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11 「103万円の壁」問題に見る、国と地方の関係と、地方公務員の本質

 これは、あくまでフィクションですのて、その点を十分理解して、お読みください。

(1 ) 国は制度設計、県は取りまとめ、市町村は実行
 先の衆議院議員総選挙で、国民民主党が大躍進して、その公約に掲げた政策の一つである「103万円の壁を撤廃する」ことが、与党連合の政策調整の中で、焦点になっていました。
 そうした中で、もし、103万円の壁を引き上げると、税収が減少すると、概ね、どの都道府県も市町村も騒いでいます。
 国政選挙の話題が、なぜ、地方公共団体に影響するのでしょうか。
 以前に、以下のような記事の中でも、その原因のとなる、日本の地方自治制度について、明らかにしていますので、ご興味があればご一読いただくと幸いです。

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2 「都道府県」という立場 ~実体のない幽霊のような存在~
   ①国家公務員とは
   ②市町村の職員とは
   ③都道府県の職員とは
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 国の所得税の話なのに、なんで地方が騒いでいるのか。日本における統治体制は、いい悪いの価値判断は別にして、融合型です。例えば、福祉行政について、国は法律や補助制度などをつくる。県は市町村に国からの通知などを市町村や事業者に撒いたり、一部事業を実施したりする。市町村は、県からの通知に基づき福祉の事業を行う。つまり、ある特定分野の行政施策は、国、都道府県、市町村のどこかが専属的に実施をするのではなく、みんなか関わってやってるということです。以前にも、書いたと思いますが、アメリカでは、教育行政は地方の仕事で、連邦政府は、全く口を出せないと聞いています。まぁ、アメリカは、統治機構自体が連邦制という、国が寄せ集まったみたいな統治機構になっています。憲法も最高裁判所も、それぞれの州で持っていて、全く別の国みたいに異なる行政を行っているので、連邦政府が地方の行政に口を出せない、ということもあります。

(2) 国は地方を縛っている!
 日本では、先ほど書きましたように、国がなんでもかんでも、制度設計を行っています。これは、地方財政についても同様です。地方の税収については、国が国会で制定した「地方税法」という法律に基づき、地方が徴収しています。均等割、所得割という二つの類型があり、一つは人頭税的に要は頭数によってかけ、もうひとつは負担能力に応じた負担ということで、お金持ちが多く負担する仕組みになっています。反対に、負担能力がない人からは税金を取らないという考え方があって、それが103万円、つまり、103万円未満の年収であれば、税金はいただきませんということです。本来は国税の免税点なのですが、この免税点も地方税にも適用されるため、103万円の壁を引き上げるというのは、国でも地方でも、この税金をいただかない金額を103万円から引き上げることにするものです。
 つまり、税金をとらない人が増える。だから、地方も税金が減ってしまう。国が国の都合で地方の税金を減らすんだから、国が財源を補填すべきだというのが地方の主張です。
 これは、少し奇異に聞こえるかもしれませんが、現行制度に照らしていえば、至極、当たり前の話となります。日本は融合型の統治機構で、地方分権とかいろいろ言われていますが、この国の仕組みとしては、国が地方のやる仕事を決める、そして、その仕事ができる財源を保障することになっています。
 その制度の象徴的なものが、地方交付税交付金です。本来は、国の財源である、所得税などの一定割合を地方交付税交付金特別会計に自動的に繰り入れる。そこで溜まったお金を、地方に配分することにする。この配分の算定は非常に緻密に出来ている。何せ、この配分に恣意的な要素が混じると、地方の中に不公平感が出て、不平不満が蔓延する。このため、配分の算定には、標準的な地方公共団体のモデルを組んで、そのモデルとなる団体に入ってくるお金、仕事をするために出ていくお金を算出して、それを人口規模や実際の行政需要などによって補正をかけて、収入と支出の差額をこの交付税で補填するという精緻な仕掛けになっています。そして、これらの手続きは、法律、政省令でしっかり規定されていて、交付金を配る総務省の裁量の余地がないように見えます。
 しかし、実際は最後に、調整率という全く意味のわからない統計学的に算出したような数字をかけて、それまでやってきた精緻な計算をガラガラポンしている。この調整率こそ、総務省の力の根源です。特別交付税という災害を中心とした普通の行政需要では測れない財政支出に対する措置も含めて、結局は総務省のお手盛りで決まります。
 だから、都道府県知事などは、総務省出身の方が多い。つまり、OBが知事やってんだから、総務省で面倒みましょうという、選挙はあるものの、天下りの受け入れとその見返りみたいなことが起こっています。やばい世界なんです。
 また、地方は勝手に税金をかけて、徴収することが出来ません。仕組み的には法定外普通税とか、超過課税など独自に税を定めて徴収する制度はあります。しかし、原則として、独自の税金を定める際には、国に協議して同意を得なければなりません。さらに「しかし」なのですが、国の同意を得たからと言って安心は出来ません。昔、神奈川県は、臨時特例企業税という税金を導入しましたが、企業側から無効と訴えられ返還を求められました。最高裁まで争って、結局は、地方税法によって一律に適用されるべき制度に反しているので無効という判決で、神奈川県が敗訴。神奈川県は、企業には、600億近く、利息と元金を合わせて返還したと思います。ことほど左様に、法律の規定は重く、地方独自に税を徴収することは出来ないのです。つまり、財政的に自らの意思を実現出来ない制度になっているのです。

(3) 公共団体であっても自治体ではない。
 こうして、地方がやる仕事やその元手に至るまで、全部、国が決める制度になっています。だから、実務上の工夫はいくらでもできるものの、新たな制度設計など、決まりを作る側のような、本当にやりがいのある、責任がある仕事は出来ない。だから、東京以外の首都圏や都市部の都道府県に就職を考えている、早慶以上の方は、よくよく考えたほうがいい。(逆に、静かな退職を早めに目指したい方にはお勧めします。)合理的な考え方が得意な人、好きな人には特に向かない。地方公務員の仕事は、合理性とは全く対極にあるから。
 公共的な仕事、つまりみんなが嫌がってやらない仕事を、みんなから税金という会費を集めてやっている「雑用係」であることは間違いないですが、口が避けても「自治体」なんていえない。お仕事の内容から、そのお財布まで、国に決めてもらって、国に面倒見てもらっているので、とても「自治」をしているとはいえない。自分で考えて、自分で行動するなんて、かけらもない。みんな、お上(国)のいうとおりにやるしかない。国や上に忠実に、物事を実行する、もっというと、社長(首長)のいうことに盲従して仕事を進めていく、頭を使わない人たちに向いている世界。普通の人間なら、すぐに、モチベーションを失います。そんな中でも、上にいくことだけを目指して頑張れる人たちが偉くなる。だから、余計、頭のいい人たちは排除されていく。(これについては、こちらをご覧ください。https://note.com/shu_yamaguchi/n/n178e2a836e1b
また、頭を使って地方公務員で頑張ろうという人は、それほど頭を使わない仕事に辟易して、しらけてしまう。
 別に、学歴がどうこうではないのですが、頭の良さがいらない世界で、高卒や、マーチを含めて、Fラン大学に至るまて、そもそも大企業などに就職できない人たちが、猪突猛進で上を目指せる環境で、がむしゃらに働いて上にいく。
 本当に合理的な人、頭のいい人は、辞めるか、「静かな退職」になってしまう。
 103万円の壁の話で、地方が反対していた構造から国と地方の関係が見えてくる。一歩進めて、それによって起こっている、地方公共団体の内部の人的資源の状況が丸わかりという、お話でした。
 ですので、戦略でも、総合でも、場合によってはITでもいいのですが、最近流行りのコンサルで知的労働したいとか、また、投資銀行で頭を絞り切って仕事をしていきたい、という人には絶対向かない世界ですよ。いかに愚直になれるか、それが大切。だから、早慶以上の人には、絶対におすすめしません。
 まずは自分のやりたいことやって、そしたら、何かにつまずいちゃって、どこかに再就職しなきゃ、でも、あまり働きたくないとか、そんな時に、一つの選択肢として、地方公務員を考えてみてください。民間志向の人には本当に辛くなる仕事だと思います。
 地方公務員の本質をよくよく見極めてから、考えてくださいね。後悔するのはあなたです。
 地方公務員の本質をおさらいしたいという方は、是非、最初から読んで見てください。リンクは以下の通りです。
https://note.com/jolly_falcon5723/n/n7868924d33fd

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