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自分にとっての苦手が分かった日

二年ぶりに婦人科検診に行った。
本当は一年に一度くらいは定期健診に行くべきなのだが、前の病院が合わなかったり引っ越ししたりなどで行けておらず、気にはなっていたし、つい最近身近で婦人科疾患に罹った人がおり、その影響もあってのことだった。

病院は近くならどこでもいいやと駅近で、予約なしでも行けるところがあったのでそこに行く(一応市のがん検診が受けられるところで選んでいたのだが、誕生日を迎えた時点での住所が適応されるらしく、普通の保険での診察となった)。
比較的空いていて、静かな病院だった。脱毛や美容系の自費診療もやっているらしく、壁にはプラセンタとかにんにく注射に関する張り紙がたくさんあった。

私は婦人科系の検査が苦手で、しかも久しぶりということもあり待ち合いの長椅子でとても緊張していた。過去に一度、同じ検診で気分が悪くなったことがあるから、またそんなことになりやしないかと心配になるのだ。
予約なしでの受診なので少しだけ待って、患者が途切れたところで呼ばれて中に入る。
診察室の中にいたのが男性の先生で、そこで初めて「そういえばいつも女医さんのいる病院に行ってたんだっけ」と気付く。
一瞬後悔したが、まあ検診だけだし、何も相談することもないし、もう診察室入っちゃったし、と気持ちを切り替えて「よろしくお願いします」と挨拶する。
先生は私を見て「初めまして」と言った後「〝てん〟さんですね」と確認した。フルネームで確認はよくあるが、名前だけで呼ばれたのは多分初めてで、その口調から「フランクな先生なんだな」と思った。
そして今日の診察内容を確認され、受付で言ったことと同じようなことを繰り返す。ピルのことを聞かれて数年前から飲んでいることを言えば「じゃあベテランやね」と笑顔で言われ、やはりそういう感じでコミュニケーションを取るタイプの人なんだなと思う。

ひと通り話したところで、じゃあ検査室へ、となりそうだったので、私は以前の検査で気分が悪くなったことを言っておかねばと思ってその旨を伝えた。
すると先生は笑いながら
「じゃあ優しくするね」
と言った。
「優しくするね」
と、再度言った。
先生が笑っていたから、私も合わせなきゃと思って笑いながら「あ、はい」とこたえた。「お願いします」ともいったかもしれない。
その後検査は当然普通に、何事もなく終わって、会計をして、若干の気持ち悪さと下腹部の痛みを感じながら駅へと歩いた。

多分、他意はなかったと思う。というか私が緊張しているのが分かったから、それを解そうとして、どこか面白くなるように笑いながら言ったのだと思う。気にならない人は気にならないし、私が過敏になっているだけかもしれない。
でも私はずっとそのことを考えていた。電車に乗って家に帰って、シャワーを浴びて、今の時間になるまでずっと、気分が悪かった。
「そもそも最初名前で呼ぶ必要もないよな」
とも思った。確認ならフルネームでいいし、なんなら苗字だけでもいい。
とにかく目に見えない部分に深くダメージを与えられた気がした。

私はこの記事で別に男性がどうのとか、女性がどうこうとか議論するつもりはない。
それが彼流の信頼の築き方だったというだけだし、そして私はそういうタイプが苦手だった、それだけの話だ。
私は婦人科のあのY字の診察台も苦手だし、検査も苦手だし、今日は午前中用事があって疲れていたからそれらが重なって余計に神経過敏になっていただけかもしれない。
でも検査結果をきいたら、もう二度とあのクリニックには行かないだろう。

今日、私は新たな自分の苦手に気付くことができた。それだけでよかったと思おう。
相手を変えることはできないが、自分を変えたり、接触を避けることは可能である。苦手を克服することも大事だけど、時には苦手なことを知って、それを避けることも多分、大人のやり方のひとつだ。

だから今日は運がよかった。ひとつ大人になれた。
自分の機嫌を取るために人から貰ったお高いホワイトチョコレートをひとつ口に入れて、次回からは少し遠くても女医のいる婦人科を選ぼうと思った。

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