者が棄権したから、単成る敵失
だよ。
前政権のオウンゴールに過ぎ無いし、この前の選挙も民政党
に代わる保守・共和党の反対勢力が形成され無い間に解散し
て勢力を維持したんだ。
決して共和党が支持された訳では無い。その証拠に比例代表
では共和党は過半数割れしている。君が、アイドル卒業後、
キャスターに転身するのだったら分析力が甘いな」
「ひっどぉーい」
矢張り、彼女はアイドル卒業後の進路にキャスターを目指し
ている。男の趣味としては止めて欲しいが、黙った。
ラジオは再び繰り返し総理と陛下の言葉を伝えた。
その間、食後の片づけをした。とんでもない、クデターが起
こり、憲法が停止させられてしまった。
想定外の事項としても甚だしい。ラジオから、政府発表とは
別に総理大臣談話を伝えますと流れた。
「私は、真に大変な時に最高権力者に成った物だと痛感し
ています。
３年間だけ私に力を下さい。前政権の前任者の様に引き延ば
しません。前前任者と違い３年後に政治から縁を切ります。
陰の実力者等、決して成りません。私を信じて下さい」
相当な覚悟は伝わった。でも彼は、使い捨ての看板じゃ無い
のかなと男は、思った。彼らを操ている連中が、居るのは、
明白だ。彼ら、元々の内閣の一員がクーデターを起こしたと
は考え難いし、ベテルギウス大災害を予見していたとは、
とてもとても考えられ無い。
ラジオは、今の事項を踏まえ、田沼総一郎司会で討論番組
を行うと告げ、五十音順に
「元内閣総理大臣浅間次郎、建築家安藤義人・」
と登壇者を告げていた。
「朝まで生テレビ見たい」
「そうだね、田沼総一郎でお馴染みの面々が、そろって
居る見たいだ」
「あ、ゆうこ が居る」
ＮＫＮ６４の王寺優子の名も有った。
「バラエティ班は、お休みだと言って出てるじゃ無い」
「御免ね、こう成るとは思わなかった。でも、めぐたん
は、務められる。役割は」
「ヤング代表として政策が上手くいく方に導くのが、
お仕事」
「流石、よく分かっているね。でも、めぐたん がいても
ゆうこ が選ばれたと思うよ」
「どおして」
不満そうに答えた。彼女達は、表面上仲良くしていると思っ
て居たので意外だが、男は、自分の分析を語った。
「ＮＫＮ総選挙の後で『一票は私達への愛です』の名演説
したでしょう。
今回、独裁の後ろめたさを紛らす為に入れたんだと思うよ」
優子は、ＮＫＮ総選挙開票イベントのトップに成った時の
メッセージで総選挙と名打って居るのに一人一票で無く、
ＣＤを買う事で投票権を得る為の批判を受けて『一票は私達
への愛です』と感涙ものの名演説をしたのだ。
男は、知っている。『愛』の為に昼食を抜いて投票権にした
連中の事をだ。《総選挙》と言うイベントに対しての批判に
見事答えたのだ。見事に批判は覆り、愛する推しメンへの
愛を示すイベントだと認識させられた。
彼女は絶対的エースとして暫く、不動の一位で有ったのは、
当然と思う。
彼女は、グループ卒業を表明している。めぐたん等、
二番手以降は、次の《総選挙》でギラギラしているのだ。
絶対エースが引退する。自身がトップに成る可能性が高いの
だ。
「マリーちゃんの名前もあった」
「外人枠かな、彼女確か父親がバングラデシュでは、
無かったかな」
「詳しいわね」
彼女は嫉妬した見たいだが、アイドルとモデルで
バラエティーを賑あわせるブロンド娘とは種類が違う。
何故か彼女は、話題にしただけで嫉妬の素振りを見せた。
彼女が嫉妬深いのは意外な理由が有るのだが、それは後に！
本筋に戻ろう。
マリーの存在が討論の方向を当局の意図と異成る方向に向か
うとはマリーを不思議系タレントとして笑いを誘う、
オモシロ発言を期待し場を和ませる為に起用したスタッフは
泡を食っただろう。
彼女のルックスは、多くの民族の遺伝子をミックスすると
美形が発生すると言う説の実証例だ。シルクロードで有る
中央アジアに美女の産地が有る。また、ウクライナ等
ロシア圏とヨーロッパとの間も美しい女性を輩出している。
マリーは確かヨーロッパとインド系に属するバングラデシュ
のハーフの父親と日本人の母親との間に生まれた美しい
ミックスだ。
ラジオなので彼女のルックスが、拝め無いのは残念だ。
ラジオだけに字幕も出無い。思えば、便利さに慣れて
しまったものだ。
参加者の名前も把握出来無いけど討論が始まった。
司会の田沼総一郎
「そもそも何でこんな事に成ったの」
天文学者の小出周作
「オリオン座のベ」
田沼総一郎が発言を遮って
「そこは、みんな知っている。何でこんな被害が、起こっ
たんだ」
軍事評論家の渡辺直道
「核攻撃の一種として爆発で生じた強力な電磁波で電子
機器を使用不能にする核爆弾が有ります。
今回の超新星爆発でこの効果が起きたと思われます」
総一郎
「アメリカ大使にお聞きしたい。核攻撃のパターン
ならば、対処しているアメリカの被害は少無いのでは無い
ですか」
米大使
「本国と連絡に依ると、民間は、ダメージの把握が出来て
無い。米軍は、作戦を維持出来て無い。
日本からの半導体・電子機器の供給を出来るだけ急いで下さ
い」
矢張り、アメリカの圧力かと男は思った。
総一郎
「本国と連絡が付くぐらいだから、日本にも通信機器を貸
して貰えませんか」
米大使
「米国内で暴動が発生しているし、中東の情勢や北朝鮮の
動向が気に成ります」
アナウンサー
「韓国から一報が入りました。北朝鮮軍と思われる兵士が
コンビニ・スーパー・食料品店を略奪しているとの情報です
」
軍事評論家
「恐らく組織だった作戦では無いでしょう。
北朝鮮も通信が麻痺している筈ですから、中朝国境でも起き
ているのでは無いでしょうか、何せ腹ぺこの兵士が、
ここぞと暴挙に出たに違い無い」
笑いながら言った。
アナウンサー
「中国から一報が入りました。中朝国境で北朝鮮兵士と
思われる一団が暴れているらしいです。
またウイグル自治区で大規模な暴動が起こっているらしいと
の事です」
総一郎
「らしいとは、どう言う事、まいいか、米大使、
アメリカは中国よりも中東、イスラエルが心配では無いんで
すか。電子兵器立国と言っても良いイスラエルにパレスチナ
のハマスが、いやハマスだけでなく穏健派も周辺のイスラム
教国を名乗る暴虐集団が目立つ為に、ここぞと出るのでは無
いですか」
米大使
「大変心配しています。この危機をどうにかする為にも
日本に頑張って貰いたい」
アナウンサー
「ニュースが入っています？！
「郵便会社と犬猫ヤマト・笹河急便等が、連携を強化し、
国内成ら５日以内に封書が、離島以外届く様に成りました」
「ＪＲ東海道本線・山陽本線に蒸気機関車が定期運行しま
す。当面は郵便専用ですが、特別料金、例として東京・
横浜間が３万円で乗車可能です」
ＮＫＮの新曲が流れた。
「少し休憩を入れて再開します。音楽をお楽しみ下さい」
めぐたん が口ずさんで呉れた。生歌が聴ける優越感に浸り
ながら言った。
「ご両親や事務所に手紙を書いたら届く見たいだから」
彼女が現況を書きながら言った。
「そうそう、ののこ の名前が帰宅困難者に載っていた」
「何処で」
男は、僕に気を遣って言わ無かったのだなと思いつつも少し
冷たいと思った。
「公民館の壁新聞」
「郵便局に行くついでに近くに避難していたら迎えに行こ
う」
「良いの」
「二人きりは楽しかったけど ののこ ちゃんが、一人
だったら可哀想じゃ無い。
それにマネージャやスタッフも居れば今後の対策が立て易い
じゃ無い」
男は、本音と違い建前を言った。
ののこ は男に取ってどうでも良い存在だ。この時は、
そうだった。郵便局で一通五千円との事。ボルなあと思い、
着払いにしてもらった。ののこ は、小平の避難所に居る
らしい。鷹の台駅に隣接する大きな公園に付属する公民館
だ。
マネージャの名前は見あたら無かったらしい。
「１時間、近く歩くけど大丈夫」
「平気、元気だもん」
彼女は、お道化て言った。ラジオの討論が再開したらしい。
総一郎
「東京・横浜間が３万円とは凄いねー」
「リーズナブル」
経済評論家の所沢宅郎と公認会計士の勝負勝世が、同時に
言った。いつもは犬猿の仲として経済関係者バトルしている
二人が珍しく意見一致なのだ。
「そもそも旅行は出来無い、買い物にも使え無い、
通勤にすら使え無い。
本当に必要な人が使用すれば良い。必要な物資は、
国が集中して手配するシステムに成ったのだから、
コスト計算してこの値段より高く成る可能性だって有る」
配給生活以上の事は出来無いって事か。
郵便局の前に人力車が営業していた。
「二人乗れる」
「はい、１キロ千円に成ります」
くだんの蒸気機関車に比べて安く感じた。３０分ほどで
ののこ の居ると言う避難所に着いた。ののこ だけだった。
マネージャは何とか帰って見ると言って別れたらしい。
「寂しかった」
そう言い ののこ は、めぐたん に抱き付いた。
男は軽く言った。
「 ののこ ちゃん避難者の為のオンステージとか遣って
いるかと思った」
ののこ が答えた。
「一人だとＮＫＮオーラが出無いの。あ、当面の保護者
さん、宜しくお願いします」
保護者なのかと男は思った。これで完全に めぐたん
に手が出せなくて残念。
《次は『ジョーカー』》
目次は、『ベテルギウスの夜にプロローグ』にリンクを
張っています！
関連して『ベテルギウスの夜に解説』で特殊な語句を解説
しています！
文末
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