40歳の子豚、サバンナを行く
杉並区の公園で、まさか自分がネイマールになる日が来るとは思わなかった。
都会生まれの娘に鼻の穴を広げ切って披露した木登りで私に天罰が降った。
膝の軟骨と半月板をやられた。
軟骨に至っては1.5cmほどが折れて消えた。
私には半月板を縫い、骨を割って重心を変える手術とリハビリ生活が待っていた。
当初はリハビリなどそこそこに、さっさとおやつ仲間のばあちゃんたちに若さを見せつけて退院する予定だった。
しかし、全く退院出来る様子がない。リハビリが全く進まないのである。車椅子から立ち上がりバーを使った訓練や筋トレなどはサクサクとこなした。
毎日病室の前を松葉杖で歩き、自主練に精を出す私に
「宮川さん!頑張ってますね!でも、今日は車椅子にしときましょっか!」
と笑顔で行ってくる20歳くらい年下の優しい理学療法士さん。
なぜ?出来てるやん…
さっさと退院したいのに…
若干のモヤモヤを抱えながら入院生活は続いた。
そんなある日、病室の廊下で理学療法士さんとリハビリをする私の前にパートナーが現れた。頑張ってるよ!と必死で松葉杖で歩く私。
むしろ、見せつける私。
ここまで!回復したよ!
「………ブッッッッッ!wwwwwwwwww」
⁉︎
「生まれたての…子豚の…歩幅wwwwwwwwwww」
腹を抱えて笑い出すパートナー。
「全然…歩けてないwww遅すぎる…子豚…wwwww」
止めに入る理学療法士さん。
「旦那さん!ひどいです!そんなことありませんっっっっっ!」
そうだそうだ!言ってやってくれ!この私の頑張りをこのアホにバシッと伝えて!!
「子豚よりっ!歩けて…まぁすwwwwwwwwwww」
この裏切り者ォ!!!!
突然の背信に唖然とする私。
そんな失意の私の前を、同じくリハビリ中の男性が通った。
目の前がスローモーションになる。
可動域を有効に使い、自分の歩幅をゆうに超えた松葉杖の使い手…安定感と共に軽やかな動きを見せつけてくる…退院が近しいことを雄弁に物語る素晴らしすぎる模範演技(違う)。
「見ろ!あれが!サバンナを駆けるキリンだ!こちとらサバンナで捕食される子豚だ!wwwwwwwwwwwこのノロさ…もしやシールドマシンを模してる?wwwwwwwwwww」
背後のキリンが咳き込むと共に吐き出した!
「ぐぐぐっ!……そんなこと……ないっっwwwwwwwwwwwwシールドマシンはダメっス!まじで…やめて下…さいっっっっっwwwwwwwwwwww」
「いやwwwwwwwwwあるでしょ」
「ブフォオwwwwwwwww」
「ブフォオwwwwwwwww」
「ブフォオwwwwwwwww」
私はそれから裏であだ名が子豚になったはずだ。
地味にストレスフルだった入院生活に爆笑をもたらしてくれたパートナーにはちょっと感謝している、がしかし、
パートナーよ…松葉杖使うことになったら、お前覚えとけよ…
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